第6話 高野さんは性格も美人

 これは泣きごとを言っている場合じゃないぞ。

 レベルアップしたおかげで、残存HPがまた1に戻っている。

 このままでは、今から1時間後に、俺の呼吸が止まってしまう!



「あれ、どうしたの田中君。そんなに驚いた顔して?」

 高野さんが心配そうな顔をして俺を見つめている。

 どうやら時間停止が解除されたようだ。


「なんだか、胸のあたりに変な感触が…… なんだろう?」

 高野さんが自分の胸に触れながらブツブツとつぶやいている。

 女神様ったら余計なことして。高野さんが怪しんでるじゃないか。


「まあいいわ。じゃあ、私はこれで」

 そう言って、教室から立ち去ろうとする高野さん。


 ちょっと待って欲しい。

 今の時刻は12時30分過ぎなんで、少なくとも今日中に、HPがあと8減ってしまう。


「ちょっと待って!」

 俺は急いで高野さんに声をかける。


「今日は本当にありがとう! 高野さんって優しいんだね」


「そんなことないよ。別に普通のことだと思うよ」

 高野さんはニッコリ笑って、やはり教室を出て行こうとする。


「そうだ、なにかお礼をさせてよ!」

 俺は必死になって、高野さんを引き留めにかかる。


「もう、田中君は大げさだな。そんなの必要ないって」


「そんなこと言わずに! じゃあ、これから1ヶ月、毎朝おはようと一緒にありがとうって言わせてよ」


「なんだか恥ずかしいよ……」


「じゃあ、おはようは大きな声で言って、ありがとうは小さな声で言うからさ!」


「アハハ、田中君は面白い人だね。でも恥ずかしいから、おはようだけでいいよ」


「じゃあじゃあ、おはようの代わりに、『グーテン・ダーマンコッテス』って言うよ。それを言ったら、おはようって意味だからね!」


「え! ひょっとして、田中君も『めがふら』読んでるの?」


『めがふら』とは、俺が最近ハマっているライトノベル、『女神様にフラれた俺は、一念発起して勇者になって魔王を倒したあと、もう一度女神様に告白したけどやっぱりフラれた』のことである。


『グーテン・ダーマンコッテス』とは、その『めがふら』に出てくる言葉であって……

 あせった俺は、咄嗟とっさに自分が好きなラノベの台詞を口走ってしまったのだが……


 あああっっっ!

 そういえば、『めがふら』の設定って、俺がいた『ファンタスティア』の世界観とほぼ同じじゃないか!


 ということは、俺以外にも『ファンタスティア』から転生した日本人がいるってことなのか?


 また頭が混乱してきたが、とにかく今は落ち着こう。

 今はHPの確保に全神経を集中させるべきだ。



「まったく、田中君って面白い人だね。本当に朝一番で、『グーテン・ダーマンコッテス』って言うつもり? アハハ!!! もう、お腹痛いよ。じゃあ、そこまで言うなら、楽しみにしておくね」


「うん、期待しておいて! 俺、力一杯言うからね!」

 俺がそう言うと、高野さんはまた声を上げて笑った。



 これは、なんだかいい雰囲気じゃないか。

 この感じなら、もう少し会話が続くんじゃないか?

 そんなこと考えていた時——


 いきなり知らない女子が教室に入ってきた。

「ちょっと春香、いつまでこんなとこにいるのよ! 早くご飯食べないと、午後の練習に遅れるよ!」

 よくわからないけど、なんだか怒っているようだ。


「ごめん、ごめん——」

 と、高野さんは笑いながら話を続け、


「——あのね田中君、私、陸上部に入ってるんだ。今日も午後から練習があるの」

 と、屈託のない笑顔で俺に告げた。



「でも、まだ入学して2日目だよ?」


「私、スポーツ推薦でこの学校に入学したの。だから春休みから練習に参加させてもらってるのよ」

 へえ、そうだったのか。高野さんって、性格がいいだけじゃなくて、運動も出来る人なんだ。


「これでも、中学の頃は、ちょっと名の知れた選手だったんだからね、なんてウソウソ。なんとかギリギリでこの高校に滑り込んだの。それじゃあ、私は行くね。明日の挨拶、楽しみにしてるよ!」


 高野さんはそう言うと、笑顔で俺に手を振りながら、友だちと一緒に教室から出て行った。


 どうしよう。あんなカワイイ子に手を振ってもらっちゃった。

 俺、女子に手を振ってもらったの、日本に転生して以来初めてかも……

 俺、あんなにカワイイ高野さんと仲良くなっちゃったよ。

 これも女神様のおかげかな……



 ハッ、なに言ってんだ俺。

 今朝、女神様のせいで死にかけたばかりではないか。

 あんなにカワイイ子と仲良くなれたからと言って、今は浮かれている場合じゃないぞ。


 まずはHPの確認だ。


『HP : 10』


 なんと、意外にも多くのHPを稼ぐことが出来たぞ。


 しかし——

 あれだけ喋っても、1日に必要なHP16には届かないのか……

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