五煌剣Ⅰ 〜記憶なき少年と滅びの王たち〜
桜井りゅうと
プロローグ ──五王、炎に沈む
かつて、この世界には、
五つの光があった。
炎は命を与え、
水は流れを作り、
雷は力を示し、
風は自由を生み、
そして闇は静寂を司った。
五つの王が、その理を守り、
世界アルディアは均衡の中にあった。
だが――
均衡とは、いつも崩壊の予兆でもある。
⸻
燃える空。
崩れ落ちる都。
地を割る雷と、空を裂く風。
炎の王ヴァルゼインは、
紅蓮の戦場の中で叫んでいた。
「やめろ、ノワール!!
お前がそれを放てば、世界が……!」
黒き玉座の上で、
闇の王ノワールが静かに微笑む。
その瞳は底知れぬ闇――
何も映さぬ絶望の光。
「ヴァルゼイン……お前はまだ、
“理”
を信じているのか。
だが見ろ、この世界を。
人も神も、皆、己の欲に沈んだ。
ならば……
“静寂”
こそが救いだ。」
ノワールの手に握られた剣――
〈冥哭(めいこく)〉。
闇の煌剣が震えるたび、
空間そのものが悲鳴を上げる。
水の女王セリアが叫ぶ。
その声は涙に濡れていた。
「ノワール! あなたは誓ったはず!
五王は、互いを裁かぬと!」
「誓い……? あれは夢だ。
終わった理想だ。」
ノワールの周囲に、黒い霧が立ちこめる。
大地が崩れ、炎が溢れ、
雷鳴が世界を裂いた。
雷の王レグナスが地を蹴る。
稲妻を纏い、彼はノワールへと突撃した。
「言い訳はいらん!
貴様が滅びを望むなら――
この雷で打ち砕く!」
雷皇〈らいおう〉が唸りを上げる。
閃光が闇を貫き、空を割った。
だが、闇は雷を呑み込んだ。
光が届かない――
深淵が広がっていく。
風の女王アリアが、祈るように呟いた。
「やめて……皆、これ以上戦えば……!」
その声に応じるかのように、風が泣いた。
彼女の背の煌剣
〈蒼翼(そうよく)〉が震え、光の羽を散らす。
だが、誰も止まらなかった。
炎と雷、水と風がぶつかり、
世界そのものが軋んでいく。
そして――
その中心で、ノワールが低く呟いた。
「愚かだな、我らは……
だが、これが運命だ。」
黒い剣が天を指す。
闇が渦巻き、光が呑まれる。
ヴァルゼインの炎が、
それを必死に押し返した。
「やめろォォォォォ!! ノワール!!!」
紅蓮の炎が空を焼く。
だが、炎は闇と交わり、
“紅黒の太陽”
となって爆ぜた。
――そして、世界は終わった。
空は裂け、
大地は沈み、
海は凍りつき、
風は止まり、
雷は永遠に響き渡る。
その中心に、五つの煌剣が散った。
それぞれの王が命を賭して放った、
最後の祈り。
“再びこの世界が目覚めるとき、
五つの剣は導となり、ひとつの
“鍵”
が、滅びを越えて現れるだろう。”
炎の王は炎の理を託し、
水の女王は記憶を湖に沈め、
雷の王は魂を雷鳴に刻み、
風の女王は祈りを空へと放ち、
そして闇の王は、沈黙の中で笑った。
「終焉のあとにこそ、真の始まりがある……。」
やがてすべてが、静寂へと帰す。
灰の世界に、ひとつの
“光の結晶”
が落ちた。
それは、後に
“第六の煌剣”
と呼ばれることになる――
“世界を繋ぐ鍵”
の、最初の欠片だった。
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