第7話「あと少し」
クリンクス・ファミリー。
それはダンジョンという構造を搾取し続けて膨れ上がった、悪意の塊のような組織だった。
私はやはり「イケメン」と彼らを繋ぐ線があるように思う。もう少し調べることにした。
すると、どうもファミリーが規模を拡大していた最中にメリダ独立戦争が発生したらしい。
メリダは新政府となり、国際ダンジョン連盟の基準に則った国家運営が打ち出したようだ。
やはりメリダ独立戦争と関係があったのか。
(国際ダンジョン連盟か。あんまり知らないな)
世界がダンジョンに包まれていても、のほほんと普通に暮らしている人間が大半だ。だが今回のネタがここまで来てしまったなら、調べるのは自然のことだ。
ということで、信頼の置けるサイトから国際ダンジョン連盟についてを調べた。
第7話
「あと少し」
国際ダンジョン連盟とは、1996年に設立された国際機関。
ダンジョンにまつわる様々な文化的影響を国際的に管理し、安全で公正な利益分配を保障することで人類社会の安定させるのが目的のようだ。
1995年のダンジョン発生当時、ダンジョンの管理基準は国や自治体ごとに策定する他なかった。
その後手後手の対応の隙を見て、いち早くダンジョンを支配したのがマフィアやギャングだ。
法整備が追いつかない中で彼らはダンジョンを武力で占拠し、非合法物資の流通、モンスターの違法流通、臓器密売などと暴虐の限りを尽くした。
ダンジョンアイテムはその特性上、医療、軍事、エネルギー産業と直結する。国際法より先に非合法のネットワークが完成すれば、それはいよいよ国内のいざこざで収まらず、世界を巻き込む戦争に発展しかねない。
それを防ぐためにダンジョンに巣食う組織を摘発し、軋んだ国際社会の歯車に油を差し、ダンジョンに関する国際的な規範を整備、実行してきた。
具体的には、民間組織がダンジョンを保有、運用する場合、一定の安全基準と倫理基準を満たす基準を策定するなどだ。
内部での労働者保護、アイテムの記録義務、モンスターの捕獲や狩猟申請、ダンジョン内での医療、産業利用設備の申告――。
「ふーむ」
目当ての情報はここにはないだろう。
私が欲しいのは結局「イケメン」の情報だ。
当たりをつけているのはやはり、そのクリンクス・ファミリーなるマフィアが不当による労働で命を落とした者の写真ではないか? という説だ。
遺体はモンスターの餌にするか、薬の実験台にして提携している医療機関に資料として渡して金にしていたようだが。
もしそうなら、「イケメン」はその時に撮影された遺体ということになる。
(ならなんでその写真が流出したんだって話になるな)
その時、通知が入った。
ロックを解除し、画面を見る。
どうやら英語のようだ。拙い翻訳で頑張ったが、結局限界があったので翻訳に頼った。
(…………!?)
〜〜〜
こんにちは兄弟。あなたが以前募集を呼びかけた「世界一イケメンな探索者」についてですが、私はかなり情報を持っています。
なぜならその画像を撮影したのは私だからです。
知っている限りを話せます。どうしますか?
〜〜〜
衝撃の展開だった。オリジナルを探索するはずが、まさか「イケメン」を直接撮影した人物が現れるとは。世の中わからないものだ。
私はすぐに情報提供の感謝を伝え、彼の言葉を待った。
〜〜〜
リクエストありがとう兄弟。
さて、私は25年前のメリダという国にいた警官でした。
〜〜〜
メッセージはすぐに続いた。
〜〜〜
当時のメリダはアスラという国からの独立戦争で混乱していたものの、それは実際2000年に終わり、無事独立できた。
メリダはすぐに国際ダンジョン連盟に加入しました。メリダはアスラ首長国の悪しき伝統からの脱却を誓っていた。
独立後、メリダは治安回復を最大公約に掲げ、特にダンジョンを拠点としたの反社会勢力の排除は最重要政策でした。
彼らの蔓延る環境では治安は悪化するだけでなく、企業も個人も健全な経済活動に励むことができません。公正な市場競争が妨げられれば国の成長に関わるためです。
彼らの買収や賄賂に応じる政治家や派閥といった腐敗構造もアスラの自治区だった頃から引き継いでいました。
――具体的には何を行ったのですか?
メリダはダンジョン領有権と使用権を再定義をしました。
ダンジョンは国と人民の共同資産とし、取り扱うには厳格な安全、財務、倫理審査を求めました。
ダンジョンで組織犯罪の疑われるオーナーには、抜き打ちで令状なくダンジョンの立入調査を認める特例処置で対応した。
特に手を焼いたのがクリンクス・家族というマフィアです。彼らはダンジョンの全てを支配していました。
これに駆り出されたのが私で、当時は21歳でした。
〜〜〜
クリンクス・ファミリーと「イケメン」。やはり無関係ではなかったのか。
〜〜〜
――その最中に「世界一イケメンな探索者」を撮影したと?
ええ。ただしその仕事は過酷でしたので、そのことを話させてください。
――どうぞ。
当時のことはよく覚えています。まさか彼らがあれほど粘るとは。国家機関と一マフィアなので力関係は明白と思っていたのです。
しかし戦況は家族が優勢でした。彼らはダンジョンの生き方をよく知っていた。
入り組んだダンジョンの構造は警察や軍の行く手を阻み、その隙に家族は次々彼らを罠に嵌めて殺しました。銃火器や刀剣類も既に迷宮アイテムで強化していた。
魔法も操り、ダンジョン内は火や水や雷や氷が舞い、薬で洗脳したモンスターが蔓延っていました。
攻戦は3日続いたが、軍も警察も撤退するしかなかった。私も傷を負い、療養しました。
――怪我は大丈夫でしたか?
心配ありがとう兄弟。ない問題です。そしてここからは申し訳ないが伝聞になる。私は病院のベッドにいたので。
――構いません。お願いします。
わかった。
さて、警察内に知らせが入ります。ある警官がその命と引き換えに放った一発が、リーダーのエスカ・クリンクスに命中したというニュースです。
エスカは倒れ、やがて命を落とした。
これが奇跡のヒットでした。組織は彼の優れた指揮能力と政治能力に依存していた。指揮中枢が破壊された家族は制圧され、降伏しました。
ダンジョン内に警察が立ち入り、査察を行った。復帰した私も立ち会いました。
彼らの所業には唖然とした。私が入ったのは違法薬物の製造施設でした。仲間はモンスターの繁殖部屋や巣箱を見つけました。
台帳もあり、アイテム密輸、捕獲したモンスターの記録、開拓済み区域と称した私設監禁エリア、鑑定前のアイテムの横流し記録まで次々発見されます。
家族の迷宮には、行方不明の届出が出されたりそうでなかったりした人がいました。彼らは不当な強制労働をさせられていました。
死体もいくつかあり、そのうちの1つが「世界一イケメンな探索者」です。
男性だったようですが、彼が誰で、いつここで死んだのかはわかりませんでした。
恐怖画像として伝わるよりも肌はまだ肌色でしたが、脱色していたのは確かです。私はそれをフィルムに収めました。
国際ダンジョン連盟はダンジョン運営に際して安全基準を統一するため、各国にダンジョンの資料の提出を求めていたためです。
さて、所業の全てが白日の下に晒されたクリンクス・家族は、ついに消滅し、提携しているホスピタルも滅びました。
――「イケメン」の遺体はそれからどうなったのですか?
わかりません。私はImageだけを撮影するように命じられていた。
ただし当時の国際ダンジョン連盟はダンジョン関係の病なども情報を集めていたので、押収したなら保管されているのでしょうか。ふむ、意味のない考察です。
――いいえ。お話をお聞かせていただけて本当に嬉しいです。イケメン含め、押収した資料はその後どうなりましたか?
私はカメラを上司に提出し、上司はそれらの資料を国際ダンジョン連盟と提携している研究機関に提出したようです。
それからのことはわからないですが、ふと見かけた医学系雑誌に当時の遺体やアイテムの写真が掲載されていたので機関誌や論文、学術資料に掲載されたのでしょう。2001年初め頃だったと思います。
〜〜〜
彼からひと通りの情報が聞き出せた。
やはり「イケメン」はファミリーが不当に動員した「探索者」で間違いないらしい。
そしてファミリーの摘発現場に居合わせた彼は実際に「イケメン」を撮影し、それを上へ提出した。
それからはイケメンの行方は知れず。そのまま放っておかれたのか、それとも押収されたのか。
写真の掲載は2001年初め頃にはあったようだ。
「…………」
正体が近づいてきた。あとはその原型の写真を手にいれるだけだ。
少し無理を言う形にはなるが、彼に当時の写真を口頭で話してもらうことにしよう。
書き起こした特徴をこちらで手描き修正し、DinEyeで画像検索をする。
ここに来て地道なアナログ作業になるとは。
だがそのアナログ作業へと至るまでに、途方も無いネットの深淵を探索してきた。
これで、本当に最後だ。
*
【作者より】
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