張り出し 終わりと始まり(破)虚構の香り

 ​――目が覚める。

​ 天井の白さが目に染みて、しばらく何が起きたのかわからなかった。

 視界の端に、点滴のチューブ。ここは……病院か。

​ 身体を起こそうとした瞬間、右肩に焼けるような痛みが走る。

 思わず呻き声を漏らすと、途端に記憶が蘇った。

​「……親父!」

​ 反射的に上体を起こし、叫ぶ。

​「お目覚めになりましたか」

​ 低く落ち着いた声が返る。顔を向けると、制服警官が二人、ベッドの足元に立っていた。

​「親父はどこだ! 親父は!?」

​ 問い詰める俺に、警官たちは短く視線を交わし、重く口を開く。

​「残念ですが」

「……お気の毒ですが、後藤組長はお亡くなりになりました」

​ 頭の中が真っ白になった。

​“残念ですが”だぁ?

“お気の毒ですが”だぁ?

​――そんな無機質な言葉を並べてんじゃねぇぞ。

 親父だぞ? 親父が? 本当に……?

​「大友さん、落ち着いて聞いてください」

​ 警官の声が、遠くで響く。

​ あの日――覆面を被った二人組の襲撃で、親父と若い衆が死亡。

 巻き添えで一般人も数名が負傷。

 俺は重傷を負ったが、一命は取り留めた。

 犯人は車で逃走し、現在も捜索中――それが、“警察の話”だった。

​ 重いが事務的な喋りが、やけに耳に冷たく響いた。

 形式的な言葉を並べ終えると、彼らは「助かったのは奇跡ですよ。また聴取に協力を」とだけ告げて去っていった。

 病室の前には、ひとりの警官が見張りとして残される。

​ 静まり返った病室に、心臓の鼓動だけが響く。

 その音が、自分のものであることすら遠く感じた。

​――親父が死んだ。

 その現実が、重く、胸の底に沈んでいく。

​ けれど同時に、胸の奥に小さな違和感があった。

 それは――“紛いもの”の匂いだ。

​ だが、その時の俺には――

 その“匂い”に気づく余裕すら、なかった。

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