第2話 大きな家で逆ハーレムよ!

「わかったよ。

 しかし、あれだな

 ……金の心配はしないのな。

 まあ、梨杏も生きてけるギリギリぐらいは稼げてるし、それで満足できる質なのかな」

「ふふっ」

梨杏は見たことのないような不敵な笑みを浮かべた

……な、なにを今更になって、こんなに

……心臓がドクッと跳ねるんだ。


「実はね、浮気を前々から疑ってたから、莱斗には言わなかったんだけど

 ……去年、私の両親が揃って交通事故で他界したことで、私に血縁がいなくなったのは知ってるでしょ?

 それに伴って、両親の遺産と、輝石きせき町にある実家を相続することにしたの」

「なるほど……

 だから当面は金には困らないし、家があるなら俺と折半してた家賃も要らなくなる、ってことか……

 輝石町って、市ですらないだけあって田舎暮らしにはなりそうだけど、会社に通う距離もそんなには伸びないしな」

「ただね、元々はおじいちゃんおばあちゃん世代も暮らしてた二世帯住宅だから、私が一人で、どころか、結婚相手と二人ですら、暮らすには大きすぎるのよね。

 部屋は持て余すし、管理も大変」

そこまで言うと、梨杏の不敵な笑みは更に淫靡な艶と影を増した。

二年間付き合ってきたのに、全く知らなかった一面、表情。

もうフラれた身なのに、魅入ってしまう俺は馬鹿だ。


「だから

 ……一緒に暮らす男の人、ネットで何人か募集しようと思って」


「はあっ?!」

思わず椅子から転げ落ちた。

「お、お前、知らない男達と実家で一つ屋根の下で暮らすってえの?!

 どんだけ危機感ねえんだよ?!

 最悪、金目のモノ奪われて殺されるかもしれないんだぞ?!」

「私のこと、最低限すら大事にせずに傷つけたあんたに、そんな心配する資格はないわ」


なんだこの変わり身、切り替えの速さは。

梨杏は、完全におかしくなってしまっている。

でも、それも、この歳で血縁がいなくなったというのに大した悲しみを見せないから梨杏は大丈夫、なんて胡座をかいて、あろうことか浮気までした俺の責任だ。

表立って嘆き悲しまなくても、それは梨杏が俺に心配や迷惑をかけまいと気丈に振る舞っていたというだけで、心労は溜まっており、それがこのような歪みとして現れたのだ。

不幸になってもお前に心配される筋合いはない、と言われても、俺の寝覚めが悪い。

だから……

だから……


「いや、そ、そうだけどさ!

 浮気以外の悪さはしないって信頼はあるだろ?!

 わ、わかった……

 どうせ、俺だってこの先、碌な結婚相手が見つかる気もしねえし

 ……俺、お前の不特定多数の男の一人で構わないから、一緒に住もう!

 で、一緒に暮らす相手はちゃんと、先に面接でもして選ばせてくれ!

 色ボケのお前よりは、ヤバい奴見抜けると思うから!」

「だ〜れが人様のこと色ボケって言ってんのよ。

 でもまあ、たしかに男性相手だったら私の方が色ボケか……

 わかった、頼りにしてるわ」

梨杏はやっと、いつものふんわりとした笑顔を見せてくれた。

いや、心配なのもたしかなんだけど

……それ以上に、好奇心が勝った。

梨杏って、今までは幸せな結婚を目指してたから真面目に振る舞ってきたってだけで

……そこを諦めて、当面の金の心配がなくなったとしたら、こんなことしたいって考えるような女だったのか!

一皮剥いてみたら、おもしれえ奴すぎるだろ。



同居人募集サイトに載せる写真を撮るためにも、ふたりで梨杏の御実家に行くことにした。

そういえば、梨杏の御両親が亡くなった時点で一年以上付き合っていたのに、俺がはぐらかしたせいでここに挨拶に来ることはなくて、こんな妙なことになってから足を踏み入れるなんて

……後悔先に立たず、を、また噛み締めた。


「広いな……!」

二世帯住宅だから広いとは思ってたけど、庭が広い。

同時に、梨杏が手放すのを惜しんだ気持ちも理解した。

子をおんぶしている蛙の置物が見護っている、ししおどし。

つい最近まで育てていたのがわかる、家庭菜園の跡。

風通しの良さそうな間取りに、そこここに見られるすだれ

遠くから微かに聞こえてくる、鳥たちの声。

いかにも『ぼくのなつやすみ』が似合いそうな風景だ。

就職で都心に出てくるまで、梨杏はここで育ったのか……

俺は、ほんとに

……二年付き合っていたのに、梨杏のことを全く知らなかったのかもしれない。



『27歳OL、この相続した広すぎる家で、複数名の男性と共同生活したいです!』

地元掲示板サイトに載せたこの文面はインパクトがあったのか、一部まとめサイトにも取り上げられ、笑いものにもなったが一部のユーザーが興味を示し、40名ほどが応募をしてきた。

「ほ、ほんとだ……

 たしかに仕事してない上に家事もしなさそうだったり、何してる人かよくわからなかったり、介護目当てっぽかったり、ろくでもなさそうな履歴書の人が結構いるね……」

「だから言っただろ?

 お前、これでも仕分けが甘いぞ、ほんっと男だと思うとワキが甘くなる色ボケなんだな!

 こいつもダメっ!」


そういう輩は弾いて、最低限まともそうな20人と、ドタキャンは煩わしいので実際暮らす所を見てもらう意味でも、御実家の客間で面接をすることにした。

それでも、俺の姿を見て、ちぇっ、ハナから野郎つきかよ、先に言えよ、なんて陰日向に示す志望者もいたりして、莱斗がいなけりゃ好き勝手するつもりだったのか……と、梨杏は軽くショックを受けていた。

ほんとにこいつ、男のヤバい奴をナメすぎだ。

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