第11話 坂本杏奈(さかもとあんな)

放課後になり俺は伊藤さんに声をかけた。

伊藤さんは「大丈夫」と言わんばかりな感じで俺を見ていた。

俺はその顔に安心しながら次に坂本を見る。

坂本は相変わらず不愛想な感じで窓際に居たが何か思い立った様に立ち上がり去ろうとした。

その姿に伊藤さんが「あの。坂本さん」とおずおずと伊藤さんが声をかける。

坂本が足を止める。


「...なんだ」

「その。ありがとう。...助かった」

「助かったってアタシは何もしてねぇ」

「そういう所。私は...好き」


その言葉に坂本は俺達を驚きながら見る。

坂本は「...」となってから「ちっ」と舌打ちする。

すると伊藤さんが「あの」とまた声をかけた。

坂本は「何」とぶっきらぼうに話す。


「放課後、時間、ある?」

「あるっちゃあるが何だ」

「...貴方の妹さんに、会いたい」

「!!!」


俺は驚きながら伊藤さんを見る。

坂本は「...まあ良いけど。...会ってどうすんだよ」と言った。

その言葉に伊藤さんはジッと坂本を見た。

坂本は根負けした様に「分かった分かった」と言う。


「...お前も来るのか」

「ああ。俺は保護者の代わりにな」

「きったねぇ家だけど良いのか」

「それは別にどうでも良い。...俺も一度は会ってみたいしな」


そう言うと戸惑っていた坂本は落ち着いた。

それから「なら来れば良い」と一言呟いてから坂本は踵を返してから教室を出る。

坂本は真っ直ぐに昇降口に向かう。

そして下駄箱から靴を取り出し履いた。

俺達も靴を履いた。



坂本の家はアパートだった。

築は分からないがコーポと書いてある限り。

かなりこのアパートはお年だ。

外壁がヒビ割れたりしているが決して引っ越すお金は無いのだろう。

そう考えながら坂本に付いて行く。

カンカンと少し錆びた金属の階段を登り。

俺達は札に(坂本)と書かれている部屋に辿り着く。


「待ってろ」


そう坂本は言う。

それから軋むドアを開けると「おねーちゃん」と坂本に駆け寄って来た少女が居た。

坂本は笑みを浮かべながら「大丈夫か。杏奈」と杏奈という少女を抱える。

見た感じ...小学生の様には見える。

少女はニコニコしながら坂本に縋っていたがやがて俺達を見てから「!」と浮かべ始めた。


「...!」

「大丈夫か。杏奈」

「...」


杏奈ちゃんは何も言わなくなる。

それから「...」と沈黙した。

これは?

そう思いながら坂本を見る。

坂本は「...これが障がいだ」と話した。


「場面緘黙がある」

「...ニュースで観た。家族以外の人と話せない?」

「そうだ。それプラス...発達障害があってな」

「そうだったんだな...」


俺は坂本を見る。

坂本は「ただ哀れむなよ。アタシは別にこれが悔しいとかそんなんじゃねーし」と俺達に言う。

その言葉に俺は「...ああ。いや。哀れんでねーよ」と話す。

坂本は杏奈ちゃんが駆け出して行った方向を見る。


「アタシは哀れるという事も嫌いだ。めっちゃ嫌いだ」

「...お前は強いんだな。坂本」

「ちげーよ。アタシはな。そういう奴らが。糞どもが嫌いってだけだわ」

「...」


俺は坂本を見つめる。

坂本は「...弱者イジメするカスどもはマジに全員死ねば良いんだ」と言いつつ眉を顰める。

すると「坂本さん」と伊藤さんが言う。


「なんだ?」

「暴言ばかりだけど。貴方が好き」

「は、はあ?アタシなんかを好きになってもどうしようもねーよ」

「でも私、貴方が好き。本気で、貴方を助けたい」


そう坂本に対して伊藤さんは言う。

伊藤さんの言葉に「...」となりながら坂本は「...アタシは...そんな事を言われたのは初めてかもしれねーな」と言う。

それから坂本は「上がってくれ」と言う。

俺は「ああ。サンキューな」と言ってから坂本を見る。



坂本の家の中は古びた感じだった。

というのも畳はボロボロであり。

だが趣のある部屋だった。

俺は杏奈ちゃんを見る。

杏奈ちゃんは本を読んで俺達を見ていた。


「杏奈ちゃん可愛い」

「確かにな。俺的にも可愛いって思う」


杏奈ちゃんはビックリしながら俺達を見る。

何も言わないまま本を見ていた。

すると坂本がお茶を持って戻って来た。

俺は坂本を見る。


「冷たい麦茶しかねーけど」

「それで充分だ」


それから坂本からお茶を受け取った。

その中で坂本は「なあ」と俺に聞いてくる。

俺は「なんだ?」と坂本に聞く。


「杏奈をお前はどう思う?」

「...俺は伊藤さんに初めて関わってから世界が変わった気がする。...障がいは七色に光る大切な特性だとな」


その言葉に坂本は「...」となりながら「鮫島。お前と伊藤って付き合ってんのか?」と聞いてくる。

俺は「付き合っては無いな」と否定する。

坂本は「...!...そうなんだな」となる。

俺は頷いた。


「どっからそんな噂になってるか分からないが俺は付き合ってない」

「私、も」

「...はー。成程な」


坂本はそう言いながら「勘違いしてたみてーだな。すまん」と謝る。

俺は「ああ、いや」と話す。

すると伊藤さんが「勘違い、って程でも」と言った。

俺達は目をパチクリした。

は?


「伊藤さん?」

「あ、いや。な、んでもない」


赤くなる伊藤さん。

その姿に心臓が少し高鳴る。

まさか、と思いながら。

するとそんな俺等の姿を見てから坂本がニヤッとした。

成程な、と納得する感じで、だ。

それから坂本は「そーかよ」とだけ言う。

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