れんがどーーーしてもと言うので、オレは恋と腕を組んで登校した。昨日まで女だった恋は、男になってから妙に積極的だ。


 よく、ラノベとかゲームとかで、朝、おさななじみの女の子が(さっきみたいに)主人公の男の家に迎えに来るシーンは、あるじゃん。そんな日常が定番の風景になっていて、断る方が逆に相手を意識しちゃっているじゃないの、的な。恋とはそういう甘酸っぱい青春のイベントはなくて、むしろ、同じ高校に進学してからの恋は、妙にオレを避けるようになっていた。おとなしめの女の子たちのグループに所属していて、部活はマンガ研究部。休み時間はマンガの話で盛り上がっている。オレは遠目に見ているだけ。男のオレが混ざりにいくのは、なんだか気まずい。


「れんちょん、んだ!」


 教室に入るなり、恋と仲良しの女の子ふたりが駆け寄ってきた。オレはしれっと離れて、オレの席に座る。、ってなんだよ。


「そうなのー」

「声、ひっく!」

「え。そうかな?」

「自分の声って案外わかんないよねー。ほら、言うじゃん。相手に聞こえている声とは違うって」


 ふたりが恋を挟む。恋の背丈は、このふたりとそんなに変わらなかったはずなのに、男になってからは頭ひとつ分、恋がデカい。


「そうなんだ。録音してみよっかな……」

「そうだよ。記念にもなるし」

「写真も撮っとこー!」


 なんだよ。男になっても、結局いつものメンバーでつるむのかよ。


目白めじろ氏」


 後ろの席の桃山ももやまに肩をつんつんとつつかれた。


「なんだよ」

「拙者には姉上がりましてな」

「知ってるよ。出来のいいお姉さんだろ?」


 桃山はいいヤツだが、手遅れレベルのシスコンだ。スマホの壁紙はお姉さんの写真。


「姉上から『性転換週間トランスセクシュアルウィーク』なるものの話を聞いたことがありましてな」

「とらんす、何?」

「魔女にお願いすると、とかなんとか」

「詳しく聞かせてもらえるか!」


 オレが食いついたとみて、桃山は口角を上げる。お姉さんの自慢話を交えながら、桃山はその『性転換週間』について説明してくれた。


 要約すると、

 1.SNSで魔女にダイレクトメッセージDMを送ると、魔女から返事が来る(返事が来るかどうかはランダムで、魔女の気分次第)。

 2.魔女の指定した場所へ行き、魔女の指示通りに呪文を唱える。

 3.翌朝、肉体は希望した性別に変わる。

 4.一週間経つと、元の肉体に戻る。

 というものだ。


「なんだよ、その、魔女って」

「このアカウントではあるまいか?」


 桃山がオレに見せたスマホの画面に、魔女のアカウントが表示されている。アイコンが緑色の肌の魔女だ。オレは検索し、魔女のアカウントを見つけ出して、フォローした。


「コイツのせいなんだな、恋が男になったのは」

「理由はそれだけであろうか?」

「なんだよ?」

翠川みどりかわ氏なりに考えた末、こういう手を取らざるを得なかったのではなかろうか」

「……」


 なんだよ、それ。


 思い当たる節は、なくはない。オレが見過ごしていたいくつものフラグが、あったのかもしれない。……にしても、こんな魔女とかいう得体の知れないヤツに頼むか?


「目白氏?」

「つーか、こんな、魔女なんてヤツ、初めて聞いたんだけど」

「ああ。拙者も姉上から聞かなければ、一生知り得なかったであろうな。姉上曰く、女の子の間で『都市伝説』がごとく語り継がれているらしい」

「道理で」


 授業開始を告げるチャイムが鳴る。恋の席に視線を向ければ、恋もこちらを見ていた。一週間、か。

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