夢綴りの輪廻~幾千の生を超えて~
伊波乃元之助
第1話 夢の少女
あの丘、あの木、そしてあの子。
ゲンヤ (うわ……またかよ!)
ゲンヤはまた同じ夢を見ていた。
目覚めていつものようにPCを立ち上げると、トップ画面がまた勝手に
変わっていた。
ゲンヤ「はあ!? またやりやがったな……」
ゲンヤは思わず声が漏れた。
だが、これが何かの悪意あるプログラムだとは考えにくい。
ゲンヤにはそれを断言できるだけの根拠があった。
昔から、ゲンヤの周りでは不可思議な現象が絶えなかった。
予知夢めいたものを見たり、蝋燭やお香の火がいつの間にか自然に灯ったり、
部屋に入る直前に電気がつき──ひどいときには、テレビまで勝手に点いてしまう
こともあった。
ポルターガイストの代表的現象である、照明器具からの奇妙な音や、何かを叩いたような音に安眠を妨げられるのは日常茶飯事。
もちろん、金縛りもたびたび起きる。
金縛りは現代医学では心霊現象として否定され、睡眠障害の一種と片づけられている。だが、ゲンヤが経験してきた金縛りは、その枠にまったく収まらなかった。
金縛りの最中、彼は本来“見えるはずのないもの”を見てしまい、
聞こえるはずのない声をはっきりと耳にした。
さらに、誰かに揺すられるような感覚まであったという。
それらの体験はどれも妙に生々しく、幻覚とは思えないほどだった。
だからこそゲンヤは、医学的な説明だけでは片づけられない“何か”があると
感じている。
実際、眠っていない時間帯でも、誰もいない方向から声をかけられたり、
頭を撫でられたことすらあった。
もっと厳密に言うと、手で撫でられた感じよりも、舌で頭をなめられたような
感覚に近いのかもしれない。
遭遇した怪異現象は挙げればキリがないが、最も頻繁に起こるのは、PCのデスクトップ画像が勝手に変わることだった。
しかも、勝手に改変された画像は、すべてゲンヤがどこかで見覚えのある景色や映像ばかりだ。
何かの悪意あるプログラムが人の記憶まで読み取れるはずがないのだから、
つまり、記憶の断片の再現は人為的には絶対ありえないのだ。
ゲンヤは本能的に、これは何か超自然的な存在の介入によるものだと解釈している。
そんな中、ゲンヤには幼少期のぼんやりとした記憶がある。
恐らく、幼稚園の頃だったはずだ。
家の近くの公園で、海外から来たような同じ年頃の女の子とジャングルジムで遊んだことがある。そして、その時ゲンヤは持っていたチューインガムをその子に渡した記憶が、かすかに残っている。
だが、その記憶の映像はモザイクがかかったかのように曖昧で、
”本当にあったことなのか?”とゲンヤ自身も疑わずにはいられなかった。
ただひとつ、
中学生の頃に見たある夢だけは、異常なほど印象深かった。
美しさと可愛さが共存するラテン系の顔立ちの少女。
長く黒い巻き髪に、褐色の健康的な肌。キャミソールとショートパンツのラフな
装いで、足元にはスニーカーではなくサンダルを履いていた。
ショートパンツから伸びるスラリとした長い脚を壁に軽くもたれかけるように、その少女は立っていた。
夢の中で、ゲンヤは初めて会ったはずのその少女と、まるで昔からよく知っていたかのように自然に打ち解け、気がつけば、いつの間にかキスを交わしていたのだ!
その時の触れた温度、混ざる呼吸、鼓動のリズム――すべてが二十年ほどの年月が経った今でも、脳裏に鮮明に残っている。
当時中学生だったゲンヤにとって、それが夢の中とはいえ、
人生で初めてのキスだった。
さらに、夢の中で二人は将来結婚することを約束していたことも、未だにはっきり覚えている。
ゲンヤ(そういやあの夢、夢のくせに現実よりもリアルだったな……)
ゲンヤ(待てよ……確か小さい頃に会った子と、中学生の頃に夢の中で
会った子って、よく似てたよな……両方とも当時の俺と同じ年頃だし……)
その時ゲンヤは、なぜか長年記憶の片隅にしまっていたあの少女の記憶とともに、
昨晩見た夢と目の前のパソコンの画面を眺めながらふと思った。
ゲンヤ(この景色は……広大な草原の中にある丘、その丘の上には一本だけの孤立
した木、そしてその木の近くに小さな人の影がいる。
ゲンヤ (すごく見覚えがあるのに、何故か…どうしても思い出せないんだ……)
これは偶然ではなく、まるで“誰か”がゲンヤに“何か”を思い出させようとしているかのようだった。
そんなタイミングの中で、ゲンヤの地元の大親友、ハルキがゲンヤの自宅に
現れたのだ。
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