第2話 第1歩(松岡圭太)

 3人は志望した大学に、無事に進学することができた。

 松岡圭太は、体育会のテニス部に所属、関東、全国トップの筑駒大では、最初はついていくのがやっとだった。レベルの違いに愕然としながらも、根性だけで練習に励み、雑用をこなし、がむしゃらに大学生活を送っていた。

 大学レベルになると、体格差が切実な問題になった。身長174㎝で、日常生活では決して小柄とは思わないが、テニスコートでは小さい。もともと大きい筋肉がつかない体質もあって、やせ型のためパワーで押される。

 そこで、ネットプレーに活路を見出した。パワーの必要なストローク勝負をせずに、ネットへ突進するスタイルへ。

 監督の目に留まった。ダブルスで少しずつ起用されるようになった。


「1年生でリーグ戦、出られるなんてすごいね。」

 同期の今井 南から声をかけられた。女子の推薦組の1人。ジュニアでも名がとおっており、雲の上の人間だと思っていたので驚いた。

「君はどう?」

「私なんて、レギュラーどころか、ギリギリ練習メンバーよ。」

「それでもすごいよ。」

 日本一に何度も輝いている女子部で練習メンバーでもコートに入れるならさすがだ。

「ねえ。オフの日、一緒に練習しない?」

有名選手で、美形でも知られている今井 南と練習できるなんて信じられなかった。

 それから、オフごとに、南の自主練習に付き合うようになった。同年代のトップ選手なので、女子とはいえ圭太の練習にも十分だった。

 

 ある日のオフ。コートに顔を出した4年生の主将たちから声をかけられた。

「お前たち、いっつも練習してるけど、付き合ってるのか?」

「い、いえ、そういうわけでは・・。」

としどろもどろの圭太を横目に、

「はい。私たち付き合ってるんです。」

「え?」

「そうなんだ。仲いいもんな。お前たち。」

 先輩たちは笑いながら行ってしまった後、

「ねえ。俺たち付き合ってないよね?なんで嘘を言ったの?。」

「いいじゃない。これから付き合えば噓じゃないでしょ。嫌?」

「嫌じゃないけど。俺なんかとなんで?テニスも強くないし、長身でもイケメンでもないし。」

 さすがに、無名選手の俺と彼女じゃ、とても釣り合わないことぐらい分かる。

「圭太のがむしゃらなのところが好きになったの。絶対にあきらめいでレギュラーつかんだでしょ。私、大学じゃ通じない、なんて自分で決めてた。それですごいなぁって。」

「俺、ほめられてんのかな。」

 そこから、圭太と南は付き合うようになった。南は、2年3年と学年が上がるについて実力を発揮して、筑駒大女子部の主力の1人になった。圭太は、ダブルスプレーヤーとして、大学トップに位置したが、シングルスではレギュラー落ちもしばしばだった。

「おい。なんでお前が南の彼氏なんだよ。釣り合わねだろう。」

 同期の連中から、特に片山 準からは、いつもやっかみで嫌みを言われた。ルックスでも

(そんなことは、俺が一番分かってるんだよ。)

でも、いつも南は、

「圭太は、私のヒーローだから。」

と言ってくれていた。





 

 

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