第5話 ー 友達 ー

* * *


――夜の梅田。

騒がしい繁華街の裏で、1年生たちが缶チューハイを片手に集まっていた。


リーダー「朝霧(あさぎり)、死んだんじゃね?」

1年生たち「……(やりすぎだよ…)」


リーダーは薄く笑いながら天井を仰ぐ。


「落ちていくあいつの顔、今思い出しても笑えるわ」


その背後から、低い声が響いた。


「そんなに面白いか?」


リーダー「……は?」


1年生たちが振り返ると、真尋(まひろ)を中心に3年生たちが立っていた。


「朝比奈先輩……」「終わった……」


リーダー「どうしたんですか?そんな怖い顔して」

真尋「……朝霧 悠斗を突き落としたのは、お前だな」


リーダー「証拠でもあるんすか?(ニヤッ)」


真尋の友人がスマホを見せる。


「全部、この動画に映ってんだよ」


リーダーの顔色が変わる。


「誰だよ、録ったの……お前らか!?」

1年生たちは慌てて顔を横に振る。


リーダー「まあ、どっちでもいいっすけど」

   「朝比奈さんまで、あんな“ゴミ”の味方する必要あります?」


その言葉を聞いた瞬間――


「あいつはゴミなんかじゃない。」


真尋の拳がリーダーの顔を打ち抜いた。


リーダー「ッ……!」

真尋「……ゴミはお前だ」


リーダー「殴っていいんすか?俺、強いっすよ?」

真尋「……やってみろよ」


リーダーが殴りかかる――遅い。

真尋は軽く避け、ボディに一発。


リーダー「がっ……!」


真尋は髪をつかみ、顔を近づけて静かに言う。


真尋「お前のしたことは“犯罪”だ。逃げられないぞ」


逃げ出そうとする1年生たちの前に、真尋の友人が立ちはだかった。


真尋の友人「逃げられると思うなよ」

     「朝霧がどんな思いをしたか、体に教えてやる」


1年生たちは震えた。


* * *


――数日後、病院。


ゆっくり目を開けた悠斗。

ぼやけた視界の中に、沙羅そして両親の姿。


悠斗「ここ……どこ……?」

沙羅「悠斗くん、おはよ」

母「良かった……気がついたのね」


悠斗は慌てて体を起こそうとする。


悠斗「さ、沙羅さん!? なんで……」

母「あなたが屋上から落ちて、毎日沙羅ちゃんが心配して来てくれているのよ」


悠斗「えっ……!」

顔が真っ赤になる。


沙羅は、照れながらリンゴをむいていた。


悠斗「すみません……迷惑かけて」

沙羅「気にしないで。生きててくれてほんとに良かった」


その笑顔に胸が熱くなる悠斗。


沙羅「ほら、リンゴ。あーんして」

悠斗「じ、自分で……」

沙羅「その腕で?」

悠斗「……(両腕ギプス)」


赤くなりながらリンゴを食べる悠斗。


母「沙羅ちゃんみたいな綺麗な子が、悠斗のお嫁さんになったら、私幸せだわ〜」

悠斗「ぶっ……!」

沙羅「もうっ!」

沙羅が頬を赤くしながら、タオルで、優しく悠斗の口元を拭く。


その姿に、悠斗の胸はまた熱くなる。


* * *


病室に真尋が入ってくる。


沙羅「おにぃ」

真尋「元気そうで安心した」


沙羅「どうだった?」

真尋「あぁ、全部片付いた。リーダーは少年院。他のやつらも退学だ」

   「学校も、いじめを認めた」


悠斗は涙を浮かべて頭を下げる。


悠斗「僕のために……ありがとうございます」


真尋「悠斗……すまなかった」

悠斗「なんで真尋さんが謝るんですか…?」

真尋「俺が中途半端に助けたせいで、お前を危険な目に遭わせた」


悠斗は首を振る。


悠斗「真尋さんのおかげで救われました。何度も」


真尋「……お前は優しいな」


沙羅はその言葉に、頬を赤くして微笑む。


真尋「なぁ、悠斗」

悠斗「はい」

真尋「……俺と、友達にならないか?」


沙羅も隣で笑顔でうなずく。


悠斗「え……僕なんかで良いんですか……?」

目に大粒の涙が浮かぶ。


そこへ真尋の友人たちが病室に入ってきた。


友人「俺たちもだぞ」


  「よろしくな、悠斗」


皆の優しい笑顔。

ずっと欲しかった「友達」。


悠斗の涙は止まらなかった。


悠斗「……ありがとうございます……!」


* 第5話 完 *


* * *

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