張り出し 終わりと始まり(序)任侠死す

 「……なんで、こんなことになったのかねぇ」

​ 心の中でつぶやき、ため息を漏らした。

​――いま、俺は廃墟ビルの中で手足を縛られ、頭に銃口を突きつけられている。

​ 冷たい鉄の感触が、こめかみにじわりと食い込む。

 俺の名は大友実高(オオトモ・サネタカ)

三十九歳。

 関東最大の極道組織「天道会」。その直参、後藤組で若頭補佐を務めていた。

​――数週間前のことだ。

​ 親父(組長)、後藤龍興(ごとう・たつおき)。

 七十四歳。

​ 病気療養のため入院しており、俺は報告を兼ねて見舞いに向かった。

 親父は極道界でも名の知れた「任侠」の人だ。

 本当の父親を知らない俺にとって、まさしく“親父”という存在だった。

​ 病室には、親父と世話役の若い衆が二人。

 穏やかな空気が流れていた。

​ 報告も終わり、楽しげに会話していた矢先、外の廊下で物音がした。

 一瞬、嫌な胸騒ぎがした。

​ ドン、と病室の扉が乱暴に開く。

 覆面を被った二人組が飛び込んできた。

​「――ッ!」

​ 銃口がこちらを向いた瞬間、パン! パン! と乾いた音が響く。

 右肩に焼けるような痛み、そして左脚が弾け飛ぶような衝撃。

 床に倒れ込む俺の耳に、さらに三発、銃声が重なった。

​「親父――!」

​ 這いずりながらベッドへと近づく。

 しかし、その直後。

​ パン――。無機質な音が響く。

​ 目の前で、覆面の男が親父の額に銃を向け、ためらいなく引き金を引いた。

 ベッドの向こうでは、若い衆が倒れていた。

 血と硝煙の匂いが、病室に満ちていく。

​「……親父……」

​ その光景を最後に、背後から何かが振り下ろされた。

 鈍い衝撃。視界が暗転し、俺は意識を手放した。

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