第1話「少年と転生とスケッチブック」

「う…う〜ん…」


どれだけ時間が経っただろうか。カケルは目を覚ます。周りにはお花畑が広がっていた。蝶が美味しそうに蜜を吸っている。


「え?何処ここ?」


キョロキョロと周りを見渡し、自分の身体をペタペタと触る。


「え?え?俺、轢かれたよな?何で身体なんともないんだ?そもそもここ何処だ?お、おーい!誰かいませんかー!?」


カケルは頭を捻る。すると一つの考えが浮かぶ。


「あ、分かった。天国なんだな!」


天国。そうだ。自分は死んで天国に来たんだ。カケルは安堵する。


「なーんだ、天国か〜。まあ、あれだけ血とか吐いてりゃそりゃ死ぬわな。よし!グダグダしててもしょうがないし、天国から始まる第二の人生、楽しむとしますか!」


カケルは伸びをして体操をする。


「いや〜…」


カケルは周りをウロチョロし、また元の場所に戻って足踏み。花を見ても一面同じような花ばっか。


「…暇だな〜…」


カケルはため息をつく。天国がこれ程退屈なものだとは思わなかった。


「待てよ?天国だったら空飛べんじゃん!よ〜し!シュワッ!」


カケルはジャンプして空を飛ぼうとするもピョンと跳ねただけで翼なんて生えず地面に顔を激突させる。


「いでっ!?空も飛べねぇの〜!?どうなってんだよ!教えはどうなってんだ〜…!」


するとカケルは足元に何かある事に気づく。拾うとそれはスケッチブックだった。


「ん?これって…」


間違いない。子供の時から使っているスケッチブックだ。ペラリとめくると自分が今まで描いたモンスターやロボットがそこに描かれている。


「わ〜…!俺の描いたモンスター達だ!そうか…!神様、天国でも寂しくないようにこのスケッチブックも送ってくれたんだ!君達がいるだけで寂しくないや!」


その時、スケッチブックに描いてある絵が一瞬動いたように見える。


「うん?」


カケルは目をこするも気のせいかと思い、スケッチブックを脇に挟んで、歩き始める。


「いや〜、それにしても天国か〜。もっと歩けば多分なんかあるだろ。観光名所とかないかな?」


あるわけないだろ。と言いたくなるようなカケルの独り言。森の中に入っていき、キョロキョロしながら歩いているとボフッと巨大な動物の尻にぶつかる。


「わっ!?何だこれ?お尻?」


するとその動物は動き始め、体全体を回れ右してカケルの顔を見る。


「ん?」


カケルの額から一瞬で汗が溢れ出してくる。動物の正体はデカい狼だ。カケルは汗がダラダラ垂れているが、狼からはヨダレがダラダラ垂れてくる。


「あ、あの〜…こ、こんにちは〜。本日はお日柄もよく〜…」

「ジュルリ…」


狼はカケルの挨拶に舌なめずりで返す。


「えっと…その〜…もしかしてだけど〜…もしかしてだけど〜…これってもしかして…」


次の瞬間、狼は襲いかかってきてカケルは慌てて逃げる。


「ピンチなんじゃないのー!?」


狼はカケルを追いかけてくる。2メートル程ある巨体で。


「助けてー!?バスケット選手並みにデカいよあの狼!?いや待て諦めるな!諦めたらそこで試合終了なんだからってそんな事言ってる場合じゃねえ!」


カケルは軽いパニック状態になり、突拍子もないことを次々と言いまくる。


「何でだよ〜!ここ天国じゃ…うん?」


その時、カケルの脳内に巡るある記憶。


「(何だこれ?異世界転生小説?トラックに轢かれた主人公が、異世界に転生してチートを手に入れる…ほ〜。最近はこういうのが流行りなのか。覚えとこ。)」


それは主人公が異世界転生する小説を見つけた時の記憶だった。


「まさか…ここって天国じゃなくて…異世界!?ほ〜、まさに良い世界!な訳あるかボケー!?今絶賛低評価を押したい所なんだけど!?」


狼から逃げながら自分がいる世界が異世界だということに気づくカケル。


「はっ!?待てよ?チートだ!多分俺はチートを持ってるんだ!よし!だったら高評価だ!出でよ!チート!」


カケルは立ち止まり、狼に向かって手をかざすも、何も起きない。


「そんな上手い話世の中そうそうないってね!」


カケルはまた逃げる。


「グルァ!」


だが、遂に狼は痺れを切らしてジャンプし、カケルにのしかかる。


「がはっ!?」


カケルは倒れて思わずスケッチブックを手放してしまい、スケッチブックは地面を滑る。


「グルルルル…」


狼は爪をカケルに食い込ませる。


「がぁぁぁ!?」


爪が食い込んだ背中から血が出てくる。そして狼はガバっと口を開き、ヨダレを垂らしながらカケルを頭からかぶりつこうとする。


「(俺…また死ぬのかよ…第二の人生…短かったな…)」


カケルは食われる直前、そんな事を思う。すると次の瞬間、眩い光がカケルと狼を覆う。


「ガルッ!?」


狼は目をつぶり、カケルから離れて後ずさる。


「え…?」


カケルが光の方向を見ると光っていたのはスケッチブックだった。


「ま、まさか…!」


カケルはヨロヨロと動き、スケッチブックを手に取る。慌ててめくると自分が描いたモンスター達が光っていた。


「…!絵が…光ってる…」


するとスケッチブックから声が聞こえてくる。


「カケル!我らを呼んでくれ!」

「マイメン!俺達、マイメンに力貸したいんだよ!ヒィア!」

「カケル!一緒に戦おう!」


重厚で威厳ある声、チャラくてノリノリな声、優しく勇敢な声。


「…!呼んだら…どうなるの?」

「実体化出来る!カケル!」

「…!分かった!出て来い!キシナイト!」


カケルがその名を呼ぶとスケッチブックの光が更に眩く光って絵が飛び出し、実体化する。


「ふん!」


カケルの前に現れたのは白銀の鎧を身に纏い、左手には盾、右手には剣。騎士型スーパーロボット、キシナイトだった。


「ようやく会えたな、カケル。我が創造主にしてかけがえのない友よ!」

「キシナイト…!本当に君なの…!?」

「マイメン!」

「僕達も!」


スケッチブックから聞こえてくる声にカケルは答える。


「ラジカセマン!ホウタイラ!」


ステレオラジカセを頭にし、肩はスピーカー、身体はビデオテープで出来ている人型モンスター、ラジカセマン、包帯をぐるぐる巻きにしているミイラモンスター、ホウタイラが現れる。


「ウェーイ!オレっちラジカセマン!シクヨロー!」

「ホウタイラここに見参!決まってるかな?」

「ラジカセマン…!ホウタイラ…!」

「ウェーイ!マイメン!助けに来たぜー!」

「待ってて!」


ホウタイラは包帯を伸ばし、カケルの傷に巻き付け、血を抑える。


「グルルルル…!ガオー!」


狼は向かってくる。しかし、ラジカセマンが音楽を鳴らして威嚇。狼はたじろぐ。


「はあっ!」


キシナイトは狼の腹を殴り、空へと吹っ飛ばす。


「ガウー!?」


そのまま狼は星となる。


「やった!」

「ウェーイ!オレっち達の勝利!」

「やったやったー!」


カケル、ラジカセマン、ホウタイラは喜び、キシナイトは腕を組んで満足気になる。


「キシナイト…ラジカセマン…ホウタイラ…ありがとう!」

「ウェイウェーイ!礼を言うならオレっち達だぜマイメン!」

「え?」

「僕達、カケルに描いてもらって本当に嬉しかったんだ!だからこうしてお喋り出来るのが本当に嬉しい!」

「私もだ、カケル。これからはこの世界で共に生きよう。」

「…!うん!よーし!これから第二の人生スタートだ!」


こうして始まったカケルの第二の人生が始まった。この先どんな事になるかは分からない。それでも、カケルは前を向いて進んでいく。仲間と共に。

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