ep3.Engage
『貴様、見慣れない服装だな。何処の者だ。』
近づいてくる男の耳は長かった。エルフ物を嗜んでいた記憶はないのだが。とりあえず、万歳ポーズの意味は伝わっているらしく、直ぐにでも処刑されそうな雰囲気でないことは肌で感じ取れた。左右の草木の音を聞くに、知らず知らずのうちに包囲されていたようだ。
『何処の者かと言われましても、目覚めたら急にこの森にいまして、それ以前の記憶がありません。』
冗談を言う余裕もないので率直に答える。後々考えてみれば、この回答も十二分に嘘っぽいので悪手たりえたが、相手が理性的だったので何とか首の皮一枚で繋がったらしい。最も、相手を恐れて下手に出たのが有効打だったのだろうが。
『そうか。ここで死ぬか大人しく連行されるか。どちらが良いか。』
一択でしかないだろうと言いたい気持ちをすんでで飲み込み、敵対する意思はなく、連行されても構わないということを必死に説明した。既に日が暮れてきていた。
美青年は他の者をして私を前後で挟ませ、彼自身が先頭に立って獣道を登ってゆく。
暫くして、見張り台に挟まれた木造の門が目に入る。なるほど、この獣道は防衛施設直通のものだったという訳だった。ならば発見され、警戒され、その上攻撃されるのも納得というものだ。
『ワグナーさまですかー?』
監視塔の上から少女が声を張り上げる。なんだこの監視体制は。我々が敵対勢力だったらまずいだろう、いくら何でも。
『私だ。メレディ、彼が山道を登ってきたから捕えた。尋問室は空いているか。』
『はい。というか尋問室、使ったことありましたっけー?』
『それもそうだな。』
2人が笑い合っているのを横目に、私は尋問室と呼ばれた場所へ連行された。
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