第23話 百層突破&最強の冒険者
「なるほど。わあった……それなら行けるかも」
エルマが納得してくれたようなので、作戦を開始する。
まずは。
「エルマの最強火力を見せてあげる」
彼女がフェニックスを助けるときに出した火球。それを出現させる。
ここら一帯の魔素を使い切るようなイメージらしいが、そこでデーモンキングとの魔素の奪い合いが発生するとのこと。
私には見てても分からないけど……。
「負けない!」
視覚的情報はないけど、それを確認するための術はある。
魔素ライト。奈落の底に落ちた時に光の強さからおおよその階層を確認したアイテム。今回はその逆の使い方をする。
点灯させた魔素ライトの光がどんどん弱くなっていく。
エルマとデーモンキングが互いに魔素を吸収し続けるため、周囲から魔素が無くなっているのが光の強さで分かるというわけ。
そして、とうとう魔素ライトが光を照らさなくなる。
「ハレ! 今!」
私はハレに炎を出させて攻撃。
デーモンキングの魔素でできた黒いオーラを削っていくと、翼のオーラが消えた。
魔素をさらに吸収しようとするデーモンキングだが、もう周囲に魔素はない。
だけど、数秒もあれば魔素は寄ってくるだろう。
そこまで耐えればいいと奴も考えているかもしれないが……この一瞬を作るのが私の狙いに他ならなかった。
「パトリシア!」
翼が無くなったところでパトリシアが暴風を繰り出す。
制御が効かなくなったデーモンキングが、下層に落下していった。
「gyuaaaa!」
すぐに翼を再展開して追いかけてくるだろうけど。
少しだけでも時間を稼げれば十分。
「私たちは逃げるから!」
「ね」
落下していくデーモンキングを確認することなく、私たちは奈落を昇っていくのだった。
◆ ◆ ◆
それから特に魔物に襲われることなく二十層付近に到達。
上層に近づくほど数が増えやすい魔物の特性上、縄張りに侵入して襲われることも考えてはいたけど、そうはならなかった。
流石に魔物は本能で分かっちゃうのかな。
私が連れているのが災厄級の魔物だって。
それよりも、ここら辺まで来ると他の問題が浮上してくる。
「ガウ?」
不意にパトリシアが鳴いた。そして、動きを止めてしまった。
パトリシアが固まったのは階層の淵。
「あ、あれ……俺の人生ここで終わり?」
その先から聞こえて来たのは、男性の声だった。
この声、どこかで聞いたことがあるような……。
とにかく、私はハレから飛び降りてパトリシアのところまで走る。
「い、いやー、本当にツイてない。まさかここで災厄級の魔物と遭遇するなんて。でも、大人しく殺されるくらいなら……やりますか」
なんかとても物騒な言葉が聞こえた。
私はその人物がパトリシアを攻撃する前に、何とか割り込む。
「ストップ! ストーーップ!」
「う、うわ。だ、誰? もしかして助けに来てくれた……わけでもないか」
その男は私のことを見て、残念そうに呟いた。
弱そう過ぎて、無視されかけている。
「ちょっと! ちょっと、止まってくださいよ!」
「え~だって、あんな化物を前にして何もしないのも無理があるっていうか……」
「それはそうかもしれないけど! 話を聞いてください! 剣を納めて!」
「そこまで言うなら……、はい」
男は剣を鞘へとおさえた。
ちょっとは話を聞いてくれそうな雰囲気になった。
「で、君はなんでこんなところにいるの? 見たところギルドのダンジョン案内人みたいな服装をしてるけど……何者なの?」
そういうリアクションにもなる。
言わずもがな、私は弱者であり、こんな階層には潜れない。
だから一から説明することにした。
「へえ~~~~~~! 大変だったね!」
「そうなんです。という訳でこの子は人間に敵対心を持ってないんですよ。なので、斬りかかるのは止めていただきたいんです」
「俺を襲わないなら、全然止めるよ」
思わず嘆息が漏れる。
話が通じる人で良かった。
「あ、そう言えば自己紹介をしてなかったね。俺の名前はアングリフ。しがないおっさんだけど、何かあったら頼ってよ」
「よろしくお願いします。私の名前はリベルテで――」
さっきの声と言い、このアングリフという名前……まさか。
「アングリフさんってまさか……不死のアングリフ!?」
「あはは、まあ、そう呼ばれることもあるね」
この迷宮都市ラクステル最強の冒険者じゃん!
そんな人と私が話すことになるなんて……。
「そんなに驚かないでよ。多分これからは君の方が有名人になるし……あ、そうだ、俺と道草してないでリベルテちゃんは急いだほうがいいよ?」
「いや、驚きますよ! で、何を急いだら……」
「第一層に行くことをだよ。早くしないとエスカトンフェンリルが勘違いされて攻撃されちゃうよ? それは君の望むことではないんじゃない?」
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