第19話 爆熱再誕

 超火力の熱が私を襲おうと迫ってくるが、私の前にすっと魔物が現れる。

 ルナだ。


 まるで私を守るかのように、座り込んた

 そのお陰が私には、熱が通らなかった。なんか髪が焦げたような気はしたけど、気のせいのはず。


 一瞬の熱波が過ぎ去っていった。

 煌々とした火球の輝きも無くなった。


「ルナ、ありがとう」

「……」


 私はルナにお礼を言ったが、返事が無い。

 元気もない顔つきで、私のことをじっと見つめている。

 様子が変だと思った私は、熱を受け止めてくれていた側に回ってルナの様子を確認する。


 ルナの綺麗な体毛が焼け焦げて、皮膚までただれていた。

 どうしよう……早くエルマに直してもらわないと。

 

「ルナ! 大丈夫だから! すぐに治るからね」

「クウウウル……」


 何とか励まそうとルナのことに声をかける。

 生活魔法ですら使いものにならない私では、なにもしてあげることができない。

 

 ルナがちょっとでも安心できるように、患部以外を撫で続ける。

 私にできるのはそれだけだった。


「ルナ、頑張って」


 だけど、眩い光がこの階層を照らし出した。

 思わず目を向けると、さっきの火球よりも明るい光が高い場所で輝いていた。


 その中央にいたのは赤い体毛を纏ったフェニックス。

 だけど、その周囲に纏う炎は赤いものではなかった。青い炎がゆらゆらとゆらめいているのだ。


 あのフェニックスは通常の個体じゃない。


 よくよく考えてみれば、こんな災厄級の魔物が生まれる階層にいるのが普通のフェニックスなわけがない。


 あの真っ赤な体に反するような青い炎を纏った不死鳥。

 その名はアズールフェニックス。青い(=アズール)炎から名前を取られている。


 度々昔話に出てくる存在。

 努力し苦労したのに、不幸な目に遭遇した人物の前に現れて、その人の病気や怪我を治して帰っていくとされる。昔から病弱の人たちを励ましてきた存在。

 一方で悪い人物が呼び出すと、呼び出された街ごと焼き尽くして帰っていくというとても恐ろしい一面も持っている魔物だ。


 そんなわけで希望と災厄の面を併せ持った魔物だと言われている。


 直近の目撃事例は数十年前。

 そのくらいにはレアな魔物だ。


 輝きを放ったアズールフェニックスがこちらへと飛び降りてくる。

 大やけどを負ったルナに向けて、羽を一振りすると青い輝きを持った炎がルナ、そして私のことを包み込んだ。


「熱くない……」


 一瞬のうちにルナの火傷は元通り、毛もふさふさに戻った。


「ルナ……もう痛くない?」

「ワン!」

「よかった……ごめんね、わたしを助けるために」


 治った火傷の場所の優しくなでる。

 どうやらちゃんと皮膚も治っているようだった。

 

「よかった……ありがとう」

「ピュイピュイ!」


 私がフェニックスにお礼をしたら、何だか、フェニックスも嬉しそうだった。

 そのまま詰めて来て、その足で私の肩を掴み、宙へと舞った。

 

「ピュイピュイ! ピュイ?」

「わわわわわ!」


 とんでもない速度で空中を移動させられる。

 視線が上からになったせいか、この階層が一望できる。一望できるのだが……。


「森が丸焦げ……」


 山火事の跡みたいになってる。

 どうやら、先ほどやったエルマとパトリシアの合わせ技の熱波で、階層にある木々を全部焼け焦がしてしまったらしい。ここの植物たちには少しだけ申し訳ない……。


「ピュイピュイ!」


 でもここの階層の主が元気そうならそれでいいのかもしれない。

 空中での移動を楽しむこと数十秒、エルマとパトリシアの元へと到着。

 

 ルナが置いてけぼりになってしまわないか心配……だったけど、もう先にルナの方が到着していた。なんで?


「お~おすおす。リベルテたちは大丈夫だった?」

「ルナが結構な火傷負ったけど、治してもらったから大丈夫。そっちは?」


 ほぼ階層の端まで離れていた私たちですら大やけどを負っている。

 火の元にいた彼女たちは大丈夫だったのだろうか?


「なんとか? パトリシアが防いでくれた」

「よかった……頑張ったね! パトリシア」


 凛と立っているパトリシアの前足を撫でてあげる。

 これぐらい当然! みたいな雰囲気だしているけど、頬が緩んでいる。可愛い奴!


「ピュイーピュイ! ピュイ!」

 

 なんだか、アズールフェニックスが何か言いたそうに叫んでいる。


「そうだ、リベルテ。この子に名前つけようよ!」

「名前……でも、この子がついてきてくれるかは分からないし」


 そう、助けたは良いけど私たちに協力してくれるかは未知数。

 それはこのアズールフェニックスが決めることだ。


「だいじょぶ! エルマの友だちだし、ついてきてくれるよ」


 そうなのかな……と疑いつつも、名前を考える。

 この子が空中で輝いているときの姿はまさしく……。


「晴れの日……ハレにしよう」

「良い。明るいこの子に似合ってそう!」


 確認を取る術はないのだが、アズールフェニックスことハレは嬉しそうに私たちの周りをグルグルと飛び始めた。

 これ見てると、何だか大丈夫そうだ。


 深層の魔物たちって優しくしただけで懐いちゃうじゃん!

 増やし過ぎても困るし、他の魔物たちとの触れ合いには注意しないと……。


「リベルテ。じゃあこれでダンジョン脱出に必要な準備は揃った?」


 ハッとする。

 フェニックスを仲間にできた(?)ということは、つまり……。


「そうだね……もうちょっと準備はいるけど、大体は」

「そか。じゃあ、それが終わったらダンジョンから出よう」


 私はこの階層からも見える穴……奈落の方角を見つめていた。


 

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