第2話 魔王の城、ボスが“冬眠”のため閉鎖!「王が起きるまで有給休暇」
【前代未聞】魔王の城、ボスが“冬眠”のため閉鎖!「王が起きるまで有給休暇」とスケルトン兵は語る
王国の北方に位置し、長年冒険者たちを苦しめてきた最難関ダンジョン「氷結の城」。その主である“蒼白のリッチ”ヴィンターが、記録的な寒波を理由に「冬眠」に入り、城が事実上の閉鎖状態となっていることがわかった。この異常事態に、討伐を目指していた冒険者たちはもちろん、王国軍全体に大きな動揺が広がっている。
<img ="氷結の城の入り口に立てられた看板">
▲城の入り口には、拙い文字で書かれた看板が…。「t-t骷髏一同」の署名も見て取れる(現地冒険者のスケッチより)
■入り口には奇妙な“お知らせ”
事の発端は、今月上旬に「氷結の城」へ遠征したSランクパーティーからの報告だった。一行が目にしたのは、堅く閉ざされた城門と、その前に立てられた一枚の奇妙な立て看板。そこには、モンスターが書いたと思われる拙い文字でこう記されていたという。
『お知らせ:王、寒すぎるため冬眠に入りました。春までダンジョンは閉鎖します。ごめん。 ――t-t骷髏(スケルトン)一同』
報告を受けた冒険者ギルドのマスターは、本誌の取材に対し、頭を抱えながらこう語る。 「何百年もの間、数多の勇者が挑み、そして散っていった悪の巣窟だぞ…。それが『寒いから休みます』だと?正直、拍子抜けを通り越して力が抜けたよ。冬の大規模討伐計画はすべて白紙だ。準備にかかった費用はどうしてくれるんだ…」
■現場のモンスターは「骨休めできて助かる」
さらに驚くべきは、現場のモンスターたちの反応だ。本誌の契約魔術師が、城門前をうろついていたスケルトン兵に「思念通話」で接触を試みたところ、意外な答えが返ってきた。
「いやー、王も最近『骨の髄まで冷える』とボヤいておられましてね。『ちょっと春まで寝るから、お前たちもゆっくりしろ』と。おかげで、我々も心置きなく骨休めできますわ。なんせ“有給休暇”みたいなもんですから。この骨に染みる寒さ、正直たまりませんでしたし、助かりますよ、ハハハ…(骨が鳴る音)」
不死の軍団を率いる魔王(リッチ)の口から発せられたとは思えない、あまりにも人間くさい理由。そして、まさかの福利厚生(?)に、現場は和やかですらあったという。
この事態に、魔王生態学の権威であるローゼンバーグ博士は、「リッチは肉体の束縛から解放された存在のはず。冬眠など前代未聞であり、生態系の根幹を揺るがす異常事態だ」としながらも、「あるいは、彼も長きにわたる魔王稼業に、少し疲れてしまったのかもしれない」と、同情的な見方も示している。
王都の酒場では「北の脅威が消えて万々歳だ」「いや、春になったら寝起きの機嫌が悪い最悪の状態で目覚めるんじゃないか」「うちのギルドマスターも冬眠してくれればいいのに」など、安堵と不安、そして羨望の声が入り混じっている。
予期せぬ形で訪れた北方の平和。しかし、それはあくまで気まぐれな魔王の“お休み”に過ぎない。王国はこの「冬休み」をどう過ごすのか。春の雪解けと共に、平和も溶けてなくならないことを祈るばかりだ。
―レミィ・スクープ
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