【カクコン11短編】かえる五景

七月七日

第1話

「替える」


 寝室で、ベッドに寝そべってスマホをいじっていた舞香が唐突に云いだした。

 

「へっ? 何を?」

 明日着るワイシャツにアイロンをかけながら、僕は思わずそう応えた。


「カーテン」


「何で?」

「飽きた」


「飽きたの? そっか。じゃあ、明後日あさって◯トリに行く?」

「うん」


 こんな時、反対したって舞香は自分の意思を貫き通すだろう。無駄な衝突を回避するために、僕は大抵反対しない。


 僕と舞香は大学で知り合って付き合い始めた。卒業しても都内で就職が決まったので、節約の為一緒に住もうということになった。お互いの両親に許可を得て同棲を始めてもう三年になる。


 今掛けているグリーンのカーテンは、ここに入居するときに二人で選んだものだ。◯トリで買った既製品で、リビングの長いのは丁度良いサイズがなかったので、長めのサイズを買って舞香が簡略に裾上げした。


「短いとカッコ悪いじゃん、長いの買って縫えばいい」

「裁縫とか出来んの?」

「任せて!」


 任せてと云った割には、出来は褒められたものじゃなかった。


 何でいきなり、カーテン飽きたとか言い出したのか分からないが、これが舞香の日常なので、僕は別に気にしなかった。


 でも、翌日、僕が少し残業して遅く帰ってきたら、寝室のカーテンがブルーに替わっていた。舞香が仕事の帰りに買って来たのだ。


「えっ?明日一緒に行こうって云ったじゃん」

「そうなんだけど、善は急げっていうじゃん」


「善? カーテン替える事が?」

「ただの例えだよー。深い意味はないよ」

「だろうね」


 その夜は、カーテンが替わったからという訳ではなかったが、久しぶりに何度も愛し合った。

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