side:ガルド 僅かなズレ 02


 次の日、ガルドは気分を変えようと、少し難易度の高い、洞窟探索の依頼を選んだ。


 危険度はC。


 以前ならレオンが「この洞窟は構造が複雑で、迷いやすいかもしれません。罠の反応も多数あります」などと騒ぎ立てただろうが、今の『暁の剣』にそんな臆病風に吹かれる者はいない。


「ガルド様、本当にこの依頼でよろしいのですか? 昨日も少し苦戦しましたし……」


 ゴードンが不安げに尋ねるが、ガルドはそれを一蹴した。


「何を弱気なことを言っている! 昨日のは油断しただけだ。今日こそ、俺たちの本当の実力を見せてやる!」


 しかし、その自信とは裏腹に、洞窟探索は困難を極めた。


 まず、入り口付近でマルコが簡単な落とし穴に気づかず、片足を捻挫しかけた。


 レオンがいれば、真っ先に鑑定して警告していただろう。


「マルコ、何をやっている! 注意力が足りんぞ!」


 ガルドは怒鳴りつけたが、内心では冷や汗が流れていた。


 もしあの落とし穴がもっと深かったら、マルコは戦闘不能になっていたかもしれない。


 洞窟内部は、予想以上に複雑な構造をしていた。


 何度も同じような分かれ道が現れ、パーティーは方向感覚を失いかける。


 以前なら、レオンが地図を作成しながら正確なルートを割り出していた。


 しかし、今は誰もそんな器用な真似はできない。


「おい、本当にこっちで合っているのか?」


 アリアが不安そうな声を出す。ガルドは苛立ちを隠さずに答えた。


「黙ってついてこい! 俺の判断が間違うはずがないだろう!」


 しかし、その判断も怪しいものだった。


 ガルドが「近道だ!」と自信満々に進んだ先は、行き止まりだったり、強力なモンスターの巣に繋がっていたりした。


 ある広間では、コボルトの群れに遭遇した。


 一体一体は弱いが、数が多く、しかも狭い場所での戦闘は不利だった。


「アリア、魔法で一掃しろ!」


「は、はい! でも、ガルド様、この場所では味方も巻き込む可能性が……!」


「構わん、やれ!」


 アリアが放った魔法は、確かに数体のコボルトを倒したが、同時に落石を引き起こし、パーティーは分断されかけた。


 レオンがいれば、敵の配置や地形を考慮した上で、もっと安全で効果的な攻撃位置を指示していただろうか。


(くそっ、なぜこうも上手くいかんのだ!)


 ガルドの焦りは、頂点に達しようとしていた。


 レオンを追放した判断は、本当に正しかったのだろうか? いや、間違っているはずがない。


 あいつはただの荷物持ちで、戦闘能力もない雑魚だ。


 俺のパーティーには不要な存在だった。


 だが、現実として、レオンがいなくなってから、パーティーのパフォーマンスは明らかに低下していた。


 些細なミスが続き、それがじわじわとパーティー全体を蝕んでいる。


 以前は当たり前のように享受していた「スムーズさ」や「安全性」が、実はレオンの目に見えない貢献によって支えられていたのではないか、という疑念が、ガルドの心の隅で燻り始めていた。


(まさか……あのレオンの『鑑定スキル』とやらは、本当に……?)


 いや、とガルドは再び首を振る。


 そんなはずはない。あれはただの偶然だ。俺が本気を出せば、こんな状況はすぐに打開できる。


 しかし、その「本気」をどう出せばいいのか、今のガルドには分からなかった。


 彼はただ、自分のプライドを守るために、虚勢を張り、周囲に当たり散らすことしかできなかった。


 洞窟の奥で、依頼対象のモンスターを発見した時には、パーティーはすでに満身創痍だった。


 それでもガルドは、リーダーとしての意地だけで突撃し、力技でなんとかモンスターを討伐した。


 その代償は大きく、アリアは完全に魔力を使い果たし、ゴードンは盾を破損し、マルコは負傷が悪化していた。


 ガルド自身も、あちこちに切り傷を負っていた。


「……見たか、これが俺の実力だ」


 ガルドは、荒い息をつきながら、強がってそう言った。


 しかし、その声には以前のような自信は微塵も感じられなかった。


 帰り道、ギルドで報告を終え、わずかな報酬を受け取った。


 以前なら、もっと大きな達成感と、それに見合う報酬を手にしていたはずだ。


「ガルド様……これから、どうしますか?」


 アリアが、疲れ切った顔で尋ねる。


 その瞳には、リーダーであるガルドに対する不安の色が隠せない。


「……少し、休養が必要だな。次の依頼は、もっと慎重に選ぶ」


 ガルドは、そう答えるのが精一杯だった。


 内心では、焦りと不安が渦巻いていた。


 このままでは、『暁の剣』の評判は地に落ちるだろう。


 そして、自分のリーダーとしての資質も……。


(レオンめ……あいつがいなくなっただけで、こうも歯車が狂うとは……)


 認めたくはないが、認めざるを得ないのかもしれない。


 あの、ただの荷物持ちだと思っていた少年の存在が、実はこのパーティーにとって、思った以上に大きかったということを。


 ガルドは、重い足取りで宿へと向かった。彼の肩には、追放した少年の影が、まるで嘲笑うかのように重くのしかかっているように感じられた。


 この焦りをどうすればいいのか、ガルドにはまだ答えが見つからない。


 ただ、何かを変えなければならないという漠然とした思いだけが、彼の胸を締め付けていた。

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