女の子からTSした男の子×おさななじみの男の子のカップリングは成立しますか?

秋乃光

「おっはよー!」


 スカートを穿いた男が、玄関に立っている。右手を挙げて、親しげに挨拶をしてきた。


「お、おう」


 誰だ……こいつ……。

 こんなヤツ、オレの友だちにいたっけか?


 ていうか、母さんもなんで玄関に上げてるんだよ。家のドア開けてやるなって。いくらオレが通っている高校と同じ制服を着ているからって、月曜の朝っぱらから女装しているヤツなんて、何を考えているかわからなくて怖いだろうが。


「おっやぁー? おさななじみの変化に、びっくりしちゃって言葉も出ない?」


 オレのおさななじみにこんなヤツはいない。

 こんな……オレよりガタイのいい男、いない……。


 ムッキムキだよ、ムキムキ。ウエイトリフティングの選手かってんだ。上腕がパンパン。パツンパツン。上着の腕の部分の悲鳴がかすかに聞こえてくる。太ももなんてオレの腰回りぐらいありそうだ。丸太のような足、って表現があるけど、まさにそれ。


「おれだよおれ! れんだよ、れん!」


 目の前の男が、おさななじみのれんの名前を連呼する。オレはまぶたをこすった。悪い夢でも見ているんじゃないか。もしこれがオレの夢の中なのだとしたら、オレはなんて趣味が悪いんだ。自分にドン引きだ。


「どうしたらわかってもらえるかな……あ、そうだ。生徒手帳を見せればいい?」


 持っているスクールバッグは、恋のもの。ぬいぐるみが付いている。中学校の卒業遠足で行ったテーマパークでオレが買ってやったヤツ。


 こういうのは子どもっぽいからやめとけよ、と言ったら「どうしても欲しいの!」と店の中で寝転がりやがったのを思い出す。手段が幼稚園児。リアル幼稚園児だった頃からまるで成長していない、オレのおさななじみ。


「ほら! 翠川みどりかわ恋!」


 どうだ、と生徒手帳の顔写真を見せつけられた。恋のだ。幼稚園児の頃と比べたら、顔つきはちょっと変わっている。身長は伸びて、周りの女友だちに合わせて髪型を変えてみたり、メイクをしてみたりしていた。


 恋は、写真を撮られるときに、いつも目をつぶってしまう。まばたきのタイミングが悪い。だから、この生徒手帳の顔写真も何テイクも撮り直しをしたものだと聞いた。何度もやり直されているからか、ぶうたれた顔になってしまっている。


「オマエが恋だって言うんなら……」


 オレはスマホのカメラを向ける。目の前の男が「はうっ!」とうめき、まぶたを閉じた瞬間の写真が撮れた。


 間違いない。恋だ。

 否定したかったが、オレのおさななじみ。


「マジで恋なのか」

「そうだって言ってるじゃん!」

「……ぜんぜん違うから、わかるわけなくね?」


 自分の目でも見てみろよ、と、オレは今さっき撮ったばかりの新鮮な写真をメッセージで送りつける。スマホが震えて、男はスマホを確認した。他のヤツとメッセージが届くタイミングが奇跡的に一致したわけじゃない。オレの送ったメッセージが、男の手の中のスマホに届いている。


「あははっ! やっぱりおれ、目ぇつぶっちゃってるー!」


 ゲラゲラ笑い出した。否定できない要素がどんどん増えていくから、オレは腹を括るしかなさそうだ。できれば予告しておいてほしかった。前もって言ってくれていれば、まだなんとか、心の準備ができていただろうに。


「恋、なんで男になっちまったんだ?」

「ちんちんも生えてきたぞ」


 望んだ答えは返されず、恋はスカートをたくしあげる。水玉柄に、小さなリボンが前に付いていて、そのリボンの下の辺りがと膨れ上がっていて――


「うわあ! やめろ!」

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