第4話

 規定が滅茶苦茶だ。

 楓は思った。

 四条、祇のいる空間を異界と呼ぶ、が強引に解釈するなら当てはまる。

 だが、祇とは?

 為端は巨大なハンドガンを抜いた。

「話ねぇ……とっとと済ませてくれないかね」

 希宇の額に狙いを付ける。

「簡単なことだ。忙しいので、あまり関わってもらいたくないんだけどねぇ」

「勝手もいいとこだね、人を利用しやがって。おまえには相応の罰を叩きつけてやるよ」

 為端は言うと引き金を引いた。

 アウトフレームの手斧が、素の弾丸を弾く。

「……斗空から縁をきられたのだろう。なら、別に気にしないでここで逃亡ライフを送れば良いじゃないか」

「事情が違ったんでね」

「そういう事なら、わかった」

 希宇はあっさりとしていた。

 アウトフレームが一気に跳んだ。

 為端の正面にたち、彼の左腕に斧を振るった。

 腕は高く宙を舞い、床に落ちる。

「な……」

 だが、見ると腕は繋がっている。

 同じ左腕が、床に転がっているというのに。

「何をした?」

 自問するようにつぶやくと銃口をアウトフレームに突きつけて、四発見舞う。

 衝撃でアウトフレームは二三歩後ろに下がるが、ダメージを受けた様子はない。

「……硬すぎるだろう」

 為端はアウトフレームをすり抜けて、希宇に向かって走った。

「え、ちょっと!?」

 楓がその背に声を上げが、すぐにアウトフレームを睨む。

 希宇の拳状にした右手から前後に長い棒と先端に巨大な刃のついたモノが伸び、軽く後ろに退いて構えた。

 アウトフレームの斧を、楓は柄の長い短刀で必死に受け流す。

 確実な射程距離で為端が銃を向けると、希宇の槍が弾くように叩いてくる。

 為端は銃の背でそれを受けて、蹴り上げるも、すぐに槍は彼の首を狙って振るわれる。

 銃床で叩きつけるようにして、為端はその攻撃を避ける。

 同時に腕を回して希宇に引き金を引くが、すでにその場から離れてていたために掠りもしていない。

 アウトフレームが急に戻ってきて、為端の背後から襲い掛かった。

 為端は回し蹴りの要領で、腹に横薙ぎされた斧の上を蹴って身体を浮かせ、そのまま銃床でアウトフレームの頭部を叩きつけた。

 かすかにうつむいた首の接合部分に二発打ち込む。

 火花が散った。

 アウトフレームはダメージを受けた様子もなく、為端が着地する瞬間に足払いを仕掛けてくる。

 為端は器用にその上に乗ってから別の位置に足を付けた。

 いきなり、希宇はぬぐい難い恐怖に襲われた。

 みると、背後に暗い空間ができていて、その奥から巨大な鉈を両手にもったワンピースの髪の長い少女が、一歩一歩、近づいてきていた。

 総毛立つほどの圧倒的感情だった。

「……やはりおまえだよ、為端」

 希宇は忌々し気に呟く。

 彼のアウトフレームが足元まで吹き飛ばされてきた。

 すぐに立ち上がり、斧を構える。

 どうやら、ミケタのリュックから伸びた腕に吹き飛ばされたらしい。

 希宇は為端に槍を向けた。

 アウトフレームは、暗い空間の中をのっそりと進んでゆく。

 鉈を持った少女は、進むごとに灯をつけながらその足を止めなかった。

 アウトフレームが少女のそばまでくると、その頭上に斧を振るう。

 少女は片手の鉈で受け流し、もう一方の鉈でアウトフレームの頭部を横薙ぎにする。

 腕を肘で折って下に向けた斧でその鉈を受ける。

「遊(ゆう)、ミケタ!」

 為端は二人を呼んだ。

 両手に柄の長い短刀を握りしめた楓は頭上から、リュックから伸びた腕を振るうミケタは正面から希宇に襲い掛かる。

 希宇は槍を一度頭上で回転させて楓を後方にやり、勢いでミケタの胸部に突きを放つ。

 ミケタの腕は槍を払いのけ、その腹部に拳の一撃を突き上げるように喰らわせた。

 うずくまりかけた希宇の首の根元に、為端が銃口をねじ込むように押し付けた。

 引き金を引く寸前、腕で払われる。

 開いた胸に、瞬間柄を短くした槍の先が為端の胸を貫いた。

 宇希の顔面を、ミケタの機械の腕が横に殴り、彼は吹きとばされた。

 為端は、そのまま膝をつき床に上身を倒した。

 サングラスと電子タバコがバラバラに落ちる。

「……まぁ、こんなところか」

 顎を手で覆った希宇は言って後方に走り、闇の中に消えた。

 アウトフレームの姿もなくなり、為端が胸を貫かれたとき、穴の中の鉈を持った少女もきえた。




 ОSこと「環太平洋連絡議会」の第零課遺祇統括機構員である椋悠は横浜の対策室で自衛隊陸相の鹿等目と同室だった。

 もっともそれぞれが違う作業に忙しく、ホワイトボードで机を仕切っていたが。

 夕刻、涼悠がコーヒーを飲みつつ休憩していると、帽子をかぶった鹿等目が顔を出してきた。

 珍しい。

 二人は反目とまではいかないが、協力とは事務処理程度の交流しか持たなかったからだ。

 眉間に皺を寄せつつ、時間はあるかと聞いてくる。

 椋悠はどうぞと、端の折りたたみ椅子を鼻の先で示す。

 ぎこちない挨拶もそこそこに、椅子を自ら取ってきて彼女の机の前に置いて鹿等目は座る。    

「……市民もそうですが、下からの不満も多いんですよね、今回の復旧作業」

 自身の弱みを見せつつ復旧作業と言う言葉を強調される定例文のような話法に、椋悠は失笑をこらえた。

 それにしても、自衛隊としては下から不満というのは、前代未聞だろう。市民からというのは、いつものことに加え、「一月の雨」事件もある。

 五年前の一月十二日、日本全土の通信網に情報洪水と言うべき事態がおこった。   

 未曾有の大事件と言って良い。

 通信網は一気に過負荷となり各情報網は大なり小なり孤立、電脳化している人々は混乱に陥った。

 祇と呼ばれる自律情報体が出現し、それを使って浮島となった情報が接続される。同時に、神を構成する経路である「神経」が空に現れた。

 日本は表では無視を決め込み、裏では神祇連絡部を設立して政府との両輪で対応を行った。

 いままでのところ、新祇連絡部は情報をまとめる役割に奔走するに過ぎなかった。

「そりゃあ、ただの復旧じゃないですからねぇ」

 知らない振りをしつつ、椋悠はことばでつついた。

「そうなんですよ」

 即妙に相槌を打つ鹿等目の視線は鈍かった。

 わかりやすい奴。  

 もっとも、情報局員でもない秀才の官僚はこの程度だろう。

「そこで提案なのですが、ウチの先発隊に協力して頂けないでしょうか?」

 ほぅ……。

 椋悠は内心で、つぶやいた。

 意外と厚顔無恥なタイプか。

 だとすると、神祇連絡部と共同で炭燈楼に足場を築くという彼等の真意をこちらが把握しているのをわかってのことだろう。

「わかりました。我々は常に協力体制にあります。当然のことですよ」

 椋悠は笑顔を作った。

 頭の中では、先発隊とやらをどう料理しようか考えながら。

「そういえば、中尉は確か今は日向依葉殺害の事件を担当されていたのでしたっけ?」

「ええ。公安の要請で協力していました」

「今、畑違いでさぞご苦労さなっているでしょうな」

 椋悠は、その程度の認識かと溜め息をつきたくなった。

「私どもの仕事は事務より調整のコミュケートですから。礼儀作法を知っていれば楽ですよ。特に神祇に関しては」

 鹿等目は一瞬、ぼんやりとした。日向依葉の事件の話をしているのに、神祇と発言したのが理解できないでいるようだった。

 日向依葉という少女の失踪を大々的に捜査はじめたのは、炭燈楼の問題と無視できない関係が浮き彫りになったからである。

 一見、なんてことのない少女なのだが、炭燈楼が急成長した元とも呼ばれている。

 彼女は一塊の情報網でしかなかったものを脳細胞に降し、物理成長を引き起こさせて炭燈楼を拡大させて自身は埋没したのだ。

 証拠は情報基におけるDNAの相似点である。

 何故、彼女がそのようなことができたかの足跡に、依葉の家が神工学の大家の家系と言う点まで突き止めた。

 問題は、彼女は何者かの手によってバラバラにされて殺害されたのだ。

 そして、主な日向依葉の件は或維衆が独占してしまっていた。

 彼等は大々的に彼女の死を悼むと発表していた。

 ただ、調査した経験は現状の任務に大いに益するところが大だった。

 さらには、彼女はОS人員である。

 むしろ、今の任務が適切過ぎると言っても良い。



 

 楓は、特別班に送ったデータの返事をイライラしながら待っていた。

 為端はサングラスと電子タバコを拾い、何故か見た目にも傷はなく、ピンピンとしてソファに座っていた。

 同じく不機嫌なのはミケタだった。

 楓の機嫌の悪さは、規定の条項にないのに、異空間化した件についてだった。

 直接の返事は返ってこなかった。

 単に『日向依葉の件で、ОSに協力要請を送った。貴官は貴官で独自に言う少女を調査せよ』と来ただけだ。

 楓の疑問による要望をまるっきり無視したものだ。

 さらには、炭燈楼にも変化がある。

「上から流出してくる?」

 為端は楓の軽い説明を聞き返していた。

 頷く楓。

 担当楼エリア十階のセーフハウスだ。

「ミケタがいたエリア三十八東は上層と下層を区別する丁度接合店になっていたのよ。人は東京から上層を目指して炭燈楼を構築していったけど、炭燈楼で出現した祇たちは東京に向かって降りてきてるの」

「他人事みたいな言い方だなぁ」

 為端が気のなさそうにしながら皮肉る。

「何がよ?」

「おまえが、三十六東を踏み抜いたの、忘れちゃいないだろうな?」

「それなんだけど、明らかにおかしい。ウチには当日、上野で外注の殺人事件の内偵をしていた記録が残ってる」

「あー、日向依葉の事件だろう。そもそもが、そいつが発端の一人だ。希宇がバラバラにしたやつだよ」

「どういうこと?」

「……らしい」

 最後、敢えてかわからないが、はっきりと言葉を濁す為端。

 楓の分析野は、しらばっくれている彼の様子から、何かかなり深いものがあるのを探知したのだが、そこまでだった。

 楓はごっそり抜けている記憶を呼び覚ます作業に没頭していた。

 公安二課付き特別班から、事件資料を集めてもらった。

 セーフハウスで、楓は電子ボードに映るそれに首ったけになる。

 日向依葉は戸籍にその名がなかった。

 だが、小中高という学校に在籍していた記録はある。

 成績は中の下。

 授業態度は可もなく不可もなく。

 ただ、大学にも行っていない段階で神工学の論文を幾つか発表している。

 テーマは人間の成長過程と、神祇の司る天輪についてだった。

 曰く、十七歳で天輪は三度目の回転を始め零に一端戻り、十八歳から今一度の輪道を始めるというものだ。その間、十七までの回転経験により、天輪の種類が決まるという。中には、そのまま祇になる輪道もある、と。

 依葉はその最後の結論を実践するかのように、十八で人間界から消えた。

 家庭問題は、神工学の大家と言われているものに反して、依葉は両親から凄まじいDVを受けていたらしい。

 自殺未遂三回、日常的自傷行為の記録がある。

 両親は対外的には面倒見がよく愛想がいいと言われていたが、依葉の精神科医・カウンセラーの記録がある。

 その二人は今、行方不明だが。

 戸籍すらないというのはどういうことか。 

楓はそこに注目して考えていた。

 祇を自身に降ろして、炭燈楼発展の原因にもなったという憶測ができるОSの記録もある。

 当たり前のようだが、特別班の作った「認識規定」が使えない。

「それとミケタとどう関係あるんだ?」

 脇でだまってボードを覗いていた為端が煙を吐きつつ聞いてくる。

「多分、今、炭燈楼は依葉をモデルに使いだしてる。彼女が炭燈楼と関係あるとしたら、もう死んでるかどうかはわからない。ミケタはその中にいたけど今は追放されている。そしてあたしたちがミケタに囚われている。なら、ミケタを炭燈楼のトップに据えれば良いと思わない?」

 二人は辺りを見回す。

 ミケタの姿は以前から消えていた。

 鬼となってから、消失したのだ。

 為端が思いついたように口を開いた。

「なら簡単な方法があるぞ。依葉が影響を与えられない空間を炭燈楼内で構築するんだ。大々的に」

「為端、ウチがミーナを踏み抜いた件について聞きたい」

 あー? と今度は為端が面倒臭そうな顔をする。

「簡単に言えば、構造空間維持力の弱いところをおまえが突いて崩壊させたんだよ。原因は知らんよ」

 ミケタの異界が弱ったというのに、彼女らは囚われている。矛盾である。

「その時、あんたは何してたの?」

「斗空からの仕事」

「どんな?」

「……上野で東雁ってとこの会社の総務をね」

「……東雁? あんたが誘拐した相手?」

「そうだな」

 東雁コーポレーションの社長は為端に誘拐されているのだ。

 或維衆にも何か関係があるかもしれない。

「ちょーと待てよ、さっき良いこと言わなかった?」

「ん? 俺は人生の先輩として範になることしか言ってないぞ?」

 楓に、電子タバコから煙を焚いている為端が答える。

「ミーナの空間維持力が弱ったというところ」

 楓は思い出していたた。

 認識規定。  

『 六、祇は祀られ無ければ鬼と化す。七、祇のいる空間を異界と呼ぶ。八、人間世界と接触する祇の世界は異界と呼ぶ。九、人は世界に存在しない』

 丸々と、今のミケタに当てはまらない。

 当のミケタは、今、普通に椅子に座っている。

 呟きかけ、楓はすぐに電子ボードに視線を落としつつ指を忙し気に動かす。

「ん?」

 楓の電子ボードの上に手をバンっとのせたミケタに、顔を上げる。

「あのさ、私たちみんな勝手すぎないか? 手段は一緒の癖に何してるかよくわからない。おまえら私の眷属のくせに自覚ないだろ?」

 強い調子で言われ、楓も為端も自然を装ってあからさまに視線をそらす。

「……うん、それは大人の事情」

 楓が空々しく空中に目を泳がす。

「赤ちゃんがどうやってできるのかとかそういうレベルの疑問だとでも思ってんのか?」

「理解度によるね」

「なら凄いこと言っても良いのか?」

「だめ。そこは大人の事情と言うのを察して」

「身勝手なこと言うな。大体、似たような提案は楓がこの前してただろう!?」

「あー、ミケタの主張も一理あるなぁ」

 黙って聞いていた為端がここぞとばかりに乗ってきたので、楓は舌打ちを呑み込む。

 コイツはコイツで食うに食えないのだ。

「まぁ聞け。ミケタのことも考えな。あんなザマ見せられて放って置くのも酷じゃねぇか?」

 楓の表情は怪しいと言う内心を一片も隠したりしていなかった。

「じゃあ、まずは……」

 開いた口を止め、楓は為端を改めて見つめる。

「何であんたが生きてるか、ということね」 

 言われた当人の為端はとぼけるように視線を巡らしつつ、電子タバコの煙を吐く。

 楓の眼球に付けたコンタクト・レンズが、相手の情報を高速で処理してゆく。

 その解析は初めての時の抵抗もなく、遺伝子配列(レシピ)まで読み込む。

 突然に楓の顔面正面に、髪の長い鉈を両手に持ったワンピースの少女が顔を近づけ、不気味な笑みとともに消えた。

 規定の七条、祇のいる空間を異界と呼ぶ。八条、人間世界と接触する祇の世界は異界と呼ぶ。九条、人は世界に存在しない、が為端に当てはまっているという情報処理結果もでた。

 まさか……。

 楓は自身が一人だけぽつんとそこにいる感覚を覚えた。

「……人間じゃなかったのか、あんた。しかも祇でもない」

 為端はおもしろ気に口元を見透かすように歪め、電子タバコを咥えながら黙っている。

 引っかかったのが九条、人は世界に存在しない、だ。

 特別班は何故か為端にこだわり、楓はその命令に従っている。

「何を今更」

 彼は鼻で笑った。

 立てた指を大きく回す。

「おまえも俺もミケタの眷属だって言ってただろう?」

 改めて、そういえばと楓は気付いた。

 特別班の規定には眷属に対する条項がない。

 眷属となった身としては、この眷属というモノには何かがあると思った。

「じゃあ、ミーナは……?」

「俺らがいる間は、偽祇というところかな。一応、鬼だけどな」

 そう、これも条項にない事態になったのだ。

 正直、ミケタは疲れ切っていたので、鬼としての力を背景に今何か言おうという気にはならなかった。

「……おまえらの私に対する扱いが不当だから、偽なんだよ」

 不機嫌そうにミケタが声を吐いた。

「ああ、そうね。次に……」

「まてや! 反応が適当すぎるだろう!?」

「えー、だってー、ミーナもさっき自分の眷属のことで怒ってたし―。その割にウチらには、なんか居るだけっていうか、まぁそれでもいいんだけどー、頼りないしー」

 楓は首を振りつつおどけるように言う。

「貴様……」

 ミケタは怒りに口元を震わせたために、楓はからかい過ぎたかと後悔した。

 悔し気な顔はすぐに窓の外に向けられて、楓と為端に戻されたときは嘲笑を含んだ見下ろしたものとなっていた。

「本来なら炭燈楼から叩き落しているところだが、まぁ我が眷属だ。ご主人は特別に多めに見てやるのも役目だろうな」

「うれしいでちゅ! さすがでちゅ!」

 楓の返しに、ミケタは文字通り地団駄を踏んだ。

 それを無視して、為端に顔を向ける。

「あんた、なんでその眷属みたいなの使える?」

「神工学と、こいつが半端モンのおかげだよ」

 面倒臭げに、為端は答えた。

「最後、希宇との関係は?」

 睨みつけてくるミケタを無視し、首を傾けて半眼にした目を向けてきた。

「……もういいだろう?」

「希宇とのやり取りは、こっちでも何かあった風だったね」 

「……おまえも、あの依葉について持ってそうじゃねぇか。フェアじゃないな」

 サングラス越しの目が鋭くなった。

 二人は気付かなかったが、ミケタは我慢する怒りに再び身体をわななかせていた。

 彼女には、先程の違和感の正体がわかった。

 こいつらは、同じ目的でくっついているという話をした直後に、まるでそんなことがなかったかのように、初めから勝手に動いている。

 眷属化したとはいえ、偽祇であるミケタにとって、この二人は異物だった。

 辺りの空気が霧がかるように着物と中国服を合わせたような服の姿が曇る。

 最初に気づいたのは、楓だった。

 皮膚がピリピリと痺れだし、コンタクト・レンズに空間異常の警報が映る。

「何?」

 ミケタは必死に身体を縮めているようだった。

 一条、祇はあまねく幾多の存在である。二条、祇は人や物の姿を取ることもある。八条、人間世界と接触する祇の世界は異界と呼ぶ。の三つが出そろっているが、七条、祇のいる空間を異界と呼ぶ。と、三条、人間は個として中心である時に物がみえる。四条、人間は存在の中にあってこそ人間である。が欠落していた。

「待って。おかしい!」

 楓は示された規定の処理を演算させる。

 薄れたミケタの姿がぎにゃりと歪み、そこには角を生やし上半身をはだけてシャツいちまいになり、短めのの太い棒を持った姿を取っていた。

 そして、楓の目には、六条、祇は祀られ無ければ鬼と化す。という文字が浮かんだ。

「……為端、鬼って何だと思う?」

 視線をそらさず、楓は押さえた声で聞いた。

「……炭燈楼に適応できてない連中が、自分にまずい存在のことを呼ぶ時の総称だな」

「今回のはちょっと違うみたいよ?」

 ミケタはこちらを睨み、瘴気を口元から吐いていた。

 炭燈楼に漂う雰囲気も変わり、そこはあらゆる存在が蠢く不気味な空間となっていた。

「……あー、炭燈楼からの排除ってやつも考えなきゃなぁ。こりゃ楽しいライブに立つことになりそうだわ」

 為端は腰のホルスターから巨大な拳銃を抜き、サングラスの位置を指で直した。

「……『我』は世界に宣言する……」

 ミケタがしわがれてはいるが、幼げな声で声にだした。

 リュックからの腕は機械には見えず、肉でできた腕が左右それぞれ二本ずつ、巨大な棍棒を握って現れていた。

「東京の空は我らの者である。地上を這いずりまわる蜘蛛どもが犯して良い域ではない」

 小さな身体はまとった瘴気で、数倍大きく感じる。

「……見ろよ、このガキ。さすが偽祇だわ、ただの鬼じゃねぇぞ。挙句、本当のライブだ」

 天井から管のような煙と光りが何本も降りてきて、ミケタの背に繋がっていた。

 それが有線付きの六枚の翼にも見えた。

 ミケタに繋がった管を通じて、炭燈楼中に現在の映像が流れ出している。

「来るよ」

 両手に柄の長い短刀を握った楓が、感情のない声で言った。

 ミケタは恐ろしい速さで、二人の間合いに入った。

 狙いを付けていた為端の銃はリュックの腕に払われ、もう一本の腕で棍棒を身体に叩きつけようとした。為端は足の裏で拳を踏み、勢いを利用してミケタの後ろに着地した。

 同時に楓を狙った棍棒は急に鋭い刃に変化したため、彼女は小刀を交差させて受け止める。凄まじい重さで、腰に力が入っているとはいえ、膝が曲がった。

 持ち上げられたもう一本のこん棒が軽く弾かれる。

 為端の銃弾だ。

 だが構わず楓に振るう。

 一瞬、間があったため、楓は後方に跳んでいた。

 ミケタは手のライフルで行動の自由を奪うべく弾幕を張りながら容赦なく距離を縮める。

 逆に間合いに入ったのは、楓だった。

 短刀でリュックと身体の接合点を狙って、鋭く深く斬りつけ掛かる。

 右手をライフルで弾かれたが、左手の短刀は深々と肩口に突き刺さった。

「……ほぅ」

 柄の部分に満たされていた原子離剥剤が注入されて、右肩からリュックの部分と右腕がだらりと下がる。

 だが、管の束がそこに巻き付き、あっという間に元に戻る。

 すぐに楓は後ろに退こうとしたが、野太い腕が棍棒を振るって脇腹を直撃した。

 帽子を押さえつつ、石ころのように床の上を転げながら吹き飛ぶ。

 何とか内蔵は無事だったが、鎖骨二本が砕かれていた。

 楓は右手でペットボトルをとりだしてストローから感覚遮断剤を飲み込む。

 辺りの壁や天井、床と言った構造物にひびが入りだし、小さな破片が軽い吹雪のように舞っていた。

「くそがっ」

 為端が拳銃でミケタの背に三回引き金を引く。

 しかし、破片が急に分厚い壁の形を取り、弾丸は破片と共に四散した。さらには、素の塊は形を取り始め、逞しい四肢を持つ角の生やした乱杭歯の馬のような姿を現した。

 空間につんざくような悲鳴が起こった。

 獣馬とミケタの間に、血まみれの鉈を二本持ったワンピースの少女が現れる。

「遊(ゆう)、クソミケタの動きを止めろ」

 為端は少女に指示して、素早く弾倉を取り換えた。

 遊と呼ばれた鉈を持った少女は、のっそりした動きから間合いに入ると、いきなり鋭いまでの素早さで、ミケタの背後から襲い掛かった。

 棍棒が鉈を打ち払おうとして、そのままつばぜり合いになる。

 その力はミケタの想像外だったようで、鬱陶しそうに、さらに二本の腕で遊を打とうとする。

 獣馬の顔面に銃弾を撃ち込み、衝撃で半狂乱に陥らせると同時に、為端は遊を襲う腕にそれぞれ三発弾丸を喰らわせた。

 衝撃に震たようだが、腕自体にダメージは無いらしかった。

 ただ、その隙に遊は付け根に向かって片方の鉈を叩きつけた。

 刃が折れて、あらぬ方向に飛び去る。

 流石の遊も驚きの表情をしていた。

 為端は舌打ちした。

 やはり遊は対人用で鬼には効果がないのだ。

 獣馬が為端に突撃してくる。

 腰からもう一丁のリボルヴァーを抜き、一発、獣に放つ。

 弾丸内にはいっていたのは楓の短刀と同じ、原子離剥剤だった。

 獣馬は撃ち込まれた胸のあたりを崩壊させながらも迫ってくる。

 為端は肘を前に出して足を浮かせるのがやっとだった。

 頭を下からから突き上げるような激突に、為端の身体は軽々と宙に浮く。

 そこから、破片の一片一片に手足をかけて距離を取る。

「楓、潮時だ」

 為端の言葉に、楓は反論もなかった。

 楓は、ペットボトルの中身を辺りに振りまき、床の構造物そのものを崩壊させると、そこから中に逃れた。

 為端も破片を伝い、天井から別エリアへと姿を消した。




 ミケタは裾を広げてうずくまっていた。

 そこから離れた瓦礫の間に、為端が倒れている。

 左右非対称の髪を整えつつ、ベレー帽をかぶり直した楓は、何とか立ち上がった。

 近くに小さな蠢くモノがあった。

 なにやら電子のみで構成されているのか、眼では形を捕えられない。

 それが這いずるように、彼女に近づいてきていた。

 ミケタは無言で何の遠慮もなく、アウトフレームで叩き潰した。

 怒りに満ちていた。

 それは思考を奪い、自我まで侵入して我を忘れかけさせている。

 彼女は、そこがどこかわからないまま、周りの構築物に感情をぶつけた。

 腕を振ると衝撃が走り、塔の一つが爆発してゆっくりと折れて行った。

 陰から逃げる人々の姿が見える。

 ミケタは構わず、他の構築物に衝撃波を放つ。

 階層は、爆発と塵で満ちた。

 記憶がなかった。

 今のミケタは、存在とその衝動だけで動いていた。

 塵が晴れた頃、階層は一変していた。

 禍々しい、言い状のしれないモノがいたるところで蠢き、廃墟と言って良い建物群で埋め尽くされていた。

 彼女はひとつ、感覚で不快なものを受信した。

 上層部にいるモノ。それが、すべて癪にさわった。

 ミケタは、生まれた不気味なある者たちとともに、上層にむかった。

 許しがたいモノが、上層にいる。感電し、電染してきている。

 ミケタは、名状しがたい生まれたての存在と共に、上層に向かった。




 そこの映像は、全てのチャンネル解放され、同時に介入していた。

 三十代の男が椅子に縛られ、口にガムテープを張られている。

 為端が部屋に現れた。

「よくもまぁ、嵌めてくれたなぁ」

 電子タバコを口に、皮肉気に笑っている。

 金髪の少年は面倒臭げに携帯通信機を取り出した。

 十分も経たない間に、男女五人が部屋に現れ、為端を囲むように立った。。

 金髪の少年含めて六人。全員だ。

 為端は基錠の口のガムテープをはがした。

「……で、おまえらに命じたのは斗空だろ?」

放送中、東雅基錠の発言を中心に話を始めた。

「……そうだよ。何時までもあんたの汚れ仕事してるわけにはいかないんだわ」

 為端の目が楽し気にやや細くなった。

 彼は基錠のぼさぼさの頭を撫でた。

「基錠もかわいそうだな。こんな連中に取っ捕まるなんて。これからも或維衆なんて奴らとつるんだら、身体も命も保障できないぞ。」

 基錠は目で何か訴えてくる。

 やっとメインのカメラに眼だけやった為端は、電子タバコの煙を吐いた。

「さて皆さま。これからサイコーのショーをお届けしましょう」

 次の瞬間、スーツの裏から拳銃を抜き、何のためらいもなく唖然としていた爾妖漸たちに次々と銃弾を叩きこんだ。

 倒れた連中にまた一発づつ撃って止めをさすと、サングラスをかけた顔をカメラに近づけた。

「よかったな、おまえら。一緒に日向依葉を探そうぜ」

 椅子のところに戻ってくると、為端は片手に持った拳銃を基錠の首に押し付けながら、もう一方の手に持ったナイフで拘束している縄をほどいてやった。

 口のガムテープを自分ではぎ取った基錠は、その場で為端を睨みつけた。

「ん? どうした。もう自由だぞ?」

 為端がわざとらしさを強調するように言う。

「……おまえの命令じゃなかったのか」

「或維衆の暴走だよ。俺の知った話じゃなかったんだけどな」

 基錠はゆっくりと立ち上がり、為端から視線を離さないようにして部屋から出て行った。

「……まぁ、御覧の通りだ。ご視聴、ありがとう。あと俺を追い出した或維衆。この為端の名に懸けて言うが、ただで済むと思うな? 土下座しようが斗空の首一つ持ってこようが、絶対にゆるさねぇ……」

 為端は周囲にあるカメラを、一台づつ拳銃を構えて撃ち壊していった。




 髪を両手で整え、ダーク・スーツ姿の基錠は椅子に座り直して脚を組んだ。

 どこか暗い雰囲気をもった男だ。

 東雅基錠。

「……あー、三文芝居は終わったか?」

 為端は咥える電子タバコの端で無表情な眼をしていた。

「……ああ。もうあんたは自由だよ」 

「待ってたよ。随分と時間食わされたがな。裏切ったかと思ったぞ?」

 基錠は独特な皮肉な笑みを見せていた。

 まるで世界中をせせら笑っているかのような印象を受けるものだった。

「ウチの元上司とはちがうんでね」

「そんなに嫌いなのか、斗空を」

「嫌いだね」

 即答する為端に、基錠は鼻で軽く相手の意識を弾く苦笑をする。

「少しは新名の良い奴なら、幾ら嫌いな奴でも手籠めにするもんだがな」

 はるか頭上から声をやってやるとでも言いたげな一言だった。

「俺はそのタイプじゃねぇ。一介の消し屋だしな」

 為端はまったく気にしてない。

「一介の消し屋にしても、大それたことしてる自覚もてよ」

「その消し屋が、一介なら世の中の連中も一介の存在でしかないと見せてやるよ」

 彼は電子タバコから煙を吐いて、ニヤリと笑った。




「やるじゃないか」

 炭燈楼の高層一階に仮設テントを張っていた椋悠は映像を見て、殺意に満ちた目になり、テーブルの脇のコーヒーカップから一口すすった。

 優生思想をもつОSの一員として、彼女は炭燈楼上部の占領を考えていた。

 三十八階の壁も知っている。

 だからこそ、その上層階を独占して新しい人類の楽園を造ろうとしてたのだ。

 しかし、状況が変わった。或維衆と東雁が組んで侵入してきそうなのだ。

 一応、或維衆には挨拶してきたが、東雁が組んだなら話は別だ。

 唯一希望があるとしたら、椋悠が或維衆のカバーになっている点だろう。

「……いっちょ、ごり押しでいってみるかな」

 椋悠は深い息を吐きながらつぶやいた。 




 顔を黒く染め、片目をハッキリさせたした帷乃裏である。

 コートの中はタンクトップ。首に緩い首輪を嵌めて、細い鎖を幾本も垂らしていた。ミニスカートの下に分厚い生地のデニム素材でできた幅が太く七丈ほどのズボンを履き、足元は底の厚い部分がところどころ金属でできている。

 第三十九階層。

 煤やかな空気が流れて、全体的に薄暗い。

 一歩、繁華街から出ると、建物などの構造物が影隣より深く闇に刻まれている。

 その中を、道を作るように、四方に淡く暖かげな光球の列が連なっていた。

 光りの道の一点が膨らみ、立っている二人の人物の影を大きく伸ばした。

 微風もない辺りの闇が、蛇のように蠢くのがわかった。

「やっぱり、これ以上は行けないか」

 帷乃裏が漆黒で長い胴のものが周りに寄ってくるのを、愛おしむようにクスクスと笑んだ。

 形態は龍。それも合成されたものだ。

『……硬いんじゃない。また別種の感覚なんだ』

 黒龍が濁った声で言う。

「而彌、あんたなら行ける。ひとつわかったことがある」

 風景は、途端、幾つもの鳥居が重なり、流れるように山の頂上へと続く道を造った。

 帷乃裏は出来上がった鳥居の通路を眺めた。

 霧が彼女らを飲み込む。

 当たりで放電するかのような輝きが瞬いた。

「なるほど……炭燈楼もそういうところがあったのかとね。確認したわ」

 而彌は巨大な体を空中で一回転させると、帷乃裏の合図をうけて、鳥居の入り口にのっそりと進んだ。 

 一気に、黒龍は跳んだ。

「さて……抜けてくれや」

 帷乃裏の口が笑みに変わり、而彌を眺めた。 

 鳥居の中に入った而彌はいきなり前進を加速させた。

 半ばまで行ったところで咆哮を上げる。

 喜びの興奮が伝わってきた。

 突撃するように鳥居の頂上をくぐると、そのまま黒龍が天井に向かって昇りだす。

 次々と現れる階層の床という天井を突き破り、ただひたすら而彌は空でも目指しているかのように進んだ。

 而彌が内部に取り込むように情報を喰い散らかしてゆく中、楓は急いで神経は而彌が通る各階とリンクしてゆく。。

 辺りの明かりが大きくなってゆき、開発途中の工場のような三十八階層が目の前に広がった。

 凄まじい情報量だ。

 帷乃裏は、高揚するのを隠しきれなかった。

「さてと、行くか。而彌、あんたの解放も近いよ」

 にやけながらつぶやいた。





第五章

 白い透き通るような身体で、眼球が電子でできた羽根までのいたるところに開いている存在が、為端の目の前に降りて来た。

 第三十九宇階層北。

 基錠を開放し、或維衆が浸透してくるのをセーフ・ハウスでソファに座り、電子タバコを吸いながら待っているところだった。

 彼等が炭燈楼に入ってくれば、目的の三分の一は達成できるのだ。

 しかし、突然の侵入物だった。

 サングラスが明らかに混乱したデータを送ってくる。

 彼は動かなかった。

 白い人型の物体は、輝く電子の線を幾本も伸ばし、為端を含め侘部屋中に接触する。

 それは一見、光りに見えた。

「……ほぅ」

 身体内を走る感触に、感嘆げな声を小さく呟く。

 祇でも鬼でもアウトフレームでもない。

「お初のお目見えだなぁ」

 煙を吐き、前のめりになりながら相手を上目見た。

 電子の線は為端の意識の奥にいる、遊にも接触した。

『……鬼を持つのか……』

 白い人型から言葉が漏れた。

 サングラスは混乱を収め、ひとつの結論を脳に伝達した。

 神。

 部屋中が相手の意思に脈動している。

 下手に動けば、身体の崩壊もありうる支配力だった。

『もっとも鬼と言えるほどじゃない。小鬼か……』

「……拝んで欲しいのか、それとも供物の要求か?」

 無視して為端は動じることなく、余裕ぶって挑発する。

 神の眼球は一斉に彼のサングラスを掛けた顔に集中した。

「……遊」

 ガラスが割れるかのような悲鳴が上がり、為戴にまとわりついていた電子の線が切断された。

 ジャケットの懐から拳銃を抜き、そのまま床に一弾を撃ち込む。

 神の目が蠢いた。

 動揺したのだ。

 為端はははっと笑い、適当に部屋のあちこちを撃つ。

 その衝撃は、同期していた神に直接衝撃として伝わっていた。

 神は部屋への電子の接触を切り、天井のものだけにした。

 瞬間、為端はいきなりソファから外に駆けだした。

 自分のところに神が降りてきた。

 想定外だ。

 繁華街裏の雑踏とした細い道路を複雑に走り回りながら、彼の頭はフル回転していた。

 ことによると、あの優生思想をもったОS。

 すぐにサングラスが解析を始める。

 当たりだった。

 しかもОSはよりによって或維衆ともパイプを持っている。




 椋悠は仮オフィスで日本の警察庁から送られてきた書類をチェックし終わったところだった。

 独りのスーツ姿の男が、尋ねてくる。

「……故暮が知事以下都議会をまとめました」

「そうか。斗空によろしく伝えてくれ」

 それだけで男は去った。

 いよいよ、彼女の母体であるОSが動き出した。

 浸透させていた上層の連中に影響を与え、把握下に置いた。

 ことは順調に行われていた。

 そこに、隣からコーヒーを入れたマグカップを一つ持って鹿等目が現れた。

「いやぁ、これは例の「一月の雨」事件から洗い直さないと、炭燈楼の復興は難しいですなぁ」

 快活気に馴れ馴れしく言って来た。

 この狸も何を考えているかわからない。

「あの、電子飽和で祇が現れた事件ですか」

 椋悠はデスクで冷静に対応した。

 立ったまま頷く鹿等目。

「そこで調べたんですが。我々は共同の任務に当たり、友好的かつそれらをもって情報を共有するべきですな」

 彼女は無表情で何も答えないでいた。  

 マグカップの中身を一口すすると、真っすぐ椋悠を見つめてくる。

「……たまたま、ОSの遺祇統括機構が行った以前の活動のひとつで二年前、東京上陸作戦ってものがある記録をみつけまして。これがいわゆる「一月の雨」事件だったんですなぁ。しかし、結果は見事に失敗して、ズタボロに撃退された、んだそうですが」

 椋悠はまだ答えなかった。

 マグカップを彼女のデスクに置いた鹿等目は、一息つく動作だけを見せて、続けた。

「本当ですか?」

「お話の中の撃退したというのは、どこの勢力です?」

 流れるように、椋悠は聞き返した。

「ウチの特殊作戦群でした」

「なら、わたしに聞くまでもないのでは? 事後処理やその他もろもろの記録もあるようでしょうし」

「それが、わたしのところには流れてこないのですよ」

「詳細はこちらでも確認いたしましょう。閣下もお調べください」

 鹿等目は、かすかに目を細めた。

「……そうですな」

 マグカップを再び取り、彼は隣の自分の執務室に戻った。

 机の上には、陸上自衛隊別班からの偽装された報告書が置かれていた。

 そこには、ОSが「一月の雨」事件を起こしたことが明言されていた。

 彼はさっそく、別班に炭燈燈に潜入した工作員を使った、対ОS作戦を指示した。




 ペッドボトルから構成促進剤をストローで飲みながら、楓は通路にあるベーカリーショップのテーブルに座り、ハムと明太子のサンドにコーヒーを目の前に置いていた。

 上野エリア第三十九階層階層西。

 昇れる事実上の最上階というので観光目的の人々が行き来するこじんまりとした繁華街と言った風だ。

 特にこの階層は人々に一種の畏敬の念を起こさせるのか、いかにも信心深そうなタイプが多い。

 彼女は不機嫌丸出しだった。おかげで周囲にはピリピリとした空気が張られて、誰も寄ってはこない。

 今、楓は必死にあらゆる回線を使ってミケタを追っているが、気配のけの字もない。

 挙句、為端はどこかで東雁基錠を解放した。

 一体何を考えているのか。

 それどころか、第四十層に掻けた破られたものがある。

 認識規定では捉えられない現象が起きていたのだ。

 そして、新たに第七条、祇のいる空間を異界と呼ぶ、第八条、人間世界と接触する祇の世界は異界と呼ぶ。の二つに抵触するような状況が出来ている。

 規定のそのものではないところが、楓に違和感を与えていた。

 電子の流れが異様に上層部から降りてきているのだ。第七条を強引に当てはめると、何とか認識下に状況を置けた。

 祇とも鬼とも違う存在が、現れていたのだ。

 何と言ったらいいか、楓にはわからず、本部に問いただした。

『炭燈楼上層部には、「神」と呼んでよい存在があることは確認している』

 返答はこれだけだった。

 神?

 いきなり、そのようなものを目前にされて、どうすれば良いというのだ?

 ようやく、楓は聞くことにした。

 拘束される嫌悪感で避けていたことだ。

「……ウチの最終的な任務、なんでしたっけ?」

『最終的には炭燈楼の祇を政府管轄の公安特別班の管理下に置くことだ』

 楓は、息を吐きながらサンドウィッチを一口つけた。

「なんでウチ一人が選ばれたんでしたっけ?」

『君はそのための先兵として潜入してもらった』

 舌打ちしかける。

「祇を管理下に置くとどうなるんです?』

『東京の未解決事件全てのヒントを得ることができ、なおかつ今後の東京の治安を制御できるようになる』  

「解決するんですか?」

『制御するためには色々ある』

 明言を避けていることに、楓の眼はやや細くなった。

 何故、この時期に?とは聞かなかった。

 ミケタによる、地上破壊に原因があるのはわかりきっていた。

 結局、ミケタをどうにかしなければならないという話に戻る。

 電染(でんせん)により、第三十九宇階層西の風景がゆっくりと変わってゆく。

 事実上の最上階として観光名所になり、繁華街になっていた。だが建築物の形が不定形になり、融合し、オリエンティックな神殿風に造り変えられていた。

 神が至る経路。

 神経がそこに集まっていた。

 彼等はその階層、三十九階を畏れて降りて来たのだ。

 畏れる何かがあったのだ。

 だが、それら神経はいつの間にか強引に一点に集められ下層に引きずり降ろされつつあった。

 お陰で神が形をとり、顕現することができていなかった。

 ただ、三十九階層に特異点が出来たことは確かであり、炭燈楼で勢力を張る者たちに無視できることではなかった。

「……神、ね。手に負えそうにないんだけどね……」

 いきなり、ところどころで弾けるような大きな電気の放電があり、変化と同時に階層にいた人々は混乱をきたした。

 走り込んできたのは、大きなパーカーで胸元にはリボン、ショートパンツをはいた均衡のとれたショートカットの中性的な少女だった。

 服は塵と染みで汚れてところどころ破れ、額や左腕から血を流していた。

 爆発に飲まれこまれて、吹き飛びながらもなんとか走り回っていた。 

「楓!」

 彼女は、視線で相手を捉えると、荒い息のまま一直線に向かって来た。

 稀宇だ。

 楓は、思わず身構えて手を拳銃に這わせる。

「おまえならなんとかできるだろう! 物理攻撃が効かない! こいつらを散らせろ!」

 『祇殺し』が必死に訴えてきていた。

 その後ろで爆発が連続する。

 神と見られるモノは八柱。

 奥に一体、仮面のようなものを被り、狼に似た座り方をしてこちらを見つめている者がいた。

 あとは、吸い込まれるような純白の人型の姿で口が顎まで裂け、眼球が幾つも身体に開き、光りの翼のようなものを背負っている。時折、電気の線が身体を走った。

 自分なら?

 意味が解らない。

 稀宇に向かって拳銃を構える。

「動くな!」

「ふざけるな!」

 何節もの棍状になった先に剣を付けたものが突然伸びてきて、楓の拳銃を手から弾き飛ばした。

 稀宇は鬱陶しそうに辺りをみまわして、楓の身体に腕をやり、近くの物陰に隠れた。

「いいか、よく聞け?」

 訳が分からないという楓に稀宇は怒気をはらんだ静かな声で言う。

 楓は、とりあえず大人しくしていた。

 稀宇何とか深呼吸した後で落ち着ちつき、彼女の耳に口を当てる。   

「わかってんだろう? あいつらは高層にいる神ってやつだ。祇とは違う。主に精神子激を仕掛けてくる奴らだ。ターゲットにされるとアウト。だがな。決定的に確実なのは、おまえの『認識規定』が効果を発揮する」

 楓は思わず稀宇の顔を見た。

 認識規定が、使える?

 祇殺しが神を恐れていることは確かだ。

 手も足もでないのだろう。

「このあたしが頼んでるんだ、さっさとやれ!」

 傲慢に稀宇は命じた。

 神の二柱がゆっくりとこちらに向かって来る。

 楓は何のことかよくわからなかったが、とりあえず、二柱に認識規定を当てはめれば良いと思った。

 『二、祇は人や物の姿を取ることもある』がまず、起動した。

 神の二柱は、「物の姿」と捉えられ、祇と認識される。

 次に『七、祇のいる空間を異界と呼ぶ』が起こった。同時に『八、人間世界と接触する祇の世界は異界と呼ぶ』も規定される。

 『三、人間は個として中心である時に物がみえる』も当てはめられた。

 ここでようやく、稀宇は背を伸ばして笑みを浮かべた。

「……よう、神様。祇に堕ちた気分はどうだい?」

 不遜を極めた一言だった。

 七節棍をもち、稀宇は跳んだ。

 一体の祇に横薙ぎの一閃を振るうとともに、手元を縮ませて迫る。

 腕で、剣の根元を受け流した祇に、反対側のたたんだ棍を高速の小さい円を描いて頭上に叩きつける。

 偽の頭部は砕かれるように小さく破裂した。

 稀宇は手元に戻した先端の棍の根元を握り、偽の首に剣を突き刺す。

 光りの塊と化し、祇は消滅した。

 次の祇は大顎を開けて迫っていた。

 巨大な翼で、稀宇の周りを囲むように包んでいた。

 後ろの四節まで真っすぐに横に伸ばして羽根を止め、先端の二節を喉から頭上に貫いた。

 輝きの中に飲み込まれて、瞬きが消えると、稀宇はだらりと七節棍を片手に垂らし、他の祇たちに鋭い眼をやっていた。

「……やっぱりな。おまえらは堕とせる」

 拍手が鳴った。

 二人はその音の方を向く。

 ウェーブがかった頭にサングラスをかけ、ジャケットにワイドパンツという姿の男が、ニヤニヤとして、少し離れた廃棄された建物の古い空調機の上にしゃがんでいた。

「お見事ですなぁ」

 稀宇は感情の真っすぐな力強いめを向け、無表情に立っていた。

「おや、為端。終わった後に登場じゃ、大物過ぎて話に入って来れないよ?」

「へぇ。で、それよりも残りの連中どうすんだ?」

 六柱が静かにこちらを伺っていた。

 特に奥の仮面を被った人型の神。

 それは、他の存在にある獣性が一切なく、明らかに別格として存在していた。  

 時間が経ってためか、他の神たちの姿がゆっくりと変わっていた。

 翼を広げた大顎を持った形は、スラリとしたマネキンのような純白な人間のモノになっていた。

 楓のコンタク・トレンズが、彼等をもう神とは認識していなかった。

 それは「人間」だった

 同時に、認識規定の「第四条、人間は存在の中にあってこそ人間である」が当てはまっている。

 楓は混乱した。

「どういうこと……?」

 これだと、為端は思った。

 彼は楓に付けた探ぢmm機からゆっくりとそのコンタクト・レンズのデータを解析していたのである。

「……分が悪い。そこのおにーさんに頼もうかな」

 稀宇は無表情で為端を見つめたままだった。

「おまえがその間、裸になって逆立ちしたままでいるってんなら喜んで受けるよ。後ろから刺されたんじゃ洒落にならねぇからなぁ」

「あたしにそんな趣味ない。黙ってやって」

 凛々しいまでの真顔で返してくる。

「……あそこにいる仮面なだがな」

 為端は舌打ちながらも、ニヤけていた。

 電子タバコの先で、指す。

「とてもじゃないが、勝てねぇ。無理」

 断言する。

どだい、神はここまで降りて来たのだ。

 ならまだまだ降りてゆくだろう。

「……あんたね、何しに来たの?」

 楓は思わず口に出していた。

「大体、なんでバトんなきゃならねぇんだよ。無視して上階行くぞ?」

 仮面の柱を筆頭に神たちは、こちらを伺ったままだ。

 それには、楓も疑問が残ってる。

「良いから行くぞ」

 彼女が言う寸前に、為端は歩き出していた。

 置いてきぼりになった希宇は七節棍をだらりと垂らして、神々を睨め付ける。

 神々はいつの間にか稲妻をまとっていた。

「……分が悪い」

 呟いて楓たちの背を追った。



「ミケタだぞー」

 棒状の口調。

 少女を前に、為端と楓は胡散臭そうに黙った。

 階層四十階は、他の階層と比べ変わったところはなかった。

 見た目だけだが。

 ただ時折見かける人々が少し、雰囲気が違う。

 実体のない影という雰囲気なのだ。

 稀宇はすでにいつの間にか別れて姿を消していた。

 ボロボロの通路を歩きつつ、為端はミケタの姿をとった少女を楓に見せていた。

「どうやって動いてんの、コレ?」

 楓は淡々と聞いた。

「遊を中に入れた」

「偽物じゃん」

「身体が滅ぶ前に動かしとかなきゃなぁ。腐ったら困る」

第五条、人と人間は似て非なる存在である。第九条、人は祇とも呼ばれる。が当てはまっているのが癪にさわる。

「ミーナはもっとこう、偉そうでしょ? これじゃ着ぐるみだよ」

「人の?」

「気持ち悪いこと言うな!」

「……事実なんだが」

「最悪……本物探すよ」

「それも賛成だが、気になることが」

「そんなことは良いから!」

「そんなことより、腹減ったの」

 恨めし気に上眼使いをするミケタの姿をとった遊ともいえない少女が言う。

 為端と楓は目を見合わせる。

「……何か食うか」

「そうね」

 ミケタは笑みを浮かべて機械的に両腕を上げた。

 為端が先導し、三人はひとつの屋台に入った。

 暖かい椅子の向こうには、人が居ない。

 だが、今までいた雰囲気である。

 たまたま席を外しているのかもしれないとはいえ、この階層の感じからこの状態が普通という確信を楓は持ってはいた。

 気付くと、各種の焼き鳥の串が皿に盛られたものと冷酒がカウンターに置かれているのも驚くことではなかった。

 為端はちらりと見て、敢えて手を付けずに両腕を前のめりに立てて、電子タバコを吸っていた。

 楓も、串にも冷酒のコップにも手を付けようとしない。

「おまえら食べないなら、もらちゃうぞー?」

 ミケタの姿をとった遊が二人を伺った。 

 その頭を帽子ごと為端がわしづかみにして、グルグルと回す。

 まるで抵抗していないように、ミケタの首は為端の想う通りに動かされ、カウンターに軽く押し付けると、そのまま動かなくなった。

「……魂呼びを考えたんだが、今ミケタ本人は鬼だし、遊が余りに型にハマる感じで身体にフィットしてやがるんだわ」

 楓はペットボトルの中身をストロー口から霧状にして串に噴射させた。

「うち等は眷属なのにここでこんなことしてて大丈夫なの?」

「偽祇の眷属は偽の眷属だよ。それに電染が下層域に広がりつつある。多分目的は鬼のミケタだ」

「あの連中……神扱いしてた奴らね」

 串を一本つまむようにして皿から取り、焼かれた鶏肉を頬張る楓。

 ペットボトルの中の液体が、祓いの役目をして霊の食べ物だった串を中和し、物質化できたのだ。

「祠でも造ってそこに魂呼びすればよかったのに。そうすりゃ、荒魂も和魂になんだろう?」

 何でもないことのように楓はいう。

「……それじゃあ、肉体に戻れなくなるんだよ、嬢ちゃん。ところでおまえ、ただの公安の使いっ走りじゃねぇだろう?」

 気が付くと為端のサングラスが曇ったかのように光りを反射させず、脇から楓のぶらっきぼうな表情を覗く。

「認識規定とかいうのも適当そうで穴がない……土御門家の人間か……」

「安倍晴明の傍系よ、ウチ」

 読まれたので、楓は隠すことなく素っ気なく答える。

「あの白狐の息子かぁ……俺はあいつを信用してないんだよなぁ。白狐が何らかの形で玉藻に関係あるとも思っている。ついでに言えば、公安部別班は土御門か」

 楓は細い眼をした。

「あんたこそ、ただの消し屋じゃないね」

「いや、ただの消し屋だ」

 嘲るようにしたあと、淡々と押し殺したような声で答える。

「或維衆は、上野の土地から上総までひろがってるよね? 平将門の首塚が太田道灌の造った江戸城の大手門にある。どういうこと?」

「……俵藤太か太田道灌に聞けよ」

「なるほど。俵藤太も太田道灌も関係者か」 

 為端は小さく舌打ちして顔を逸らした。

「或維衆にとっては、だ」

 串の肉を頬張りながら、楓はニヤリとした。

「ただの消し屋だから?」

「ああ……」

 不機嫌そうにしている為端を、楓はようやく理解できたと思った。

 突っ伏しているようで、そのまま串を口元に素早く持って来ていた遊は、遠慮なく肉にかぶりついていた。

「……うめぇ」

 思わずつぶやいている。

 遊は何時から為端が使っているのかわからないが、食べ物を口の中で噛んでいるという感覚を久しぶりに体感しているようだった。

「……で、遊とあんたの関係は?」

 為端は冷酒に一息付けて、電子タバコの煙を吐く。 

「いわゆる、怨霊というやつだな。ふらふらしてたから捕まえた」

「……あーそー」

 適当さ丸出しで言う彼に、茜は呆れかけていた。

「あれー。おかしいなぁ? 捕まえたのはどっちだったかな?」

 遊は悪戯っぽい顔を為端に向けたが、煙を見つめて彼は無視を決め込んでいた。

「どっちでも良いけど、ミーナの肉体に入れっぱなしで大丈夫なの? こっちが本物になるんじゃない?」

「一応、鬼胎という形をとってる。同化の確立は低いな」

「ミーナは今は?」

「どこかの階層を彷徨ってるだろうよ」

「どうやって見つけるのよ」

「神が集まってるところなら、ミケタがいるだろうな」

「……うわー、それを待ってるってこと!?」

 為戴がミケタを囮にしようとしてるのを楓は素で引いたが、為端に様子の変化はない。

「大体、黙ってるミケタでもないだだろう? 派手にやるだろうなぁ」

 為端はニヤニヤする。

 そういえばと、楓は思った。

 自分は大したミケタのことを知らないと。

「……あんたら、長いの?」

「ああ?」

 いきなり何の話だと串を咥えて指に電子タバコを挟んだまま、為戴は一瞬、鋭い眼を向けてくる。

「……まぁ、待ってりゃあいつから動いてくれるわけだ。多分あいつ、ブチ切れ放題だぞ」

 彼は聞こえないふりでもしているのかニヤニヤして、答えもせずに続けていた。

 ふと、重要な点に気づいた。

 自分が知らない、データを引っ張って来れない祇とは?

 楓は、黙って為端の意図に無意識の賛同を与えた。




『帷乃裏……?』

 而彌が事実上最上階に来て、身体を回転させながら帷乃裏に呼びかける。

 彼女は、今や真っ白に塗った顔に片目だけ生身でもう片方は真っ赤なカラコンを入れ、元の造形をまるっきり隠したド派手なメイクをした顔をしていた。

「……きてみたはいいけどねぇ……」

 彼女は両手を軽く広げて戻す。

「誰もいないし何もないじゃないの」

 呆れた口調だ。

『神が降りてきた原点のはずだけど』

「それだよ」

 帷乃裏はニヤリとする。

 床や壁に走っている電流の線をすくうように片手で集めた。

「これをまとめれば、あんたは祇にして神を操れるわ。空間デザインなら得意だしあたしがここをマシな形にする」

『……へぇ、良いねぇ』

 而彌は舌なめずりした。

『そして、僕の支配者の帷乃裏は、炭燈楼の支配者になるってことか。全て逆さまになるんだね。面白い』

「一緒にかましてやろうぜ、下界のものどもに」

 帷乃裏は、両頬を釣り上げた。

 なぜか無意識に表情が軋んだ。

 











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