第9話 佐伯小太郎との対決

翌日を迎えて俺は起き上がる。

そして横を見て驚愕する。

何故ならそこに...伊藤さんが立っていた。

俺を見下ろしながら柔和な顔をしていた...うぇ!?


「おはよう」

「お、おはようございます...ってどうしてこの場に!?」

「鮫島くんのお母さんが家に入れてくれた」

「ま、ちょ。母さんめ...なんてこった」

「お母さん...お仕事行った」

「そ、そうなんだね...」


心臓が口から出るかと思ったぞ。

母さん勘弁してくれ。

俺の好きな人が目の前に居るってこと自体がおかしい。

そう思いながら俺は汗を噴き出す。


「やっぱり落ち着く」

「...何がだ?」

「この部屋は...アニメキャラが沢山」

「...そうか」

「ん」


それから伊藤さんは俺に顔を近付ける。

そして俺に笑みを浮かべた。

「元気そう」と言いながら、だ。

俺はその言葉に「あ、ああ」と引く。

いかん。

心臓がうるさい程に高鳴っている。


「?...どうしたの」

「あ、いや。ちょっとな」


俺はベッドから降りながら「伊藤さん。外に出てくれるか。準備するから」と柔和な顔をする。

すると伊藤さんは「ん。分かった」と言ってから外に出て行った。

俺はその姿を見ながらズボンを着替えたりした。

ビックリした。



それから俺は下に降りると弁当箱を詰めている伊藤さんが居た。

俺は「なんだそれ?」と聞くと伊藤さんは「ん。弁当。鮫島くんの分もある」と言ってから見せてきた。

俺は「?!」となりながら「ちょっと待て。嘘だろ」と言う。

伊藤さんは赤くなりながら「違わない。だって...私達、友人でしょ」と話す。

友人ってそこまでするか?


「...顔洗ってきたら」

「分かった」


そして俺は顔を洗ってから顔の水を拭う。

これって完全に夫婦だよな?

通い妻以上の問題があるんだが。

というか...心臓が。

俺は首を振りながらそのまま赤くなる顔を抑えつつリビングに戻る。

既に美味しそうな料理が沢山並んでいた。


「料理も作れるんだな」

「ん。多少は」

「...そうなんだな...」

「友人だから作った」


俺はその言葉を聞きつつ椅子にゆっくり腰かける。

それから俺は手を合わせてから食べ始める。

友人、か。

そう思いながら俺はスクランブルエッグを食べる。

何だこの美味しさは...。


「伊藤さん。これクソ美味いんだが」

「ん。田中さんに教わった分もある」

「そうなんだな。料理上手だな」

「違う。繰り返しているだけ」


恥じらう伊藤さん。

俺はその姿に手を伸ばした。

それから引っ込める。

何をしているんだ俺は。

伊藤さんの頬に触りたくなった。

もちもちしていそうなその肌に...変態かな?



俺達はご飯を食べてから家を後にする。

それから伊藤さんが俺の横を歩く中。

歩き出す。

そして歩いていると「あれ?」と声がした。

顔を上げると河本が居た。

所謂、彼氏の様な奴と一緒に。


「...あー。河本。そいつが新しい浮気相手か?」


俺は皮肉を河本に告げる様に言う。

すると「は?」と河本がイラつく様に俺を見た。

目の前の副主将は「いきなり失礼だな」と肩をすくめた。

それから苦笑しながら俺に握手を求めてくる。


「仲良くしよう」

「...お前の様な屑とは仲良くしたくないな」

「俺は相談に乗ってやっただけだ。...浮気じゃないし寝取ったつもりはない」


副主将の手をぱぁんと弾く。

それから「お前ふざけるなよ。...河本関奈はお前に寝取られた」と言う。

すると佐伯は真顔になってから「やれやれ」と言って手を引っ込めた。


「痛いな。ふざけている」

「俺はお前達を訴えるつもりは無い。だが...一番許せないのは彼女を。...伊藤さんを裏切った事だ」

「...裏切ったというかトロいんだよな」


そう言いながら伊藤さんを見る佐伯。

悲しげに落ち込む伊藤さんに「何を言っているかも分からなかったから」と肩をすくめた佐伯。

俺は頭に血が上った。


「...河本もろとも地獄に落とすぞ」

「そもそも君にそんな力があると?」

「...ネットにばら撒いてやるよ」

「ふーん。まあ僕達もそれなりに反論はするけどね」


その様に話す佐伯。

河本は「ざーこ」と言いながら俺を見ていた。

俺はイライラが止まらなくなり伊藤さんの手を引く。

それから歩き出してから高校に向かった。



忌々しい。

そう思いながら俺はクラスに入る。

するとクラス委員の関口茉奈(せきぐちまな)が俺に声をかけてきた。

俺は「?」を浮かべながら丸眼鏡の少女を見る。

関口は「ちょっと良いかな」と言ってくる。

外に連れて行かれた。


「ああ。...なんだ」

「...噂で聞いたんだけど...鮫島くんと...河本さんは付き合っていたんだよね?」

「そうだな。その通りだが」

「...その関係性は...破綻したんでしょ?」

「ああ。そうだ。...浮気されたんだ」


その言葉に「やっぱりね」と言いながら俺を真剣な顔で見る。

「私も河本さんは嫌いなんだ」と言いながら俺を見てくる。

俺は「!」となりながら関口を見る。

関口は「悪い噂を聞いたからね」と言いながら教室を見る。


「...」

「...クラスの雰囲気を変えたいの」

「変わらないと思うぞ」

「...そうかな?私に協力してくれている人は居るんだ。実際」

「!」

「障がい者も健常者も...お互いにソーシャルインクルージョンで生きられる様なクラスにしたいんだ」


それは多分伊藤さんを指しているのだろう。

俺は無言になってから「...で?どうしたいと?」と聞く。

すると「河本関奈さんとも仲良くしたい。だから...協力してくれない?」と笑みを浮かべた関口。

俺はその言葉に「悪いが一切協力出来ない」と言う。

それから困惑しながら「俺は普通で過ごして居たいんだ」と答えた。


「...そっか」

「ああ。何か出来る事があったら少しはするが」

「分かった。ありがとうね」


それから俺達は関口と一緒に教室に戻る。

そして俺は伊藤さんをチラ見してから椅子に腰かけた。

俺は天井を見上げる。

そうしてから机に突っ伏した。

その日はゆっくり過ぎ去るものと思っていた。


だが。

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