2章:愛が重すぎる同居生活
第22話 ベッドの中に公爵令嬢がいる
唐突だが、原作のゲームはエロゲーだった。
ストーリー重視で、エロシーンは物語のエンディングを迎えた後にご褒美として公開される形だったが、れっきとしたR18ゲームである。
つまりちょっぴりエッチなシチュエーションは物語の至る所に存在するのだ。
そしてその代表格がこれである。
ヒロインが主人公のベッドに侵入して、起こしてくれるという定番イベントだ。
ヒロインが甘い声で主人公の名前を囁きながら、恍惚の表情で抱きしめてくる。
ルクソールと何度も名前を呼ぶヒロインの姿は、ゲームをプレイしていた当時の俺にめちゃくちゃ刺さった。
人間不信だったヒロインが、心を開いた後はこんなに甘えるのかと感心したものである。控えめに言って最高に萌えた。
「アスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくん……」
しかし実際にそれを経験してみると、萌えるどころか普通に恐怖だった。完全にホラーである。
「……えっ? なんでいるの?」
それは翌朝のことだった。
目を覚ますと布団の中にサフィラがいた。
疑問に思いつつも、すぐさま逃走を試みたが、既に手遅れだった。ガッチリと身体をホールドされ、身動きが取れないのだ。
「いやいやいやおかしいでしょ」
俺は昨晩、公爵家の小屋から脱出し、完全に逃げ切れたはずだ。
にも関わらず彼女は下着姿で平然と眠っている。自分のベッドではなく俺のベッドで。
「は?」
全くもって意味が分からなかった。
「ふはぁぁぁぁ……」
全身から冷や汗が出ながらも、逃げ出そうと身体を捻っていると、サフィラが目を覚ましたようだ。
あどけない様子で起き上がり、俺の姿を視界に捉えると、
「アスクくん!」
嬉しそうに俺の名前を呼んだ。
いや、名前を呼び続けた。
「アスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくんアスクくん……」
サフィラは俺の胸に頬を擦りつけながら、甘い吐息を漏らしてくる。
柔らかな香りと体温に包まれたせいで、なんだか変な気分になってきた。
朝っぱらから刺激が強すぎる。
「サフィラ、どうしてここに?」
俺は天井を見上げながらも彼女に尋ねると、サフィラは真剣な眼差しで言った。
「アスクくんが心配だったからに決まってるじゃん!」
「心配?」
「ごめんね。私が守ってあげられなかったから」
「どういうこと?」
「でも大丈夫。これからは私が常に一緒にいるから」
サフィラは俺の両方をがっしりと掴んで、サファイアのような瞳を輝かせた。
致命的に何かがおかしい気がするのだが、気のせいだろうか。
「そもそも命を狙われていたのはサフィラだよね?」
「アスクくんだよ?」
「公爵家に侵入してる時点で完全にサフィラ狙いじゃん」
「でも襲われたのはアスクくんだよね?」
「いや、襲われたっていうか……」
扉を破壊したら目の前にいただけというか、どちらかというとあれは不慮の事故というか。
「……まあ結果的に倒したのは俺だけど」
「やっぱりアスクくんが狙われてたんだよ!」
何かを確信したサフィラはうんうんと頷いている。
――いや、絶対勘違いだ。
とはいえ、そのおかげで俺が小屋から脱出したという事実が有耶無耶になっているらしい。
てっきり説教されるかと思っていたので不幸中の幸いである。
「そういうわけで、これからよろしくね」
「ん? どういうこと?」
と首を傾げたところで、ふと部屋の隅に置かれていた大きな荷物が目に入る。
「何これ?」
「着替えだよ。これからここで生活するための」
「えっ?」
「どうしたの?」
「いや、どうしたもこうしたもないよ。なんでサフィラが俺の部屋に住もうとしてるの?」
当然の疑問を投げかけると、彼女はさらりとした口調で言った。
「アスクくんが命を狙われているから。私が護衛として常に守らないとね」
「いや絶対逆だって」
「逆?」
「命を狙われてるのはサフィラで、護衛にふさわしいのはどちらかというと俺じゃん」
「そんなことないよ?」
「そんなことある!」
一体どこの世界に、悪役を守る公爵令嬢が存在するのだろうか。やはり何度考えてもおかしい。
完全に役割が逆なのである。
しかしどんなに争っても無駄だった。
なぜなら彼女は既に引越しの準備を済ませているのだから。
サフィラは改まったように姿勢を正すと、ぺこりと頭を下げる。そして言った。
「これから末永よろしくね」
そんな魅惑的な笑顔を見つめながら俺は思う。
――ずっと一緒にいたら、国外逃亡できなくない?
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