第23話 「んっ……♡」【♡有】
眠たいからと、早めに帰ることをせがまれたのに、俺たちは部屋に入って早々キスをして、快感を分かち合っていた。
脳に直接響く擬音語に誘われながら、どんどん溺れていく。控えめながらも絡んでいく指の存在感。挙げられた彼女の片足が、逃がさないみたいに腰を摩ってくる。
「んっ、先輩……好き、好き……好き、好きィ♡」
俺の名前を呼びながらするものだから、互いの唇が触れるたびに過激さが増していく。
理性の枷が外れたせいか、澄恋さんの愛され欲求も止まらない。このままでは、俺の欲望のほうが先に爆発してしまう。
「あっ、ん♡ 先輩、れん先輩……♡」
——ヤバい、コレ……止められる気がしない!
「澄恋さん、待って。とりあえず部屋に入ろう。ここはあまりにも……」
「あまりにも……?」
耳を澄ますと、ドアの向こうの生活音が聞こえてくる。自分たちに聞こえているってことは、向こうにも聞こえているんだろうか?
そして他の音を聞いたことで我に返った澄恋さんは、赤らめた顔を隠すように俺の胸元に埋めてきた。
「ご、ごめんなさい、私……」
キューッと胸が締め付けられる。そのギャップはダメだ。抱き上げて、そのままソファーへゆっくり下ろした。
はじめてのお姫様抱っこに耳まで紅潮させた澄恋さんは、顔を覆うように手を上げていた。だが、その手首を掴んで自由を奪い、自然と押し倒した体勢になっていた。
「あ、あの……」
「——うん」
二人とも昨日からロクに睡眠を取っていない。それに真由のせいで考えることも多くて、脳も疲労困憊だ。
それでも俺たちは互いの背中に腕を回して、ひとつになるんじゃないかってくらい身体を寄せ合った。
「蓮先輩——。私、いま……すごく幸せです」
「俺もだよ。澄恋さんのことが可愛くて、可愛くて仕方ない」
さっきまでのキスとは違って、今度は大人しい触れるような口付け。おでこ、こめかみ、そして頰にして、俺たちは深く息を吐いた。
「ひと休みしてから、また色々考えよう。俺も少し休みたいかも」
「ですね。時間はたくさんあるし、しないといけないことも山程あるし」
その山程の中に、二人のイチャイチャは含まれているのか気になったが、あえて言葉を飲み込んだ。野暮だし、また火をつけたら大変だ。
「ねぇ、先輩……目を覚ましたら、キスして起こしてくれますか?」
「え……!?」
まるで童話のお姫様と王子様のようなシチュエーションに、思わず目開いて驚いてしまった。やっぱり女の子はベタな行動が好きなのか?
(男で言えば、裸エプロンで出迎えて欲しいみたいな……そんなベタな願望か?)
「俺はいいけど……澄恋さんが先に目を覚ました時は、どうやって起こしてくれるん?」
「え?」
思わず聞き返してしまった。恥ずかしい……! 俺は何てことを口にしたんだろ!
とは言え、よくある【朝、幼馴染が起こしにくる状況】みたいなことをしてもらいたくて、つい言ってしまった。
『もう、いつまで寝てるの? 遅刻しちゃうわよ?』
——うん、男なら一度は夢見る起こされ方。でも何か違うもんな。同じソファーで寝るんだし。遅刻じゃねぇーし。
「それじゃ私も……キスして起こしますね」
柔らかく笑った彼女の目が優しくて、胸が高鳴った。するのと、されるの、どっちがいいだろう?
(ヤベェ、眠たいのに眠れない。しかも下半身もガチガチ過ぎて、抜くまで興奮がおさまらない)
しかも人生初の腕枕。無防備に体を預ける彼女の寝顔が愛しくてたまらない。重たいし、身動きが取れないのだが、皆がやりたがる理由が分かった気がした。
これは俺の彼女感が半端ない!
そう実感した瞬間、胸の奥がじんわり温かくなった。興奮とは違う、安心に近い感情だ。
澄恋さんは俺の腕の中で、小さく寝息を立て始めていた。さっきまであんなに熱を帯びていたのに、今は嘘みたいに穏やかな顔をしている。
(……ほんと、ずるいよな)
守りたいとか、離したくないとか、そういう感情が一気に押し寄せてきて、下半身の主張なんてどうでもよくなっていった。
起こさないよう、そっと彼女の髪に頰を寄せる。シャンプーの残り香と体温が混ざって、妙に落ち着く。
「……おやすみ、澄恋さん」
聞こえているか分からないくらいの小さな声で呟くと、彼女が無意識に俺の服をきゅっと掴んだ。
それだけで、今日はもう十分だと思えた。
——目を覚ましたら、キスして起こす。
そんな約束を思い出しながら、俺もゆっくり目を閉じる。
先のことは、また起きてから考えればいい。
今はただ、この幸せを逃さないように抱きしめていた。
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