第16話 ドラゴン
俺たちが走っているうちに、明らかに高ランクと思われる大型魔物が生み出された。
「なあ、ルミエル、ワンダ、ちらっと見えただけだけど、今のドラゴンじゃないよな?」
ルミエルとワンダの表情に、先ほどよりも強い緊張感が宿っているのが分かる。
「おそらく、その予想は正しいかと」
ワンダも頷く。
何で、今ドラゴンが現れるんだよ。
原作が変わってしまったのか。
それとも似ているだけで別の世界なのか?
俺の想いを他所に、ママは先頭をひた走っている。
その間、ママは魔物をバッタバッタと倒している。
今の、Aランクのトロルだよね?瞬殺だったけど。
俺たちが現場にたどり着くと、既に別のパーティーが赤いドラゴンと戦っていた。
レッドドラゴンだ。
「お前たち、大丈夫か!?」
言いながら俺が近づいた。
彼らは王都冒険者ギルドでも高い実力を持つBランクパーティーだ。
「駄目だ、俺たちでは引き止めることすらできない」
リーダーの男が言った。
その間、魔法使いがアイスボールを放ったり、弓使いが矢を放ったりしているがノーダメージだ。
スピードに特化したスカウトが近づいて短剣で切りかかるが、反対に尻尾に吹き飛ばされた。
「お前たちはもう下がれ」
あのドラゴン、様子がおかしい。
知性も高いとされるドラゴンが、あんなに暴れるなんて。
使役されているのか?まさかな。
Bランクパーティーは吹き飛ばされた仲間を抱えて引き下がった。
「ママ、ルミエル、ワンダ、行くぞ」
、、、
あれ、返事が聞こえてこない。
絶対聞こえてるのに。
俺がリーダーに向かないのは知ってるけどって、今はそれどころじゃない。
「ワンダ、風魔法で先制してくれ」
「オーケー」
ワンダが風魔法でドラゴンの脚を狙った。
見事に魔法は命中し、ドラゴンの脚から血が噴き出した。
他の冒険者パーティーから“あれは風の精イシュリアでは”なんて聞こえてきた気がするが、気のせいだろう。
脚に攻撃を食らったドラゴンは、羽を羽ばたかせ空に逃げようとする。
させるかよ。
「ママ」
「分かってるで、ダークランス」
八本の闇の槍が左右の羽に突き刺さる。
ドラゴンが悲鳴を上げた。
よし、次は俺が。
俺は身体強化をかけてドラゴンの懐に飛び込んだ。
でかい胴体を剣で切り込む。
ガキッ、まるでコンクリートを切っているような感触。
硬い鱗に阻まれ、ほとんどダメージは通らない。
ドラゴンは下半身を捻った。
遠心力で振られた尻尾が俺を拭き飛ばした。
俺の体は木に当たって止まった。
身体強化を掛けていたのに、体中が痛い、頭がふらつく。
だけど、今気を失うわけにはいかない。
ドラゴンは口を開けると衝撃波が放った。
まともに食らったママとワンダが吹き飛んだ。
一呼吸置いて、ドラゴンは放ったばかりの衝撃波を再度放った。
標的は俺だ。
クールタイムなしかよ。
そう思った時、俺の前にルミエルが現れた。
ルミエルは両方の手に一振りずつ持った剣をもの凄い速さでさばいて衝撃波を切り刻み、俺を庇った。
ルミエル、お前、二刀流もいけるのかよ!
直後、ルミエルは胸を抑えた。完全には衝撃波を捌ききれなかったようだ。
「坊ちゃま、私がドラゴンの鱗を切り裂きます。同じ場所に全力の魔法を打ち込んでください」
ルミエルが駆けだした。
ダメージがあるのに滅茶速い。
訓練では見たことのないスピードだ。
ルミエルは一瞬でドラゴンの胸元に跳び、剣を振り下ろした。
ドラゴンの鱗が皮膚ごと切り落とされ、血が噴き出る。
しかし、ルミエルがそこで力尽き、動かない。
「坊ちゃま、早く魔法を」
「何言ってるんだよ、お前が逃げてからだろ」
ドラゴンは怒り、ルミエルに対して、至近距離で衝撃波を放とうとしていた。
いや、あれは炎のブレスだ。
しかし、風の刃がドラゴンの腕を切り裂く。
ドラゴンが悲鳴を上げている隙に、ママが闇の魔力でルミエルを掴み取り、避難させた。
「息子よ、準備は出来てるか?」
「ああ、もう十分だよ」
こういうときに俺に決めさせるなよ。
心の中で悪態をつきながらも、俺は手に魔力を集中させた。
シルバーウィードオーガを倒したときに使った魔拳砲は、片腕から放った魔デッポウの拡大版だった。
あの魔法でもシルバーオーガを絶命させることはできなかった。
理由は分かっている。貫通力だ。
俺は魔拳砲と一緒にもう一つの魔法を開発していた。
腕を伸ばし、両手を組んで構える。
これで、使用する魔力を魔拳砲の二倍に高めることが出来る。
今回はさらに魔力をこめ、圧縮する。
それでも貫通力の問題は解決しない。
魔力の形を先端の尖った円錐状にしていく。さらに俺は高速回転を加える。
まだ、コントロールが出来なくて、目標に当てるのが難しかったけど、こんな大きな的ならさすがに当たるだろ。
頼む、決まってくれ。俺の手が圧縮された魔力で光った。
「土手腹に穴開けてやるよ、魔キャノン!!」
俺の手から魔法が放たれた。
そのとき、俺の頭から何かがずり落ちた。
目が塞がれたが問題ない。魔法は命中する。
俺は顔に引っ付いた何かの位置を直し、ドラゴンを確認した。
ドラゴンの腹に魔法が命中し、背中から魔法が出てくる。
ドラゴンはこの日一番の悲鳴を上げて暴れまわった。そこにママとワンダが総攻撃を加える。
やはりドラゴンは甘くない。
「二人とも下がれ」
俺は二発目の魔キャノンを放った。
ドラゴンはダメージの大きさに悲鳴を上げることもできず、動かなくなった。
俺は魔法を放った態勢のまま、息を切らしていた。
「息子よ、ドラゴンはもう倒したで」
ママが俺の肩に手が置いた。
「坊ちゃま、さすがでございます」
ルミエルはダメージが大きそうだ。
「坊ちゃま、あの魔法、あとで分析させてくださいね」
ワンダはまだ元気そう。
三人の顔を見たら、ようやく勝ったという実感が湧き、俺はへたんと座りこんだ。
魔物と戦いながら見ていた他の冒険者たちから“ドラゴンに勝ったぞー”と歓声が聞こえて来た。
これは疲れたけど、嬉しいな。
ドラゴンを倒しても、瘴気から魔物が出てくるのが止まるわけではない。
冒険者たちは次から次へと湧き出てくる魔物と戦っていた。
みんなには悪いが俺は魔力を使ったので、休ませてもらうことにした。
魔キャノンは俺の魔力を三分の一程持っていく。それを二発撃ったのだから、魔力がほとんど空の状態だ。
そして、ルミエルもダメージが大きい。衝撃波を結構まともに食らってたからな。
そんな俺とルミエルをママとワンダが守ってくれている。
そこに一人の冒険者が走ってきた。
「あんたたちがタケルとマサミのパーティーか?」
「ああ、何かあったか?」
冒険者の顔には、疲れと恐怖が見えた。
「スタンピードが本格的に始まった」
そうか。しかし、冒険者たちがいるし、さすがに騎士団も動くだろう。
「ところが騎士団は王都から動けなくなった。街中にアンデットが現れたからだ!」
「なに!?」
伝令役を引き受けていた冒険者から聞いた内容に、俺は頭を悩ました。
アンデットの数が把握できていないが、おそらく騎士団を足止めできるくらいはいるはずだ。
そうこうしいているうちに、魔物たちが王都の壁を突き羽振り、街に侵入するだろう。
「坊ちゃま」
鎧を脱いだ状態のルミエルが言った。
鎧を付けていると、胸を圧迫するので却って痛むらしい。
「どうした?」
「ここは坊ちゃまと奥様、ワンダで王都に向かってください。アンデットは魔法以外の攻撃はほとんど効果がないので、私が行っても役に立てないでしょう。私は、少し休んだら、冒険者たちと魔道具の破壊を進めます」
確かにルミエルはまだ戦える状態ではないだろう。
回復薬は飲んではいるが、ドラゴンの攻撃を受けて、すぐに動けるとは思えない。
では、ルミエルの言った通り、俺とママとワンダで王都に向かえばいい、そう思うよね。
でも、俺はここで言いたい。
俺も魔力回復してないのよ。
まだ、休みたいのよ。
何だったら、体滅茶苦茶だるい。
マンガ読んで、ゴロゴロしてたい。
俺はママとワンダを見た。二人とも真剣な表情だ。
ん?ママがちらっと俺を見た。こいつ、俺の考えに気付いているな。
ママは静かに首を振った。
“ダメやで、観念しろ”って念波を送ってくる。
テレパシースキルなんてないけど、分かるんだよ!
俺は出来る限り、真剣なトーンで口を開いた。
「分かった。俺とママとワンダで王都に向かう。ルミエル、無理するなよ」
「分かっておりますとも」
俺とママとワンダは王都に向かって走りだした。
途中、近くにいたBランク冒険者のリーダーに声を掛けた。
「うちのルミエルが無理していたら止めてくれ」
「フ、坊主、冗談きついぜ。千剣のガイエルを俺たちごときに止めろって言うのは」
え?何その厨二病的な名前は?誰?
「ま、まあ、できたらでいいから」
俺は、そう言うと、すぐにその場を後にした。
走りながら、原作知識を思いだす。
アンデッドと言えばあいつだ。
何で今、あいつが攻めてくるのかは分からない。
ついでに言うと、俺は絶対勝てない。
だから行きたくない。
何故、破滅に向かって走らなきゃならないんだ?
今日の厄日、誰だ!?
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