第2話 テスト直前!
放課後。
「菜央、帰ろー」
「そだね、今日は何処か寄り道する?」
菜央がそう織姫に言うと、机の上で手を伸ばして
「お家でゴロゴロしたい~」
と織姫は言った。
「じゃあお邪魔していい?」
「大歓迎!」
そう言って、二人は下駄箱に向かい。そして織姫の住む、ワンルームのアパートに着いた。
「うわぁ、前に来たの先週だけど、またぬいぐるみが増えてる……」
「UFOキャッチャーで、ちょちょいのちょい!」
その言葉に、ピクリとした菜央と、しまった! と言う顔をする織姫。
「織姫~? 一人でゲーセン行かないって言ったよね?」
「あ、えっと、その……どうしても欲しいのが切り替わっちゃう時期で、つい……ごめんなしゃい」
そう言ってぺこりと頭を下げた織姫の元に、ゆっくりと菜央は近づいた。
「お、怒ってる……よね、本当にごめんなさい」
「織姫、顔をこっちに向けて」
「はい……」
少し怯えた表情の織姫。そんな織姫に菜央は。
ビシッ
デコピンをした。
「あうっ」
「何にもなかったから許す。他校の柄の悪い生徒とかに絡まれなかったんでしょ?」
「休日で普段着だったから、店員さんに小学生と勘違いされた」
「……あぁ」
やはり残念そうな顔をする菜央。
「でも約束する。もう絶対一人じゃ行かない」
あんまりにも真剣な顔で織姫が言うので。
「約束を守ってくれれば、もう怒ったりしないから」
そう言って笑顔で、織姫を和ませた。
「冬期試験も近づいて来たし、織姫のノート見て勉強しますか」
テーブルの前に腰を降ろした菜央は、スクールバックから色々と取り出した。
「ふぁぁ……」
同時に、織姫が欠伸をする。
「眠いの?」
「うん」
こしこしと目をかきながら、織姫が返事をする。
「三十分だけなら寝ても平気だよ。それ以上だと夜寝られなくなるから起こすからね」
「分かった、おやすみぃ」
そう言って、織姫は制服のまま、ベッドに倒れ込んだ。
そうして数分。
「……寝たかな?」
菜央はゆっくり起き上がると、織姫の顔を伺った。
枕に埋もれて右の頬の方は見えないが、すやすやと寝息をたてて、織姫は寝ていた。
「本当に織姫は、よく寝るね。ある意味感心するわ」
返事が返ってこないのが分かっていながら、菜央は織姫に話掛けた。
「……もう、怯えなくていいからね」
悲しそうな顔をしながら、織姫の髪の毛をわしゃわしゃと撫でた。
「んぅ……あんまん」
「クスッ、寝てるときもあんまん食べてるんだ」
不安も何処かへ飛んで。菜央は笑った。
「それじゃあ後二十分くらいは、一人で勉強しますかね」
そう言って菜央はテーブルに向かった。
左側に織姫のノートを置いて勉強をする。
「ホントこの子、ノートまとめるの上手い」
寝ている織姫の方にそっと目を遣りながら、菜央は一人呟いた。
「でも、それだけじゃないな。記憶力とかもすごいし、生まれ持った能力の差か」
織姫はすごい。菜央は素直にそう思っていた。
運動面は苦手だが、勉学はこの二年間全て満点で、生徒会に薦められたくらいだった。
そんな織姫と一緒のクラスになって、一年生の時の『環境』を知った菜央は、織姫を守ろうと誓ったのだった。
「……と、あたしは勉強っと」
織姫のノートと睨めっこして、そうして二十分ほど経ち。
「織姫、起きて」
菜央は織姫の肩を揺さぶった。
「ふぇ、あと5時間……」
「それじゃあ本眠でしょうが!」
ぽすっ、と織姫の頭に軽くチョップを入れた。
「ふあっ」
びっくりして織姫が飛び起きる。
「ごめんなひゃい、寝ぼけました」
そう言って織姫はゆっくり起き上がる。
「寝ぼけるのはもう恒例行事だね、と……修学旅行の話とか、今日しない?」
「修学旅行? あ、テスト終わったら行くんだっけ」
すっかり忘れていたと言う様子の織姫。
「あたしは勉強するから、修学旅行で何するか決めておいてよ」
「場所は北海道だっけ?」
「そうだよ」
菜央が言うと、織姫は、んー、と唸って。
「カニと札幌ラーメン」
とだけ答えた。
「ちょ、食べ物だけじゃなくて行動予定!」
すかさず菜央はツッコミを入れる。
「んー、函館は、五稜郭行ったり、夜景見たり」
「無難だけど良いね」
「札幌は、クラーク像とえーと、何があったっけ」
そう言われて菜央も少し考える。
「……やはり札幌ラーメン」
菜央が言った。
「と、とりあえず函館は安定して決まりそうだし、大丈夫~」
うやむやにして織姫が言った。
「私も勉強する」
ベッドからぴょんと飛んで起きた織姫が、菜央の横に座る。
「教科書読もっと」
そう言って、歴史の教科書を手に取った織姫は、真剣な顔で文を読んでいた。
「あんた、歴史はそれで覚えられるんだっけ」
「そうだよ~」
はぁ、と菜央は溜息を吐いた。
「それがあたしにも出来れば苦労しないのに」
「菜央は運動得意、私は勉強が得意。それで良いの!」
織姫の言葉を聞いて、世の中なんでも上手くは行かないと、菜央は心から思った。
「今は5時半か、6時まで勉強してその後ちょっと遊ぶ?」
「うん、超乱闘ダイレクトブラザーズやろ~!」
そう言って、部屋の隅に置かれたゲーム機を、織姫は指した。
「久々にボコボコにしてあげようじゃない」
「駄目~! ハンデ頂戴!」
「あははっ、冗談、ハンデ付きで良いよ」
それならばと、再び織姫は教科書を読み出した。
そうして
「あー、勝てないよぉ」
織姫が嘆く。
「あたしに勝つにはまだまだ道のりが遠いね」
楽勝と、グッと親指を立てる菜央。
6時になった二人は、ゲームで遊んでいた。
「むむむっ、もう一戦」
「あんた、夕ご飯の支度する時間でしょ?」
時計を見れば時刻は6時半だった。
「あ、そうだった」
織姫と菜央はコントローラーを元の場所に戻し、ゲーム機の電源を切る。
「今日は食べてく?」
「いや、今日は家で食べる、冬期テストの勉強もしなきゃだし」
「そっか」
ほんの少し残念そうな声で言う織姫。そんな織姫の頭にポンと手を乗せ、菜央は
「また明日」
と言った。
「うん!」
すごく嬉しそうに織姫は笑う。
「忘れものは無し……よし、それじゃあまた」
「はーい」
「明日は寝坊するんじゃないよ?」
「肝に銘じる~!」
そんなやり取りをして二人は別れた。
「ふふっ」
織姫の元気な様子を見た菜央は、微笑みながら帰路に着いた。
「それにしても、『あいつら』はもう織姫に何もする気ないよね」
ふと、過去を思い返した菜央が表情を曇らせる。
「次やったら退学処分だし、心配しすぎか……」
あまり気に病むのも良くないと、菜央は自分に言い聞かせて。家のドアを開けた。
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