第18話
「あなたが——鎖の魔法少女、よね?」
紺色の長い髪の子が、まっすぐこちらを見てそう言った。
……おわった、かもしれない。
胸の奥が、ぎゅっと小さく縮む。
猫に睨まれたネズミみたいに、足が地面に貼りついたように動かない。
何を言えばいいのかも、よくわからない。
人違いです、とか言うべきだろうか。
いや、さっき水色の髪の子が「間違いない」と言い切っていた。何かしらの根拠があるのだろう。
どうしよう——と考えるより先に、紺色の髪の子のほうが口を開いた。
「その……この前は、悪かったわね」
「…………へ?」
思わず変な声が漏れる。
謝られる、とは思っていなかった。
横で、水色の髪の子が目を丸くして、ポニーテールの子——光莉が「はぇ〜」と、感心なのか驚きなのかよくわからない声を出す。
「最初から街を守ってくれてたのに、未登録だからって決めつけて。
言い方も、ちょっとキツかったと思うわ。……それと、今日も」
紺色の髪の子は、ほんの少しだけバツが悪そうに視線をそらした。
「魔力の痕を追って、こんなふうに突き止めるなんて、やり方だけ見たらストーカーみたいでしょ。
でも……もう一度会って、ちゃんと話して、謝りたかったから。そこは、ごめんなさい」
光莉は、納得したような顔でその横顔を見上げていた。
「だから、椎奈はあんなに絶対見つけるって感じだったんだ〜。……それにしてもさ」
光莉が、ぱっと水色の髪の子のほうへ向き直って、ほぼ飛びかかる勢いで抱きつく。
「すごいじゃん! ほのかちゃん、いつの間にそんな探知できるようになってたの?
わたしなんか、魔災獣がいるかどうかもよくわかんないのに!」
「ひ、ひっぱらないでくださいぃ……」
水色の髪の子は、光莉に抱きつかれたまま指先をもじもじさせて、そっと口を開いた。
「こ、この前……支部からの帰り道で、この公園の前を通ったとき……
魔災獣とは違う魔力を、少しだけ感じて……。
それから何日か、時間があるときに近くを通ってみたら……似た反応が、たまにあって……。
もしかしたら、と思ったんです……」
「普通は、変身していてもそこまで拾える子はいないのよ。
それも、魔災獣かどうかの判別までできるなんて、ごく一部だけ」
紺色の髪の、おそらくセレススピアこと椎奈が、横から補足する。
「い、いえ、そんな……。
まだ、はっきり場所がわかるわけじゃなくて……今日も、近くにいそう、くらいで……。
三人で探して回って、ようやく……その、見つけられたというか……」
……やはり、このシルバードロップであろう穂乃花という子は、魔力による探知が本当に可能なようだ。
つまり、ここで変身して逃げたところで、いつかはまた見つかる、ということだ。
それ以前に、光莉の変身後の機動力を振り切れる自信もない。
つまり、今できる手段は、ひとつだけ。
喉がカラカラに乾いているのを自覚しながら、なんとか声を絞り出す。
「……おねがい」
三人の視線が、いっせいにこっちを向く。
「ここにいること、誰にも、言わないで」
言った瞬間、自分でも驚くほどに情けない命乞いだった。
すると、穂乃花の目が、ふるっと揺れる。
「……ここが、お気に入りの場所……なんですよね……?」
不思議な言い回しだけど、間違ってはいない。
黙って、小さくうなずく。
「…たしかに、わたし達がここ報告しちゃったら……、しばらく来れなくなっちゃうかもね〜」
光莉が、ベンチの上のビニール袋をちらっと見る。
……この感じだと、路上生活しているとは思われてはいなさそうだ。
洗濯したてなのと、銭湯に行ったばかりで多少小綺麗なのが、不幸中の幸いだったのかもしれない。
さっきのお気に入りの場所という言葉も、一人で落ち着ける遊び場、くらいに解釈して言ったのだろう。
きっと、どんぐりも遊びで集めてるくらいに思われているんだろう。
……今日のごはんなんだけどな。
未だに手に持ってるそのどんぐり、返してくれないかな。
「でも、内緒にするっていうのも……」
光莉が、ちら、と椎奈の横顔をうかがう。
穂乃花も、不安そうに同じように視線を向ける。
この子が一番、規則に厳しいんだろう。
……やはり、どっちみちここまで、かな
こんな奇妙な境遇、どういう扱いをされるかわからない。
また、以前のような環境に置かれるかもしれない。
――諦めかけたとき。
「——わかったわ」
椎奈が、すとん、と結論だけを落とした。
「ここにいることも、あなたのことも。本部には報告しない」
「えっ!?」
「えっ……!?」
光莉と穂乃花の声が、見事に重なる。
ついでに、わたしも目を丸くした。
椎奈は、三人まとめてその顔を見て、わずかに肩をすくめる。
「何よ、その反応。
通信で聞かれてるわけでもないし、わたしだって、そこまで鬼じゃないわよ」
少しだけ目を細めて、続ける。
「それに、そんな顔で言われたら……報告なんか、できないでしょ」
……そんなに、ひどい顔してるんだろうか、自分。
この体は、表情筋が死んだみたいに無表情なはずなのに。
そっとほっぺたを触ってみる。
たぶん、口角がいつもより下がっている……気がする。
「とにかく、わたし達は誰にも言わない」
椎奈は、改めてはっきりと言った。
「初めて会うより前から、この街で何度も魔災獣を倒してくれてたんでしょ。
この前だって、わたし達を守ってくれた」
言われてみれば、そういうことになるのかもしれない。
自分にとっては、ただ目についたから倒しただけ、のつもりだったけれど。
「だったら今度は——」
椎奈は、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「今度は、私達が守ってあげる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます