勇者の剣は勇者を選べない

エンザワ ナオキ

第1話 勇者の剣と1代目勇者

「これでこの世界の平和は守られた」


 世界の平和を守るために立ち向かう勇敢な者達。その者達を勇者と呼ぶだろう。


 拙者は勇者の剣。人間やエルフと話すことはできないが、一応感情もある。どんなに勇者に話しかけても返事がないのが時々寂しいが、一緒に旅するのは楽しかった。


「俺たちが創った剣なら、魔王も倒せるぜ!」


 勇者の剣はエルフの里で、勇者とその御一行に創られたのだ。4人ともとても個性的な人達だ。


 1人目は魔法使いの女の子。

 剣の拙者が言うのもなんだが、とてもかわいい容姿をしてあった。よく勇者と喧嘩をしていたが、あれは時間の問題。結婚すべし、そして子孫を残すべし……と思う。


 2人目は僧侶のおじいちゃん。

 喋り方がとにかく堅苦しく、女には目がなかった。旅先で貢ぎすぎて、勇者に怒られてた。おじいちゃんは人間とエルフのハーフらしく、見た目以上に若いらしい。


 3人目は剣士って感じの男だった。

 とにかく馬鹿力であって、最後っぽい鍵が必要な扉も力尽くで開けていた。そして、勇者しか使えない拙者を無理やり振り回して、勇者に怒られてた。ただ、自然と地球をとことん愛しており、どこかの人造人間と気が合いそうだ。


 そして、4人目が勇者。


 拙者が創られた時には、まだ16歳であり、頼りない男という印象だったが、今では立派に育った。

 とにかく面倒見の良く、とにかく仲間思いで、叱るべき時は叱る。飴と鞭の使い方はピカイチの人だ。

 そして、とにかく熱い男だった。火属性の技ばかり使ってよく拙者を燃やしていた。他の脆い剣であれば、燃え尽きてしまうほどの高温だったらしい。

 

 穏やかな自然に囲まれるエルフの大地。ここに戻って来たのは、勇者の剣を創った日以来、実に3年ぶりだ。


「この剣をこの大樹に奉納すれば、2代目の勇者も有事に対応できるだろう」


 エルフの里の中心には、大きな大樹が存在する。

 大樹の中は空洞であり、少し薄暗い。

 しかし、その奥にはちょっとした祭壇がある。

 その祭壇に拙者を奉納した。


(そっか……)


 勇者の剣は、冒険の思い出を振り返っていた。思い返せば、勇者は最初はかなりの貧弱であったが、世界を救った英雄となった。

 最初は両手で持っていた勇者の剣も、今では片手で振り回せるほどの力をつけた。


 魔王を倒したことで世界に平和は訪れた。しかしそれは、これまでの冒険の終了を告げることも意味する。


(ありがとう、拙者を創ってくれて)


 勇者の剣は、勇者一行に感謝を伝えたかった。

 ただ、剣は剣。勇者にいくら話しかけても、伝わることはなかった。


 奉納を終え、エルフの大樹から去っていく勇者御一行達。勇者の剣はふわふわでバルーンのような樹液に包まれていた。

 この樹液からは、勇者の力を持つものしか触れられないらしい。つまり次の勇者が誕生するまで、勇者の剣は日の目を浴びることはないだろう。


(……)


 静寂に包まれるエルフの大樹。


(ちょっとまって?普通のRPGとかならさぁ、剣が勇者に話しかけたら、テレパシーとか不思議な力とかで話したりできるよね?なんで拙者達には出来ないのかな?)

 

 勇者の剣は、不満を吐露した。この勇者の剣、ものすごくお喋りだった。

 勇者が小説や漫画の話を、勇者の剣に聞かされていたのだ。勇者は本が好きだった。


(だいたい、本が好きなら拙者の感情も読み取ってよ!!)

(今こういう気持ちなんだろうなーとか思ってさぁ!聞こえてなくても会話っぽい話してよ!!)

(一人称が拙者になったのも勇者様が読み聞かせた小説の影響だよ?一時は語尾も「じゃ」とか「である」とかお嬢様?執事?にもなってたんだぞ?)


 勇者の剣は……勇者にキレた。


「ありがとう……勇者の剣よ」


 勇者の剣が、怒っていると勇者が突然話した。この罵声が勇者に聞こえしまったのかと思い、恥ずかしい反面、嬉しい気持ちを隠せない勇者の剣。


(あ、勇者様……こちらこそありが……)


「何も聞こえないけど、勇者の剣なら勇者にお礼とかするよね?なんで何も言わないの?何のために小説たくさん読み聞かせたと思ってるの!!」


 勇者も同じ気持ちになっていた。


「お別れは……結構寂しいんだぞ……」


 勇者は寂しがり屋でもあった。


「恩知らずの剣め……」

(恩知らずの勇者め……)


 思いは伝わらなかったけど、思想は似ていたようだ。

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