02.前世の因縁とか、それなんてテンプレ?

「えっと……つまり、魔王リオンがやりすぎちゃったってことであってる?」

「うん。すまんな」

「謝罪が軽いよぉ」


 入学式と最初のホームルームを終えた私たちは三人で駅前のメックにやってきた。

 ママには『勇者と魔王と再開した』ってニャインを送ってある。

 ママからは、『うちに来る?』って返ってきたけど、とりあえず三人で話すことにした。


 まずは魔王リオン……真野リオンくんに、そもそもなんで転生したかを聞いたのが冒頭だ。


「えっと、魔王業が嫌になっちゃったから、私と異世界に逃亡しようとしたら、死に際だったから魔力が暴走して、そこら中巻き込んじゃった……ってことでいい?」

「あっている。さすが聖女、理解が早いな」

「聖女関係ないんじゃないかな」

「魔王のくせに魔力の扱い失敗とかだっせえな。まー俺がそれだけ強かったってことか!」


 ルイはのんきにシェイクをすすっているし、リオンもムスッとしながらハンバーガーを三口で食べた。


「魔王のくせにとはなんだ。僕だって、魔力量が多いだけのただの人間だったんだぞ」

「へー、そうなん? えっ、魔王って魔族の王様じゃねえの? あ痛っ」


 私のナゲットを勝手に食べようとしたルイの手を叩く。

 ナゲットの箱を避けながら、私もリオンの顔を見た。


「なんで人間が魔王を?」

「そこのバカ勇者はともかく、聖女まで知らないのか? あー、いや、悪いのはあの暗君だな」

「あんくん?」

「そもそも、魔王は黒魔法が最も得意な人間に魔族の取りまとめを任せるための役職だ。聖女は逆に白魔法の得意な者に人間の代表をさせて、魔族側とのやり取りをさせる」

「勇者は?」

「聖女の護衛だ。しかし、貴様らの代の王が恐ろしく臆病者だった」


 リオンはため息をついてポテトをかじっている。

 ふと思いついてナゲットをルイとリオンに一つずつ渡すと、ルイは二口、リオンは一口で食べた。

 リオンの方が口が大きいし、手も大きいんだ。


「僕が魔族を束ねて人間に歯向かうことを恐れたらしい」

「そうなの?」

「先代の王と僕の側近の間で、わずかだがやり取りがあったんだ。だから僕はこれらの役職について知っているが、貴様らはまともに聖女教育を受けていないから知らないんだ」

「でもさー、それ、信用できるわけ?」


 ルイがポテトを振る。


「疑うなら、聖女の母君に聞くといい。シスター・リリアなら知っているはずだ」

「でも、私ママにそんな話聞いたことないよ」

「聞かせないために、聖女になってすぐ召し上げたのだろうな」

「あ、そういうこと」


 元の世界では、子供はエレメンタリースクールの卒業式のあと、教会で魔法の適性を調べる。

 私は希少な白魔法の使い手だからって、そのまま教会に入らされた。

 シスター・リリアとはお祈りのときとか、魔法の訓練とかでたまに会えるくらいだったから、そんな話を聞く時間なんてなかった。


「経緯については理解したか? そこのバカ勇者も」

「まあ、うん。えー、でもさ、さっきそこら中巻き込んだって言ったよな? つまり俺らとシスター以外にも転生してきた奴がいるってこと?」

「ああ。僕も全員を把握しているわけではないが、他にもいるはずだ。シスター・リリアのところに出入りしている不動産屋のソウイチロウ、あれは僕の側近だった男だ」

「えっ、そうなの? あっ、そっか、真野総一朗さん! じゃあ、今はリオンのお父さんってこと?」

「そうだ。ちなみにこの体の実母は僕が小学生のときに鬼籍に入っている」

「へー……」


 そのあとはそれぞれの中学までの話や、家の場所なんかを話して解散。

 勇者と聖女と魔王がメックで向い合ってオヤツ食べて……平和って言えなくもない?

 平和って、結局なんなんだろうなあ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る