異能力者達が通う学園で恋愛を求めるのは間違っているのか?

@-SirentSiren-

第1話 オレ、入学!

ほんの少しの温かさを肌で感じる事が出来る風が吹くこの海上学園都市かいじょうがくえんとしで、オレこと『霧篠むしょう しき』はデカデカとした門がそびえ立つ建物――新生学園しんせいがくえんを前にし、佇んでいた。


「ようやく、ようやくだ……母よ、オレはここまで来たッ!!」


周りに人が居ない事を理解しているオレは、恥ずかし気もなく、声高々に告げる。

これからこの学園内で起きるであろうありとあらゆるイベントに、期待と興奮が募りに募りすぎたせいか胸のドキドキが止まらない。


「はいはい。こんな所で突っ立ってないで早く中へ行きますよ。時間を無駄にしすぎです」


不整脈にでも陥ってしまったのかと、医師の診断を仰ぎたくなってきたくなる程の胸の高鳴りを抑えている時だった。オレの横に居た、一人の可憐で、儚さを体現したかのような少女が、その白い長髪をなびかせながら前を歩いたのは。


「なぜ、なぜなぜなのですか我が神よ。どうして貴方様は、わたくしめに普通の青春を歩ませてはくれぬのですか…………」


手を組み祈りの態勢に変え、空を見上げながらオレは目尻に涙を浮かべる。

……こんな、こんなはずではなかった。オレはただ、この学園で、この舞台で、転校生として入学を果たし、人に恋し恋され、人を愛し愛される――そんな人として生きていく上での嗜みを享受したいだけだというのに……現実というのは、あまりに悲惨だ。


「私の言葉が聞こえなかったのですか?突っ立ってないで、早く中へ行きましょうと申しているのですが??」


まるでお人形――否、天使のように色白で、可愛らしい外見から出てくるとはまるで想像もつかないような、ゴミを見るかのような目をオレに向けてくるこのロリ体系の少女は『白銀しろがね孤珀こはく


オレがこの学園に通えるという条件と引き換えに、学園都市の上層から遣わされてしまった可哀想なお目付け役といった人間だ。


「うるさい!!今、オレはな……この胸の内が張り裂けそうな程の感動を噛みしめながら、自分自身の哀れな現状に異を唱えていた最中なんだよ!!」

「そうですか、では本音を言います。くだらない感情で私の時間を無駄にしないでください」


先程から片鱗を見せていたと思うが、この孤珀という少女――とにかく棘がある。

言葉、言動、性格――そのどれを取っても、毒があり棘がありとっつきずらいのだ。

……いや、百歩譲ってお目付け役を与えられるのはいいよ?けど、明らかにハズレだろコイツは!!マジでオレが一体何をしたってんだよ!!?


「ったく……へいへい」


そう適当に返事を返しながら、オレは孤珀の横に立ち、肩を並べ学園内へと足を踏み入れるのだった。




***




「今日はこのクラスに、転校生が二人来ることになっています。てかもう来てます」


1-Aと上に書かれた教室の扉の向こう側で、耳に優しい大人のお姉さんといった声が、オレ達について触れている。


「さっきから貴方の足が震えていて見るに堪えないのですが、そろそろ抑えてくれませんか?」

「……武者震いって知ってるか?オレは今心が奮い立っているんだ。決して、決して緊張や不安で震えているわけでなはいぞ」

「汗をかいているのが見て取れます。汚いですね、近寄らないでください」

「武者震いを利用したオレ独自の運動の効果によって汗をかいてしまったようだな。見ろ、これで腹筋バキバキだ」

「え、普通に見たくないです」


表情一つ変えていないが、目元だけは明らかに嫌悪を示しているのが分かる。

え?なんでそんな事言うの?腹筋ってカッコよくない?バキバキの腹筋って嫌いな人いなくない??


「あ。腹筋は好きですが、貴方の腹筋が嫌いなだけですよ?」

「お前もう学園都市のお偉いさんの元に帰ってくれよ!!!」


教室内に響かないよう小声でありながら、ある程度の声量を以て小言を入れておく。

……マジで、先が思いやられるんだが。え?本当にオレの学園生活は今後ずっとコイツが監視役としてつくのですか神よ??


「――――と、いうわけで。二人とも入ってきて」


なんてオレ達がコントのような何かを繰り広げていると、先生から入室の許可が出される。

という事なので早速、オレは扉に手をかけそのままスライドしようとしたのだが…………その前に、孤珀が我先にと扉に手をかけた。


「私は監視役兼、メイドのようなものなので、こういった事は私がやります。余計な事はしないでください」

「えぇ…………」


メイドだっていうのなら主であるオレの言動をもっと尊重するだとか、もち上げるだとかしてくれてもいいと思うのだけど、うん。

……てか待て?もしかして、これから扉を開ける時はコイツが率先して開こうとしてくるの??え?ダルイよ???いったいどのようなメイド像をお持ちなの??


「はいお二人さん。前まで来てね」


そんなオレの気持ちなんて露知らず、孤珀はまたしてもオレの先頭を歩き指示通り教室内へと足を踏み入れていった。


…………いや、俺の中のメイドって主の後ろを歩いてるイメージなんだけど……。


――自分のイメージと他人が持つイメージは違うと、そんな当たり前の事に気づかされるオレであった。

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