第25話 とても柔らかい……マシュマロのようでした 【全力土下座】
触ってしまったものは仕方ない。
過去はどうやっても訂正できないのだ……。
なので今の自分にできることは、全力で土下座をすることだった。
「澄恋さん、本当に申し訳ございませんでした!!!」
「そ、そんな! 頭を上げてください! 私、気にしてないですから」
「いや、そんな簡単に許したらダメだって! 澄恋さんの胸は、そんな軽々しく触らせていいものじゃないんだから!」
——って、触れた俺が言うなって話だと思うが……。
だが、初めて触った女性の胸は、この世のものとは思えない幸福が詰まっていた。全力で謝らなければならないのに、つい口元が緩んでしまう。
「それよりも……先輩、いったいどんな夢を見てたんですか?」
土下座をしていた俺の前に座り込む澄恋さん。心のなしか瞳のハイライトが消えた気がするのは気のせいだろうか?
「先輩、すごく幸せそうな寝顔をしていましたけど……もしかしてとっても良い夢を見ていたんじゃないですか?」
ジワリジワリと退路を断たれていくような脅迫感。あ、アレを説明するのか?
俺の性癖丸出しな、ケモ耳(ついでに巨乳)なワンコ澄恋さんとイチャイチャしていた夢を……?
「……あ、先輩。目が泳いだ。やっぱり女の子との夢を見ていたんですね。え、私と一緒に寝ていたのに……? しかもたくさんキスをした後なのに……?」
いや、だからあんな夢を見たと言った方が正しいのだけれども。
え、澄恋さん? ちょっと勘違いをしていませんか? 俺が見たのは君の夢。一見、浮気のように見えるかもしれないが、浮気じゃない。
「一体、どんな夢を見たんですか?」
「あ、甘えん坊になった澄恋さんと仲良くしている夢を——……」
「え? 私……?」
まさか自分だと思っていなかったのか、彼女は目を大きくして頰を赤らめた。口元を手で隠して必死に戸惑いを誤魔化していた。
「甘えん坊になったって……どういう意味ですか?」
「え? そ、それは……俺のことが好き好きーって、ギューっとしたり。撫で撫でしてって、胸元に抱きついてきたり」
「え——っ!? そ、そんなことを?」
いや、冷静に考えてみたら、俺の夢だから俺の願望だよな。うわっ、言ってて恥ずかしくなってきた。その上「オッパイ触ってもいいよ」だなんて言ってきたと白状したら、きっと冷たい凍るような目で見られるに違いない。
だが、意外にも澄恋さんの反応は悪くなかった。むしろ夢の自分に嫉妬するそぶりを見せてきたほどだった。
「……ズルい。私も蓮先輩に頭を撫でて欲しいのに」
少し唇を尖らせて、拗ねた様子で覗き見る彼女が可愛くて仕方ない。思わず喉が鳴った。
「夢の中の私とも、キスしたりしたんですか?」
「い、いや! してない!」
「本当に……? 先輩、怪しくないですか?」
グイグイと顔を近付けて距離を縮めてくる澄恋さんにタジタジだった。所詮は夢なのに、何でこんなにムキになっているんだろう。
「私だって、先輩に甘えたいのをずっと我慢してるのに、ズルいです」
「そ、そんなことを言ったら俺だって澄恋さんと色んなことしたいし」
すると彼女は俺の胸倉に手を添えて「例えば……?」と尋ねてきた。
「私、彼氏いたことがないし、友達と恋バナとかもしたことがないから分からないけど……普通の恋人たちって、どんなことをするんですか? 手を繋いでデートとか?」
「さぁ……、俺も彼女いたことがないから分かんないけど」
ただ、世間の恋人たちはもっとスゴいことをしていると思うが、俺もリードできる自信がないので言葉を飲み込んだ。
先に進みたい気持ちもあるが、青春を奪われてきた俺たちだから、ゆっくりと育みたいとも考えていた。
「とりあえず俺は、澄恋さんが好きなものが知りたいかな。何が好きで、どんな映画が好きなのかとか。どんな音楽を聴いて、どんな服装が好きなのか」
俺の言葉で澄恋さんの強張りがほぐれていくのが見て見えた。胸元に置かれていた手が、俺の手に重なり、そのまま絡めてきた。
「……私も蓮先輩のことをもっと知りたいです。どんな食べ物が好きなのか。甘い物が好きならば、一緒にカフェ巡りをしたいし、映画やドライブにも行ってみたいです。きっと先輩となら、全部楽しい」
想像しながら笑みを浮かべる彼女が可愛過ぎて、俺は思わず前屈みになってしまった。
——澄恋さんと一緒にいると、心臓がいくつあっても足りねぇ……!
(あー、しかし……こんなことなら素直に「もっと過激な恋人同士な営みもしたかった」と言えばよかったのだろうか?)
純粋無垢でエロ耐性がなさそうな彼女を困らせなくないと思っていたが……意外と積極的だし、言葉にしても良かったのではと思う時もある。
(けど、何だろう。俺の本能が早まるなって訴えているんだよな。まぁ、澄恋さんには絶対に嫌われたくないし、慎重になるに越したことないと思うのだが……)
まぁ、俺も数ヶ月後にはこの時の判断が正しかったと思い知ることになるのだが。
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