第24話 地上へ
私はアングリフさんの言葉をいまいちよく理解できなかった。
「でも、別にルナは駆け出し冒険者の攻撃なんて受けてもダメージにすらならないと思うんですけど……」
「うん、そうだろうね。だけど……まぁ、君がそれで良いのなら」
アングリフさんは納得いってない様子にも見て取れた。
私は今言った通りにルナの心配はしていない……だけど、何か不安のような感情が胸の中で渦巻くのを感じていた。
「……やっぱり、アングリフさんの言う通りに急ぐことにします」
「それがいいよ。じゃあ、またね」
アングリフさんは背を向けて二十層の奥へと戻って行った。
なんで「じゃあ、またね」って言われたんだろう。また激弱テイマーの私がまた最強の冒険者と会う機会なんてあるはずないのに……。
◆ ◆ ◆
再びハレの上に乗った私は上昇を続け、遂に一層へと到着。
ダンジョン案内人として見慣れた景色に、思わず涙が溢れ出る。
「リベルテ、泣いてる?」
「う、うん、ちょっと……生きて帰って来れて、感動しちゃって」
あのクソ貴族に落とされた時はもう死ぬと思っていた。
それがエルマに助けられて深層を彷徨って、災厄級の魔物たちと出会ってモフモフして…………大変ではあったけど、思ったより死にそうな目には会ってないな。
「あれ、実は泣くような場面じゃない!?」
「そかもね」
エルマの容赦ないツッコミに思わず苦笑。
スッと気持ちが冷めたせいか、思わず冷静になってしまう。
「で、ルナはどこにいるんだろう……」
あの子は結構好奇心が強いから、どこかに行っているんだろう。
一層も割と広いし、どこに行ったらいいんだ……?
大きな声で呼べば、返事してくれたりしないかな?
「ルナ!!!」
第一層に響き渡る……渡って欲しい。
すると、すぐに。
「ワン!」
ルナが返事を返してくれた。
だけど、ここは第一層の洞窟の中。音が反響しまくっていて、どこから声が聞こえているのか分かりにくい。
「エルマ、どこから声が聞こえてるか分かる?」
「うーん、あっち」
エルマが指をさしてくれる。
おそらくリッチの持つ能力を使ってくれたに違いない。そんな能力があるかは私にはよくわからないけど!
歩きなれた一層を歩いていくと、そこにルナはいた。
街道、防御結界の近くにおり、そこには沢山の駆け出し冒険者……良い装備を纏った中級冒険者もぽつぽつといる。
「弓矢を放て!!」
中級冒険者の指示で皆が弓矢をルナに向けて放つ。
だけどルナはそれを意に返さずに冒険者たちを見て、ニコニコしてる。
冒険者たちはルナを討伐しようと頑張っているんだ。
でも、ルナはそれを遊びだと思って嬉しそうにしている。
何なんだろう、この状況……。
やっぱり問題なかったですよ! アングリフさん!
「クソ全く効いてる感じがしない……こんな化物どうしたらいいんだ!」
「もう終わりなのかな、俺たち」
「冒険者なんてなりたくなかったのに!」
絶望している冒険者たちに近づいて、私は声をかける。
「あの、ちょっと良いですか?」
「ダンジョン案内人……? 危ないから下がってて」
「いや、大丈夫です。この子は――」
なんて答えるのが良いんだろう。
アングリフさんには思わず色々と話してしまったけど、こんな大人数に私に起きたことを細かく話したくない。
あんまり、つきたくない嘘だけど、しょうがないか……。
「この子たちは、私がテイムしている魔物なんです。だから、襲わないでいただけませんか?」
「え、あ、そうなの!? てっきりヤバい魔物が下層から上がってきたのかと」
「俺も」「私も」
そう言った声が続く。
実際、ヤバい魔物なのは間違いない。だって災厄級の魔物だしね。
「かなり怖かったよ……防御結界壊して遊んでるし」
「え、そうなんですね……ごめんなさい」
「謝らないでくださいよ! 伝説級のテイマーに謝られても困りますって!」
「……?」
伝説級のテイマーって誰だろう。
私は激弱テイムしかできないし、テイマーとしては失格もの。
伝説って、伝説級の魔物を従えてる――って私じゃん!
ここで変に違いますとか言ったら、絶対に話が拗れる。
伝説級のテイマーっぽく振舞わないと。
「あ、あ、はい! そうだよね! ごめんごめん」
「そうですよ~、今度飯でも奢ってくださいね」
「あ、うん。また、会えたらね」
「はい、楽しみにしてます! では、自分たちはこれで!」
解散、解散と指揮していた中級冒険者が人を払った。
「はあ、良かった。これでやっと地上に出れそう」
「ん。久しぶりの地上、楽しみ」
「だよね! 私も」
そして、私たちはダンジョン第一層の入り口へと到着。
魔物たちが通れない防御結界は仕方なく破らせていただくとして――。
やっとダンジョンから出れた!
★ ★ ★
――ルナと出くわしたとあるテイマーのつぶやき。
「あの伝説級のテイマーが連れていた魔物……テイムされてなかったような。あとでギルドに確認を取ってみよう。暴れ出す可能性も考えて、ギルドや領主様に報告しておいた方がいいんじゃ……」
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