第2話 勇者の剣と2代目勇者『ケチ』
1代目勇者が世界を救って20年。世界に再び闇の影が近づいていた。
(早くないか? 俺の出番……)
勇者の剣は、再び役目を務める時が来た。20年ぶりに勇者と再会のはず……だった。
「ここのお店で買うより、一つ前のハニーサイドで買った方が500Gお得ですね」
「で、でも列車に往復200G。3人乗るとしたら600G……ここで買った方がお得だよ」
勇者は世代交代をしていた。1代目勇者の息子である。しかし、1代目勇者と全く違うところがある。
「次行く街までは、とても寒いよ?このモコモコのお洋服を買った方がいいんじゃないかな?」
魔法使いの少女が勇者に問いかける。この少女は、勇者と幼馴染らしい。魔法都市の出身であり、1代目勇者御一行の魔法使いよりも魔力が高い……というか、この少女が全ての敵を薙ぎ倒している。
「ユウカよ……ハニーサイドでも杖を買いましたよね? 今月の予算は超えております」
「なんでよ! 買ってよー! いいじゃん!!」
(勇者さんよ……たまには、お願い聞いてやれよ)
勇者は、とてつもないケチだった。
この御一行のエースは魔法使いのユウカだ。ユウカがいなければ、この冒険は終了しているだろう。
「やれやれ……わしが代わりに出すから、ユウカどれがいいんだ??」
ユウカと勇者の言い合いを仲介する男。この男は、僧侶のおじいちゃん。唯一の1代目勇者御一行のメンバーである。相変わらず、女の子には優しい。
「ありがとう♡」
ユウカはかなり愛嬌がある。街を歩いても、そこら中から「かわいい」の声が聞こえてくる。
「よし! よろしく!!」
勇者渾身のガッツポーズを見せた。勇者はユウカと喧嘩すると、話を長引かせる。最終的には僧侶のおじいちゃんが買うことを知っているからだ。
(本当にケチなんだから)
勇者がケチなことは何となく知っていた。1代目勇者もケチなところはケチだった。しかし、ここまでではなかった。
「ユウカ、今渡しておきたいものがあるんだが……」
勇者がユウカを横目で見ながら話しかける。
「何? 勇者さん? また節約マント付けろって?」
節約マントとは、この世界で流通している、来ているだけで全ての品が10%オフになる代物だ。しかし、デザイン性には優れていなく、他の装備もきれなくなり、着ると1ヶ月脱げなくなるという、呪い付きだ。
「前に欲しがっていた、ペンダントだ。これをつけると魔力が上がるって言ってただろ?」
勇者は突然、ユウカにプレゼントを渡した。突然の出来事で驚いたユウカだった。
「なぜ? このペンダント、最初の街で欲しいって言ってたやつだよ?」
ユウカは、旅を始めて間もない時に、このペンダントを欲しがっていた。
(勇者……いいところあるじゃん!)
勇者の剣は、勇者のプレゼントをみて、1代目勇者との出来事を思い出していた……
――20数年前
蜂蜜の香りが漂うハニーサイド。ここは蜂蜜が原産品であり、町中に蜂の銅像やお店が立ち並んでいる。
「いいなぁ〜これ」
お店のディスプレイ内にある蜂蜜柄の服を見つめる魔法使いの少女。
「ユキ、欲しいのか? これ」
魔法使いの少女は、1代目勇者御一行の魔法使いの少女、ユキだった。
「勇者様! そんなことないです。ちょっとお高いですし……」
ユキは、うつむきながら勇者に話す。
「た、確かに高いな……じゃあいこうか」
勇者はその場を後にした。その後ろを足取り重くユキがついて行く。
――それから1ヶ月後
1代目勇者御一行は、デーモン城という、魔王側近の魔物が住むという城に出向いていた。
「魔物討伐、無事に済んでよかったね!」
ユキが勇者に笑顔で話す。討伐を終え、一行は宴会を開いていた。
「あぁそうだな」
勇者はそう返答すると、片手に飲み物を持ちながら、ユキに机の下に隠していた袋を取り出した。
「ユキ、これ……お前が欲しがっていた、ハニーサイドの服だよ」
勇者は照れながら、ユキに服をプレゼントした。
「勇者様……」
「ユキ……」
そこには、僧侶のおじいちゃんも剣士の男もいたが、お構いなしに見つめ合う2人。
「あのー大変申し上げにくいんですが、私が欲しいと思ってたのは、隣の青い蜂蜜柄のピアスです」
ユキが目を逸らしながら、勇者に正直に話す。勇者はすごく動揺した。
「え、こっちじゃないの?」
「あ、当たり前です!このくらいの値段なら私でも買えますぅ!」
ユキが見ていたピアスと勇者がプレゼントした服は2000Gほどピアスの方が高かった。
「嬉しくないならいいよ……質屋に出す」
「し、質屋に出すのは勿体無いです」
2人は照れながら、言い合いが始まった。これまで2人の言い合いは、たくさん見てきた。しかし、勇者がユキにプレゼントするのは初めてだった。
「勿体無いから、貰っておきます。ありがとう……勇者様……」
ユキは満面の笑みで、勇者にお礼を伝えた。ユキはオフの日、その服をずっと着ていた。
――そして、現代に戻り
「勇者さん? 気持ちはありがたいけど、この装備はもう力不足だよ……」
ユウカは勇者に向かい、呆れた口調で話す。それもそのはず、次は魔王城に乗り込む時に、初期装備を渡されたのだ。
(勇者……1代目とプレゼントの失敗癖は、変わってないみたいだね……)
勇者の剣とユウカは呆れていた。
(この2人が結婚することはなさそうかな……)
勇者の剣は、勇者の血が途切れないことをただ願った。
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