【増量試し読み】皇宮軍人の花嫁女官

木之咲若菜/富士見L文庫

第1話 東宮武官の旦那さま(1)

 その青年は軍帽を外して胸の前に当てると、軍命を下すかのような凛々りりしい声を上げた。


「俺は君に結婚を申し込む。君に妻の役割も、一切何も求めない。どうか東宮とうぐうさまのお心のお支えを頼もう」


 美しい面差しに、艶のある黒髪。片側の髪一房だけが肩につくほどの長さで、赤いひもが結ばれているのが印象的だ。

 夏の日差しがし込む洋風の執務室。風を通すために開いている窓からは、せみしぐれが聞こえてくる。

 撫子なでしこは己の前で合わせた両手を握り、緊張で声が震えそうになりながらも一礼をした。


「つ、謹んでお受けいたします」

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