第18話 燃やせフェニックス!

「も、燃やす?」


 やはりエルマは引いてしまっている。

 普通に考えたら異常な行動……というか治療に結びつかない。

 けど、やる価値はあると思うんだ。


「さっき説明した通りにフェニックスは自身を燃やして、その炎から再生の力を得る魔物。だから、こっちでこの子の体を燃やしてあげればって考え方なんだけど……」

「な、なるほど……」


 エルマが興味深そうに頷いている。

 だけど、これには失敗するリスクも孕んでいることを伝えなくちゃいけない。


「でも、このフェニックスの障害の程度が分からないから賭けにもなる」

「失敗するかもしれない?」

「うん。この子が炎が熾せないのか、それとも炎からエネルギーを吸収できないのか、それともその両方なのかはやってみなきゃわからないから。その結果でフェニックスが火傷しちゃうかも」

「……それは嫌だけど、やるしかないんだよね」

「……うん。やってみよう」


 何もしなくてもこの子は死んでしまう。

 だから、賭けであってもやる以外の選択肢は私にはない。


 私は荷物入れからよく燃える薪を取り出した。

 本来は寒い二層で体を温めるために使うものだけど、ちょっとフェニックスを燃やすくらいなら丁度いいサイズだ。


 薪をフェニックスの近寄らせて、持っていた魔石ライターで着火。

 普通ライターで薪を着火できないけど、この魔石ライターはかなりの火力が出るのでいけてしまう。


 すると薪が燃え始めて、フェニックスの羽毛に引火していく。

 みるみるうちに全身を炎が包み込むが、特に拒否反応はないようだ。


 だけど、少し時間が経つと……。


「炎が消えた……」

「消えたね」


 炎そのものを吸収するかのようにして、鎮火した。

 でも、ぐったりとした様子に変化がないし、体毛も白いまま。


「……もしかして火力が足りなかった?」


 そうとしか考えられない。

 でも、私にはこれ以上の火を熾す術を持っていない。


「エルマって火属性魔法使える?」

「使える」

「じゃあ、自分が使える最大火力の火属性魔法でこのフェニックスを燃やして欲しいんだけど……できる?」

「良いの? すごいことになるけど」


 アブソリュートリッチの彼女の本気。

 確かに辺り一面火の海になってもおかしくない。

 でも、火力が高い面で問題になることも少ないだろうし。


「うん。お願い」

「分かった。エルマから離れてて」


 私はエルマからかなり距離を取った。

 尚、それでも足りないらしく、更に離れさせられた。


 エルマが見えなくなるくらいのところまでルナとパトリシアも移動した。


 どんな魔法を使うんだろう。

 そう思っていたら、ただでさえ明るいこの階層が一段と明るくなるくらいの火球を生み出していた。

 

「あっつ!」


 一気に周囲の温度が上がったような気がした。

 そんな私を守る為か、パトリシアが前に出て風のベールを纏った。


「ありがとう」

「ガウ!」


 巨大な火球が地上に落ちていく。

 一瞬のうちに熱波が解き放たれて、視界が真っ赤に染まった。

 凄まじい火力がフェニックスを包んだはず。


 ……パトリシアいなかったら、私死んでない? とは思ったけど、これで治るとは思う。


 周囲の気温が落ち着いたところで、エルマとフェニックスの元へと戻る。


「ん~、私の最大火力でも駄目そう」


 だけど、エルマはため息を吐いていた。

 フェニックスを見ると、毛先だけ体毛の色合いが変化している。

 ちゃんと赤くなった。つまり、炎をエネルギーとして変換することはできる。

 ただ――。


「エルマの言う通り、火力が足りないのかもね」

 

 だけど、これ以上の大火力なんて……。

 

「それこそ、風でも吹いていれば――」


 そっか、風だ。

 私にはどうにもならないけど、それを操れる存在がここにはいる。さっき見た。

 マキシマムウガルルムのパトリシア。

 この子は嵐を起こす魔物。


 その風を上手く使えれば……。


「パトリシア。エルマと協力して強い炎を熾せない?」

「ウガ?」


 あっ、ダメだ。

 パトリシアは私の言葉の意味を分かってくれない。

 どうしよう……。


 その思っていたときだった。


「ワウワウワウ! ウウウウワ!」


 なんか、ルナが喋る様に鳴き声を上げ始めた。

 それにじっと見つめているパトリシア。そして――。


「ガウ!」


 何かに同調したように、鳴くパトリシア。


「ルナ……もしかして、通訳してくれた?」

「ワン!」

「ありがとう!」


 私は思いっきり、ルナのことを撫でた。

 ついでに食べ物も少しあげちゃう。


「エルマ。パトリシアと協力して凄い強い炎を熾して欲しい!」

「わあった!」


 エルマは元気良く返事をしてくれた。


「パトリシアもよろしくね!」

「ガウ!」


 この子もやる気は十分な様子。

 少しだけ撫でる。


「じゃあ、二人とも頑張って!」

 

 私はルナに口で咥えられて、出来る限り遠くに離された。

 そして始まる炎と風の競演。

 エルマの出した火球にパトリシアが操る風が合わさって、徐々にその火力をあげていく。最初は赤い炎だったのが、どんどんと青くなっていった。


 最大限まで温度を上げられた青い火球が地面へと落ちる。

 さっきとは比べ物にならない温度が空気を伝って、こちらに迸る。


 あれ、さっきはパトリシアのガードがあったけど、それがないと私……本当に死んじゃうじゃ?

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