Side:ガルド 僅かなズレ 01
ちっ、ようやく目障りな奴がいなくなって清々したぜ。
ガルドは、数日前にレオンとかいう荷物持ちを追放して以来、どこか晴れやかな気分でいた。
パーティー『暁の剣』のリーダーである自分にとって、あの根暗で戦闘能力の低い少年は、正直なところ目障りな存在でしかなかったからだ。
「ふん、あんな奴、最初から雇うんじゃなかったな」
朝のミーティングで、ガルドはわざとらしくそう吐き捨てた。
魔術師のアリアが、追従するように扇子で口元を隠してくすくすと笑う。
「本当ですわ、ガルド様。レオン君がいると、どうにもパーティーの空気が重かったですもの。これからは、わたくしたちの実力に見合った、華々しい活躍ができますわね!」
「当然だ。俺たちの『暁の剣』は、もっと上を目指せるパーティーだからな」
ガルドは胸を張った。
レオンの『鑑定スキル』とやらが、時折役に立ったような気がしないでもないが、それも気のせいだろう。
大体、あの男の進言はいつも悲観的で、パーティーの勢いを削ぐものばかりだった。
危険だ、呪いだ、と騒ぎ立てては、結果的に取り越し苦労に終わる。
そんなものに付き合っていては、いつまで経っても二流のままだ。
「よし、今日の依頼だが……これにするか。『グレイウルフの群れ討伐』。場所はウィンドミル平原。危険度はD+。まあ、俺たちにとってはウォーミングアップにもならんな」
ガルドが選んだのは、ギルドでも比較的簡単な部類に入る依頼だった。
レオンがいなくなったことによる影響など微塵もないことを、まずは手堅い成功で証明したかった。
そして、あわよくば最近少し停滞気味だったパーティーの名声を、ここらで再び高めておきたいという思惑もあった。
「楽勝ですわね、ガルド様!」アリアが媚びるように微笑む。
斥候のマルコも、盾役のゴードンも、特に異論はないようだ。
レオンがいた頃は、こういう時でも「念のため周囲の状況を詳しく鑑定した方が…」などと水を差すようなことを言っていたが、今は誰もそんなことは言わない。実にスムーズで心地良い。
ウィンドミル平原に到着し、早速グレイウルフの捜索を開始する。
マルコの索敵によれば、群れはそう遠くない場所にいるはずだった。
「よし、見つけたぞ! 数は……7匹か。雑魚だな」
マルコが指さす方向へ、ガルドは迷わず突撃の号令をかける。
「行くぞ! 一気に片付ける!」
先陣を切って駆けるガルドに続き、アリアが詠唱を開始し、ゴードンが盾を構える。
いつもの、そして必勝の陣形のはずだった。
しかし、最初の躓きはほんの些細なことから起こった。
アリアの放ったファイアボールが、狙いよりもわずかに逸れ、先頭を走っていたグレイウルフではなく、その後ろの茂みに着弾したのだ。
茂みが燃え上がり、グレイウルフたちは一瞬怯んだものの、すぐに散開して襲い掛かってきた。
「アリア! 何をやっている!?」
ガルドは舌打ちする。普段なら確実に仕留められたはずの一撃だ。
「も、申し訳ありません、ガルド様! 少し風が……」
言い訳するアリアだが、その顔には焦りの色が見える。
レオンがいた頃は、彼が風向きや敵の位置を細かくアリアに伝えていたような気がしたが、ガルドはそんな細かいことを気にするのは女々しいと思っていた。
散開したグレイウルフの動きは、予想以上に素早い。
ゴードンが一体の牙を受け止めるが、別の方向から回り込んできたもう一体に、マルコが対応しきれず腕を浅く噛まれた。
「ぐっ! くそっ、こいつら、思ったより連携がいいぞ!」
マルコが顔を歪める。
普段なら、レオンが「この群れは統率が取れている可能性がある」などと事前に警告していただろうか。
いや、そんなはずはない。ただのD+ランクのモンスターだ。
ガルド自身も、二匹のグレイウルフを同時に相手にしていた。
剣術には自信がある。
だが、レオンがいなくなってから、どうも戦いのリズムが狂うのを感じていた。
以前は、レオンが敵の些細な動きや弱点を叫び、それがガルドの剣筋を微妙にアシストしていたような……。
(いや、ありえん! 俺の実力はこんなものではない!)
ガルドは力任せに剣を振るい、グレイウルフを薙ぎ払う。
しかし、その攻撃は大振りで、わずかな隙を生んでいた。
その隙を突かれ、ローブの裾が引き裂かれる。
「ちぃっ!」
苛立ちが募る。
レオンがいなくなってから、どうも荷物の配分がおかしい。
以前はレオンがパーティー全体の荷物を効率よく管理し、個々の負担を軽減していた。
だが今は、各自が自分の荷物を持つため、微妙に動きが鈍くなっているのだ。
特にガルドは、リーダーとしての威厳を示すため、一番立派な装備を身につけており、その重量は馬鹿にならない。
戦闘は、結局ガルドがゴリ押しする形で終結したが、終わってみれば全員が軽傷を負い、アリアは魔力を消耗しきっていた。
討伐に要した時間も、予想以上にかかっている。
「……ったく、手間取らせやがって」
ガルドは、グレイウルフの死体を見下ろし、忌々しげに呟いた。
周囲のメンバーは、どこか気まずそうに黙り込んでいる。
「ガルド様、あの、マルコさんの傷の手当てを……」
アリアがおずおずと切り出す。
そういえば、レオンは薬草の知識も豊富で、手際よく応急処置をしていた。
今は、各自が持っている粗末なポーションで手当てするしかない。効果は薄く、気休め程度にしかならない代物だ。
(レオンがいれば、もっと上等な薬草を用意していただろうか……いや、そんなことはどうでもいい)
ガルドは首を振り、不快な思考を追い払った。
街へ戻る道すがら、パーティーの雰囲気は重かった。
ガルドは内心の焦りを隠すため、わざと大声でアリアのミスを詰り、マルコの不甲斐なさを罵った。
そうでもしなければ、自分のリーダーシップが揺らいでいることを認めてしまいそうだったからだ。
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