第37話 いつか――あの時あの場所で
37 いつか――あの時あの場所で
破裂する、メナディスの体。
それでも彼は、仇敵であるオルリアに向けて手を伸ばす。
その様は彼女を殺そうとしている様にも見えるし、救いを求めている様にも見えた。
ただ一つハッキリしている事は、最早紫塚狩南にはその手を制止させるだけの力は無い事だ。
よって、彼女には変え様のない死が迫り、ゲーテは眼を開く。
だが、その時――彼女の能力が発動した。
《な、にっ?》
メナディスの腕が変形を始め、くの字に折れる。
その様を見て、彼は悟った。
《そう、か。
それが、今のきさまの能力か――プラーム》
《ええ。
私の能力は、自分と自分が触れた物体を変形させる事。
今まではあなたの力が強すぎて無効化されていましたが、あなたはもう私の力を防ぐ事さえ出来ない》
この宣言を聴き、彼はもう一度だけ苦笑らしき物を見せる。
滅びゆく自身を顧みてから、彼は天を仰いだ。
《そうか。
二万年かけて構築したこの体を、滅ぼすか、転生者達よ。
だが、それも一興だ。
なにせ余には時間だけは、あるからな。
失ったなら、また取り戻せばいいだけの事。
きさまとも戯れる事ができたし、今日の所はよしとしよう》
オルリア・コーファインをその身に宿す、狩南を見つめながら彼は一笑する。
その様を見て――ゲーテ・ダンティスは吼えた。
《――ふざけるなっ!
今更きさまを逃す私だと思うか――メナディスっ!》
バルグガム・リグリオンを放ち、彼の存在自体を逆行させ、魂ごと消滅しようとする。
だがそれより早く彼は己の体を爆破させ、完全な死から逃れる。
彼――メナディス・ダンティスの魂は再び誰かの体に宿り、死地から脱した。
その事実を前にして、ゲーテは歯を食いしばる。
だが、今はこれ以上メナディスに意識を向けている場合ではない。
結界が解け、地球に戻った彼等は、今にも鼓動を止めそうな彼女を見た。
地面に横たわり、体中ひび割れている彼女は、もう生きている様には見えない。
「……本当に、バカだ、貴様は。
元々、貴様はこの戦争とは無関係だった筈。
私達の事など無視して普通に生きれば良かったモノを、なぜ命など懸けた……?」
けれど、彼女は、紫塚狩南は、ただ首を横に振る。
「……無関係、なんかじゃない。
明比佐が関わっているなら、それは他人事じゃ、ないもの。
実は秘密にしていたけど、私、これでも明比佐の事、大好きだったんだよ……?」
「―――」
だから、命を懸けたと言うのか?
たった一年間つき合っただけの男の為に、自分の命を投げ出したと?
ああ。
本当にお前は、訳が、分からない。
「でも……それもここまで。
私は明比佐に、愛想を尽かしたから、私と明比佐はもうお別れ。
本当に、私の彼は、甲斐性無しだったわ……」
最後まで笑顔を浮かべる、狩南。
故に、ゲーテ・ダンティスは今自分がどんな顔をしているか気付かないまま、まず彼女に詫びた。
「許せ――サンダルカ」
「つっ。
殿下!」
その上で彼は明比佐がどうやって笑っていたか思い出し、ソレを可能な限り再現する。
彼は、笑顔で、狩南に応えた。
「そうだ。
今、分かった。
私は、いや、俺は――東国明比佐としてお前に関われた事を、心から誇りに思う」
崩れゆく、狩南。
彼女は最後に、彼の笑顔をその魂に焼き付ける。
その時、彼は彼女に最後に問うた。
「お前はやはり――いつかあの時あの場所でした明比佐との約束を果たしたいか?」
彼女も最後に、笑顔で答える。
「……ええ。
やっぱり私はいつか、あの時あの場所でした明比佐との約束を……果たしたい」
「そうか。
なら――敢闘賞だ」
故に消滅の瞬間、彼はその術を発動させたのだ。
「――バルグガム・リグリオン――」
彼は、彼女の時間を戻して、その身を回復させようとうする。
アレほどクリスタを殺そうとしていた彼は、その好機を放棄して、紫塚狩南を救おうとする。
だが、今の狩南のダメージを回復させるという事は、彼も何らかの負荷を受けるという事。
その負荷とは、紛れもなくゲーテという意識を、衰弱させる事だった。
彼の意識はこの時点で一時的に消失して、その間際、彼は不敵に笑いながら告げた。
「だが、次は無い。
次に会う時は、私と貴様は宿敵同士だ。
その事だけは、忘れるな、狩南」
「……ああぁ」
そして、彼と彼女は――眩い光に包まれた。
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