010 - こっきょうをこえよう -
010 - こっきょうをこえよう -
リーシオの街を出て4日目の朝になった。
夜が明けてすぐリーシオにあるミアさんの実家に迎えに行ったらお母さんに見つかって妹のシアちゃんと一緒に朝ごはんをご馳走になってしまった。
もちろんタダで食べるのは悪いので燻製肉やパンを出したらシアちゃんに抱きつかれお母さんにも喜ばれた。
ズィーレキの街の安宿に戻り魔導列車で国境を越える段取りを話し合う、その後僕とロリーナは部屋に仮置きした「箱」を片付けてアイテムボックスの中に入りミアさんは隣国に向けて元気に出発した・・・筈なのに・・・。
・・・
「・・・ミアさんが可哀想になってきたよ」
「確かに不運過ぎるわ、今まで無事に生きていたのが不思議なくらいね」
僕とロリーナはアイテムボックスの中でミアさんの様子を眺めている。
ミアさんが宿のお部屋を出た所に管理人がやって来た、壊れた鍵を指差して怒っている。
僕とロリーナはアイテムボックスに入っているので会話の内容は聞こえないけど鍵を弁償しろと言っているようだ・・・結局ミアさんは泣きながら銅貨を1枚払っていた。
「扉を蹴破って部屋に入ったのは恐らくあの親父ね、そうじゃなきゃ鍵が壊れてるなんて分からないもの」
ロリーナの言葉を聞いて僕は舐め回すようないやらしい目でミアさんを見ている管理人の財布からお金を抜き取った。
ちゃりちゃりっ・・・ころころ・・・
「銅貨3枚と鉄貨4枚・・・意外と少ないわね」
アイテムボックス内の床に転がるお金を見てロリーナが呟いた。
予定外の散財にも負けず、大通りに向かって歩いているミアさんに2人の男が近付いてきた、一人は剣士、もう一人はローブを着ていて魔法使いっぽい。
「知り合いかな?・・・あ、壁ドンされた」
「壁ドゥン?というのが何なのか分からないわ!、でも見たところ絡まれているようね」
今ミアさんが居る場所は大通りに続く細い路地だ、運悪く人通りは全く無い。
「泣き出したよ!」
「男が剣を抜いたわ、まずいわね」
剣がミアさんを斬りつける寸前で僕は男2人をアイテムボックスに収納した、もちろん僕やロリーナが入っている空間とは別にしている。
斬られそうになって目を瞑っているミアさんも回収だ、こちらは状況を聞くために僕達の目の前に出て来て貰う。
「ミアさん・・・」
「ひっ・・・あれ、私斬られそうになって・・・また白い部屋だぁ!」
「危ないところでしたね」
「リーナさんが助けてくれたの?」
そう言って僕を見るミアさんの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
「うん、あの2人は知り合い?」
「毒竜に襲われた時に私を置いて逃げた人達・・・」
「わぁ・・・」
「ぐすっ・・・私を囮にした事をギルドに報告したのかって聞かれて・・・まだって言ったら急に剣を・・・」
あの2人組はミアさんを毒竜の囮にした犯人だった!、そんな人達に偶然とはいえ別の街で遭遇するミアさんの運の悪さってどうなの?。
「危ないからあの2人が入ってる場所の時間を止めよう」
「そんな事ができるの?」
ロリーナが驚いたように僕を見た。
「うん、頭の中に説明が浮かんだの、収納している場所ごとに時間を止めたり進めたりできるよって・・・」
「何よその規格外な能力!」
「知らないよ、文句なら駄女神に言って欲しい」
「・・・」
「・・・」
「例えば時間を凄く・・・100年くらい進めたら白骨死体になるの?」
ロリーナが恐ろしい事を言い始めた!。
「なると思うけど僕はそんな事出来ないよ!」
「でもハンターを続けるなら人を殺さなきゃならない時もあるわ、今のうちに慣れておいた方がいいと思うの」
「・・・」
「直接手を下すのが嫌ならリーナのう⚪︎こを捨てている谷底に落としましょうよ」
「あんな深い谷に捨てたら死んじゃうよ!」
ロリーナがとても酷い事を言い始めた、谷に転落して汚物まみれで死を迎える・・・死に方としては最悪だ。
「相変わらずリーナは甘いわ、甘々の甘ちゃんね・・・」
「・・・だってまだ人を殺すのは怖いし」
ミアさんを安宿に隣接した路地に送り出した後、僕は男2人組の服や装備をアイテムボックスに残して大森林の野営広場・・・ミアさんが野宿していた場所に放出した。
これであの2人は全裸で森の中に放り出された事になる、ミアさんを殺そうとした罰だ、頑張って街まで辿り着いて欲しい。
今僕とロリーナは2人の衣服や装備を確認している、臭かったから僕達の居る場所に移した時に埃や汚れは不法投棄の谷に処分済みだ。
「結構持っていたわね、金貨9枚と銀貨が10枚、銅貨も皮袋に沢山入っているわ」
魔導列車に乗り遅れて泣いているミアさんが映し出された画面を眺めながらロリーナが呟いた。
「金貨はミアを囮にして持ち帰った薬草の報酬のようね、私の時も3人で金貨9枚・・・1人の取り分は金貨3枚だったわ」
金貨3枚・・・およそ120万円の報酬か・・・凄いな。
「ねぇロリーナ、この金貨ミアさんにあげない?、流石に可哀想になってきたよ」
「甘やかしちゃダメよ」
「・・・うん」
ミアさんは乗車券を買った後、大きな荷物を抱えて困っているお年寄りを助けていて乗り遅れたようだ、割増料金を払って次の魔導列車に乗り込んだミアさんの表情は疲れ果てている。
お昼前に出発する予定だったのに今はもう夕方だ。
「この調子だと1つ先の街で泊まりになりそうね、3つ先までいけると思っていたのだけど」
「アイテムボックスの中にいる限りは安全だし別に急ぐ旅でもないからのんびり行かない?」
「そうね・・・」
今まで長閑な田園風景が広がっていた車窓の外は日が傾いて夕焼けが綺麗だ、遠くに見える大森林の奥には雪を被った高い山脈が聳えていて夕陽に照らされ真っ赤に染まっている。
「あ、隣の乗客が喧嘩を始めたよ」
僕は喧嘩に巻き込まれて大男に押し潰されているミアさんを眺めながら再び車窓の外の景色に視線を向けた。
「結構な日数かかるね」
「そうね、直線距離だとそれ程でもないのだけど大森林の魔物が出て危険な場所があるの、そこを避けて列車が走っているから南寄りに迂回してるのよ」
リーシオの街を出て15日が経った、昼間は魔導列車に乗り夜は駅に近い宿に宿泊する・・・列車の旅も10日を超えてしまった。
その間、ミアさんは時々実家に帰っているし、列車待ちの空き時間で街の散策や屋台で買い食いもしていてそれなりに旅を楽しんでいるようだ。
不運を引き寄せてしまう体質は相変わらずのようで、ヒビの入った壺を壊したと言われて買い取らされたり、少年に財布を盗られそうになったり酔っ払いに絡まれたり・・・。
宿では2回襲われかけて列車にも3回乗り遅れた、本当に呪われてるんじゃないかと思うくらいトラブルに見舞われている。
「で、旅費が底をついたと・・・」
ロリーナが目の前で正座しているミアさんを睨む。
「はい・・・」
「仕方ないわね、これは「貸し」よ」
そう言って男2人組から巻き上げた銅貨と鉄貨の入った革袋をミアさんに渡すロリーナ・・・。
「明日には国境近くの街、シリィに到着するわ、そしたらいよいよ国境を超えてヴェンザ帝国ね」
「ようやくだね・・・ミアさん明日も朝早いですよね、もう夜遅いから寝よう」
ミアさんは昨日からアイテムボックスの中で寝て貰っている、ソファは僕が使うので床で寝る事になるけれど安いボロ宿で寝るよりはマシだと判断した。
昨日の夜・・・ミアさんは宿に入ってきた強盗に襲われた、幸いお金は隠していて無事だったものの全裸に剥かれたのだ。
寝ていた僕がたまたま目を覚ましたから剥かれるだけで済んだ、でもあと少し遅かったら本当に危なかったと思う。
慌てて宿の部屋に「箱」を仮置きした後、泣き叫ぶミアさんを回収して強盗の男は全裸で大森林の野営広場に放り出した、あと強盗が持っていた銅貨2枚はミアさんにあげた。
・・・
「綺麗な街だね、遠くに海が見えるよ!」
「そうね、シリィの街はメルト帝国の北西にあって、北はボラー王国、西はヴェンザ帝国と国境を接しているわ、500年ほど前に大きな被害を出しながら大森林を切り開いて僅かな陸路を開拓したのよ」
「へー」
「交通の要所でもあるから街はとても大きいわ、宿や飲食店、ハンター向けの武器屋も沢山あるわよ」
「それなら「箱」を一つ隠しておこうか、ちょっとだけなら外に出てもいいかな?」
「まだ国境を超えていないから油断できないわ、ミアに頼みなさい」
シリィの街にある魔導列車の駅を出てしばらく歩いた路地裏でミアさんが合図をした、僕は周りに人が居ないのを確認してアイテムボックスから出る。
「潮の匂いがする・・・風も気持ちいいね」
海が近いから風に乗って潮の香りが漂っている、僕は思わず深呼吸した。
「この場所でいい?」
ミアさんが僕に尋ねる、周りを見渡すと少し先に駅の建物が見える、後ろは商店の裏口かな・・・路地が奥まで続いていた。
「うん、ありがとう・・・」
僕は「箱」に手を翳して隠蔽魔法を発動すると路地の脇に置いた「箱」が消えた。
「じゃぁ明日の魔導列車の時間まで自由に観光していいですよ」
ミアさんの手に銅貨を6枚握らせて僕はアイテムボックスの中に入った。
この銅貨は先ほど小さな女の子がぶつかってすり盗られたミアさんのポケットに入っていたものだ、その3枚に僕が持っている3枚を足して渡した。
「この街は綺麗だけど治安が悪いね」
「他の街と比べればいい方よ、観光客も沢山訪れているし賑やかで私は好きだわ」
僕とロリーナはアイテムボックスの中で街の様子を眺めながら話してる。
建物はメルト帝国の他の街と同じでレンガや石造りのものが多い、屋根は茶色で統一されていて大通りにあるお店も賑わっている。
ミアさんはお金をすり盗られた事に気付いたようで涙目になってポケットをひっくり返していた。
「・・・でもあんな小さな子が泥棒をするなんて」
「普通にしていたら物盗りになんて50回に1回遭遇するくらいよ、ミアは不幸体質だから比較対象にならないわ」
「・・・」
「国境を超えてすぐにヴェンザ帝国のヴロックという街があるわ、そこで一旦落ち着きましょう」
「どんな街なの?」
「ここと同じ港に面した綺麗な街よ、メルト帝国とは建物の雰囲気が違うわね、辺境を治めている領主は領民想いの善良な人だから治安はここよりかなり良いわ」
アイテムボックス(0)(駄女神管理)
金貨:沢山
食料:沢山
アイテムボックス(1)
リーナが作った部屋:1
中二病くさい剣:1
下着:2組
ミアさんの家から貰ったソファ:1
剣士と魔法使いの服、剣、財布:1
強盗の服、財布:1
アイテムボックス(2)
リーナのう⚪︎こ:少量
ゴミ:少量
アイテムボックス「箱」
1:メルト帝国、大森林(不法投棄用)
2:ミアさんに貸出し
3:メルト帝国、大森林の野営広場
4:メルト帝国リーシオの街、ミアさんの部屋
5:メルト帝国ズィーレキの街、路地裏
6:メルト帝国シリィの街、駅の近くの路地
近況ノートにイラストを投稿しています。
https://kakuyomu.jp/users/hkh/news/822139841669584310
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