第18話 四天王

「また、アンデッドか!?」


 ニコルが言った。

 

 次出てくるのはアンデッドじゃない。流れから行くとボスだろ。

 

 黒い霧から何かが出てくる。

 あのシルエット、やはりな。


「やはり大した戦果は上げられなかったか。仕方ない、私自ら手を下すとしよう」


 頭から生える二本の角、黒い外套の男。髪はサラサラヘアで、人間ならなかなかのハンサムだ。


「お主は何者だ!?」


 エアリスが声を上げると二本角の男が見た。


「フェルナンドの王よ、我が名は魔王軍四天王が一人、呪術のドレッド、王都にいる、アンデッドは全て私が生み出したものだ」


 エアリスがゴクリと唾を飲んだ。


「ということは、お主を倒せばアンデッドは消えるというわけか?」

「ふふふ、まあ出来るならね」


 エアリスは剣を掲げた。


「魔族ドレッドに魔法攻撃をかけろ!」


 ドレッドに騎士達から総攻撃が始まろうとした。


「黙れ!!」


 突如、ドレッドから何かが放たれた。周りの騎士たちが倒れていく。

 

 俺には何があったかさっぱり分からない。

 

 すると、ニコル、アレン、ジーク、最後にはエアリスまでもが倒れた。


 え?みんな何してるの?もしかして、死んだフリ作戦?。

 俺も倒れよう。


「おい、貴様は倒れなくていい。貴様には呪いの魔圧は放ってない」


 ドレッドが騒いでいる。

 きっとエアリスかジークあたりに言ってるのだろう。


 俺は仰向けに倒れたフリをしながら、ドレッドの言葉を分析した。

 呪いの魔圧?確か、浅い呪いの一種で食らうと暫く気を失ってしまう、厄介な技だ。

 強いもの程、意識を取り戻すのは早いと言うが。


「お前だよ、第五!」


 え?俺?ていうか口調変わった?

 俺は顔を上げながらゆっくりと立ち上がった。


「全く、手間をかけさせるんじゃねえ。お前には敢えて手を出さないようにしたんだ」


 俺はいまだに状況が分からない。


「あのー、乱暴な言い方が苦手なので、口調を元に戻してもらうってことは、、、」

「ああ?何か言ったか」


 俺はポカーンとした表情を浮かべてしまった。


 こいつ頭に血が上ると、すぐに本性が出るタイプか。

 原作では終始丁寧な口調だったが、やはり現実は違うってことか。


「さっきみたく丁寧に話してくれ。俺、厳つい言葉遣い苦手なんだ」

「うるせぇ!!お前、今の状況分かってるのか?お前は今大ピンチなんだよ。大体、俺がこんな言葉遣いになってるのは、お前が変な行動取るからだろ」


 そ、そうか、俺が悪かったのか。納得できないが謝ろう。


「わ、悪かった」

「ふざけてんのか!!」


 なんで切れるんだよ?


「ドレッド、デュストスは僕の標的だ。これは契約だよ」


 言葉の方を見ると、黒い靄が膨らみ、再度人が現れた。

 ドレッドがチッと言って、隅に下がった。


「フラン兄さん!」

「久しぶりだね、デュストス」


 現れたのは、母性本能くすぐる系の王子ことボセホンのフランだった。


 冒険者活動をするようになってから、俺は兄弟たちと顔を合わせることが少なくなった。

 兄弟たちと腹の探り合いをしているより、体を動かしている方が楽しいからな。


 しかし、まずいことになった。

 あそこにフランがいるってことは、、、。


「飲んだのか?」


 フランは、ん?と目を大きくした。


「答えろフラン兄さん、そいつから渡された黒い薬を飲んだのか?」


 フランは大きく開いた目を戻し、口角を上げた。


「そのことか。デュストス、何故君が知っているか分からないけど、飲んだよ。だからこうして力を手に入れたんだ」


 フランは言いながら手をかざした。

 突如、暴風が吹き荒れる。

 俺はそれをまともに食らい、壁に背中から激突した。


「さすがに史上最速到達C級冒険者もこの力で放たれた魔法を受け流すことは出来ないか」


 あんな暴風で飛ばされると、受け身もなにもあったものじゃない。

 背中が滅茶苦茶痛い。

 俺は剣を杖にして立ち上がった。


「そうだよ、たった一発で気を失ってもらっては困るよ。倒れるなら、この力を全部味わってからにして欲しいな」


 ドレッドは手を出してこない。

 この場はフランに任せるようだ。


 フランはさらに魔法を放ってきた。

 後ろの壁にぶつかったと思ったら、天井に飛ばされ、床に落とされる。柱にぶつけられ、広間中をぐるぐる回された。


 俺は身体強化でダメージを最小限に食い止めようとするが、ぐるぐるされるのはしんどかった。

 だって三半規管が弱いから。

 乗り物酔いしやすいタイプなんだよ。


 何度も壁にぶつけられたが、俺は意識を保つように心がけた。

 “はあ、はあ”、息が切れる。

 

 フランはドレッドから渡された薬を飲んで強化された。

 原作では俺の役目だ。

 なんで、フランにその役が回ってきたのかは分からない。


「フラン兄さん、何故、そいつとの取引に応じたんだ?」


 原作通りなら、ドレッドは俺に取引を持ち掛ける。

 俺はまんまと取引に応じて、力を得るかわりにドレッドの傀儡となるわけだ。

 

 取引には条件がある。力を得てもドレッドの言いなりになっては意味がない。だから、望みを一つ叶えるわけだ。


 俺の場合は兄弟たちを自分の力で葬り、俺が王位を継ぐことだった。

 どう考えても叶いっこない願いだけど、原作の俺はできると思い込んでいたのだ。


「フラン兄さんは、何を条件にしたんだ?」


 フランはキッと俺を睨んで、次第に笑みを浮かべた。


「よくぞ聞いてくれた。僕の望みはデュストス、君だよ」

「なんで!?」


 俺は間を与えずに聞き返した。


 だって、俺が狙われる理由はありますか?

 確かに態度が悪くて、迷惑を掛けて来たけど、最近は改心してちゃんとしてたと思うよ。


「デュストス、君が心変わりなんかするからだよ。元のままの君なら、僕の心は平穏だったのに」


 は?何言ってるか分からない。


 すると、フランが魔法を放ってきた。

 チッ、話を長引かせて体力を回復させようと思ったのに。


「君は元の愚息に戻るんだよ。そうすれば、僕の心に平穏が戻る」


 俺は魔法を避けようと体を動かすが、ダメージで素早い移動はできない。

 それにフランの暴風魔法は範囲が広く、避けるのが難しい。


「俺の心を操れるわけないだろ!」


 俺が魔法を受けて吹き飛ぶと、フランが向かってきた。

 剣で仕留めようってか。


「だから、君もドレッドの黒い薬を飲むんだ。そうして、僕と契約を結び、身も心も腐ってもらう」

 

 フランは愛剣の細剣を抜くと、俺に躊躇なく振ってきた。俺は辛うじて剣で受けとめる。

 フランの剣は速い。ダメージを負った俺では受け止めるのが精一杯だ。


「中々しぶといね」


 フランは至近距離で魔法を放ってきた。


 フランの魔法はドレッドの薬により強化されている。それをまともに食らい、俺は柱に打ち付けられた。


“ガハッ”


 口から血が出た。

 口の中を切ったのか、体の中から出たのかは分からない。

 さすがにこれ以上、攻撃をもらうのはまずい。


「フラン兄さん、兄さんの魔法じゃ俺は倒せないよ」


 俺は強がりを言いながらふらふらと立ち上がった。

 フランは先ほどまでと違う殺気を放った。


「デュストス、君は僕を馬鹿にしているのか。ただ風を吹かせるだけの魔法では役に立たないと」


 フランの言葉に俺は原作の知識を思い出した。


 そうだ、フランは自分の魔法に決定力が無いことを気にしていたな。

 それを聖女と出会ったことで魔法との向き合い方を考えるようになる。

 そして、フランは高威力の魔法に目覚める。


「フラン兄さんは俺と同じなんだ」

「何が同じなんだ?僕は君と違って、魔法、武術、座学の努力を怠らず、王族の一員であろうと努めて来た。その全てを放棄した君と同じだって言うのか」


 フランからは怒りを感じる。

 まあ、愚息と呼ばれた俺と同じって言われて嬉しいわけはないか。


「そういう意味ではない。俺とフラン兄さんは、ジーク兄さん、アレン兄さん、ニコル兄さんと違って、天才じゃないんだよ」

「そんなこと分かっている!」


 フランの手から魔法が放たれた。

 俺は魔力が回復していないため、最小限の身体強化で避けた。


「フラン兄さん、俺と兄さんは凡人だ。だから、魔法を自分の分かるように紐解いて理解する必要がある」

「何が言いたい!?」


 フランは手に魔力を練っている。

 いつでも放てると言っているようだ。

 魔力が回復していない俺では、これ以上は絶対に攻撃は食らえない。


「どうせ兄さんは、自分の魔法は相手を倒すには向いていないと思っているんだろ。自分には大きな風を起こすことしか出来ないからと。だが、それは間違っている。兄さん程、魔力が大きいのに魔法で相手を倒せないなんてことはない」

「うるさい、お前に何が分かる!」

「だったら言うけど、何故風魔法は風を起こせる?そもそも風とは何だ?ウィンドカッターのような殺傷能力を持つ魔法はどのような構造になっているのか」

「分かったようなことを」


 フランは剣を構えて飛び掛かってきた。


 俺は心の中で溜息をついた。


 ああ、俺の今世、ここまでじゃね?

 





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