第4話 幕間 初めて味わう優しさはケチャップの味がした
ここはくさい。いつも、くさい。でもほかに行けるところなんて知らない。だからここにいる。
だれもわたしのことなんて見ない。だれもたすけてくれない。
おなかがすいた。さいごにごはんを食べたのはいつだったかな。
動く元気がなかった。だまってすわっていれば、おなかはすかない。だからわたしは、ここでずっとこうしてる。しゃがんで、おなかをおさえて。
――足音がした。
知らない男の人。きれいな服。きっと、わたしにいたいことをしにきたんだ。
けられるのはイヤだな。せめてほっぺをはたかれるくらいがいい。そう思っていると、
「君の名前は?」
「……なまえなんてない」
わたしがそう答えると、男の人は紙につつまれた何かを差し出てきた。
とても良いにおいがする。食べ物だというのはすぐわかった。
よだれがこぼれそうになった。だけどそれは、きっと特別なもので、わたしなんかが食べていいものじゃない。
「食べていいんだよ」
男の人が包み紙を取ると、中からおいしそうな食べ物が出てきた。
毒かもしれないと思った。わたしにやさしくしてくれる人なんていないはずだから。
でも、おいしそう。おなかがすいた。
わたしはついにがまんできなくなって、その食べ物をうけとった。
かぷっと食べたとたん、世界がひっくり返った。
おいしい。あたたかい。いつものくさったやつじゃない。ほんとうのごはんはこんなにもおいしいものだったんだ。
「んっく!」
「そんなに慌てなくても、ハンバーガーは逃げないよ。これを飲みな」
のどをつまらせたわたしに、男の人は飲みものもくれた。
その飲みものはとびきり甘かった。おまけにシュワシュワしている。
手に水がおちてきた。どうしてか、わたしは泣いてるみたいだった。
「話には聞いていたけど、まさかノルンがなあ……」
「ノルンって、わたしのこと……?」
そう聞いたら、男の人は「そうだよ」って笑った。
わたしにも、名前があったんだ。
ノルン。心の中で何度かつぶやくと、むねのあたりがポカポカした。
名前をくれて、ごはんもくれた。
この人は、神様かもしれない。
わたしがごはんを食べ終わると、男の人はこう言った。
「君は、《考古学者》になるんだ」
「こーこがくしゃ?」
こーこがくしゃってなんなのかな。でもきっと、この人が言うなら、すごいことだ。
この人のそばにいたら、きっとわたしはやさしくしてもらえる。だから、
「おべんきょう、してみたい!」
「よし。じゃあ行こう」
それからわたしはきれいなお家に連れて行かれた。
「ここで待っていてくれ」
いつまでも、待っていよう。
わたしはあの人にもらったやさしさを、いつの日か返さないといけない。
その時のために、あの人の役に立てる「こーこがくしゃ」にならないといけないんだ。
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