初恋を、もう一度だけやり直す。

第1話

ーーまた今年も、貴方がいない冬が来る。


私はたった今掃除が終わったお墓の前に朝から花屋で購入した花束を置く。そのまま静かに目を瞑って手を合わせた。


「一ノ瀬くん。私ね、もう25歳になっちゃった。」


お墓に向かって苦笑いを浮かべる。当然返事は返ってこない。


11月29日、今日は私の25歳の誕生日だ。


貴方と出会って…そして貴方を失ってもう8年が経とうとしているというのに私はまだ1歩も踏み出せずにいる。


「25歳の一ノ瀬君にも、会ってみたかったなぁ。」


彼が生きていたら、今頃私たちはどんな関係だったんだろう。そんなたらればを想像してはもうどうにもならない現実に連れ戻される。


一ノ瀬冬真。それが彼の名前だった。高校2年の時に出会って、そして亡くなった私の初恋の人。


彼を失ってからというものの私の時間はパタリと止まってしまった。正確に言えば時間に取り残されてしまっているという方が正しい表現なのかもしれない。


当然のように季節は巡って私も大人になったけれど、心はずっとあの高校2年の冬に取り残されたまま。


「…会いたいよ、一ノ瀬くん。」


涙が静かに頬を伝う。こんな姿一ノ瀬君に見られたら絶対に悲しませてしまうと分かっているのに、私は毎年のようにここに来ては彼を思い出して涙を零している。


『なら、会わせてあげるよ。』


背後から澄んだ鈴の音のような声が聞こえて肩がビクンと震える。


ゆっくりと振り返るとそこには赤みがかった茶褐色の毛色をした1匹の猫がいた。


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