ゴシップ誌『週刊グランドール』
夢見ハヤテ
王都日常編
第1話 またも“上から目線”か。エルフ族リリオン議員、失言「人間は感情的で話が通じない」。多種族共存政策に冷や水
またも“上から目線”か。エルフ族リリオン議員、失言「人間は感情的で話が通じない」。多種族共存政策に冷や水
エルフ族選出の議員、リリオン・シルバーウッド氏。彼が、人間族の議員との討論中に放った一言が、今、王都に大きな波紋を広げている。
<img ="議会で発言するエルフ族議員">
▲涼しい顔で議席に座るリリオン議員。彼の“本音”は、悪気なき善意の顔をして、最も深く相手を傷つける。
■シンポジウムで起きた“事件”
問題の発言が飛び出したのは、「百年単位の国家森林計画」に関する討論の最中だった。計画の遅れを指摘し、より短期的な経済効果を求める人間族の議員に対し、リリオン議員は、やれやれと溜息をついた後、こう言い放ったのだ。
「…だから困るのだ。人間の代表と議論すると、いつもこうだ。数十年先の森の未来より、目の前の感情論に流されてしまう。もう少し冷静に、数百年先を見据えた論理的な話ができないものか。感情的な種族とは、どうも話が通じない」
会場は一瞬で凍りつき、人間族の議員や聴衆からは、怒号に近い抗議の声が上がった。これは、彼にとって初めての失言ではない。過去にも彼は、人間を指して「あまりに近視眼的な種族だ」と発言し、厳重注意を受けていた。
■「我々は情熱的だ!」市民団体の怒り
この記事を書いている今も、議事堂の前では、人間族の市民団体による抗議デモが続いている。「エルフは森へ帰れ!」「我々は感情的ではない、情熱的だ!」といったプラカードが掲げられ、リリオン議員の辞職を求める声は、時間を追うごとに大きくなっている。
デモを主導する一人、石工ギルドの親方は、本誌の取材に対し、怒りを露わにした。 「あれは、ただの失言じゃない。俺たち人間を見下している、エルフ族エリートたちの本音そのものだ。口では“共存”を唱えながら、腹の底では俺たちを、自分たちより劣った、未熟な種族だと思っている。そんな連中と、本当の意味で手を取り合えるもんか」
■“謝罪”という名の、さらなる火種
所属する多種族連立与党からの厳しい圧力により、リリオン議員は、昨日、しぶしぶ謝罪声明を発表した。しかし、その内容は、火に油を注ぐものだった。
「私の発言が、我々の種族間における討論スタイルの違いを考慮しないものであり、結果として、より…“情熱的”な人間族の同僚たちの感情を害したとすれば、それは遺憾の意を表します」
彼は、自らの偏見を謝罪したのではない。相手が“勝手に”傷ついたことに対し、「遺憾の意」を示しただけだ。その言葉の端々からは、「やはり感情的で、こちらの真意を理解できないのだな」という、さらなる侮蔑すら透けて見える。
王国の“多種族共存”という名の美しい木は、まだ植えられたばかりだ。その根が大地にしっかりと張るためには、互いの違いを認め、尊重する、地道な対話という水やりが不可欠だろう。
リリオン議員の今回の失言は、その芽吹いたばかりの若木に、冷たい氷水を浴びせたに等しい。真の共存とは、数百年生きる種族が、わずか数十年しか生きられない種族の“情熱”や“焦り”に、想像力を働かせることから始まるのかもしれない。その簡単な真理を理解するのに、果たしてあと何百年かかるのだろうか。
―レミィ・スクープ
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