第19話 11.読書とは何か @k_ishiguro様

企画にご参加ありがとうございました。

いつもの感想の姿勢についてですが、私は専門的な解釈や見方の知識が無いので、単純な読者の感じたことを書いていきます。



▶︎やせた土地にまばらに生える草はみんなうなだれるみたいに葉先が地面に向かって折れ曲がっていた。〜まるでその先にそれぞれの神様がいるのだといった様子で頭を下げていた。


ここまでは世界観として面白いな、と思いました。


でもその先には同じように頭を下げている草の集まりが何メートルも離れてあるだけだし、あとはかさかさとした表面の大小の石がずっとそこに落ちていて、これから先の何年も何十年もそこに落ち続けているのだと思えるようなありかたで転がっているだけだった。〜それでもときどき気の迷った虫が、まだ低い月の光に照らされて折れ曲がった葉の長く伸びた影つたいに草の集まりを飛び出すことがあったけれど、そうした虫のほとんどは黒い影とそれの切れた月の光との境目で立ち止まり、自分はなにを求めてこんなところに来てしまったんだろう、ここにはなにもないしこの先にもなにも見えないじゃないか、住処には生きて子を成し死んでいくには十分な食べものがあるのだから他に何が必要だというんだ、と言って元々いた世界へと引き返した。影の境界線から飛び出したごく少ない虫は最初に月の光の眩しさにひどく驚いて、そうして大半の虫はそのことだけで死んでしまい、そうならなかった強い個体は六本の脚で乾いた砂をかいて進んだ。


ここも面白い視点でした。


▶︎強い個体には強い意志が備わり、それはひるがえって強い脚や硬い殻を備えさせていた。虫の進んだあとには砂の上に複雑だけれど規則正しい模様が残され、月の光が横から射すとわずかなくぼみにも濃い影を映し出し、誰にも分からない新しい文字のように見えた。


この辺りから、読み手としてちょっと不安定になりました。読み進めるが難しく感じる。なんでだろうかと考えたのですが、どこに軸足を置いたらいいのかがわからないからかと。これが何の物語かを探るカロリーが生じたのがこのあたりでした。


▶︎いくつもつながるとそれは文章のようにも、何かの物語を紡ぎ出そうとしているようにも感じられた。月の光は熱心にそれを読み取ろうとした。もっと近くで観察するために、月の光は乾いた土地にできたなだらかな丘陵の斜面を駆け降り、夜行性の虫たちがひっそりと暮らす草の集まりの横を駆け抜けると草の影はよりいっそう長く伸びた。その影の先から始まる虫の足跡に四つんばいになって鼻先を近づけると、わずかに懐かしいようにも感じられる草いきれの匂いがして、月の光は目を細めると大きく深呼吸をしたが、匂いはしかしすぐに錆た鉄のような匂いに変わってしまった。それは仕方のないことなのだと月の光には思えた。


主語が月の光なので、頭の中で月の光目線で映像化しました。冒頭は比較的情景描写プラス虫の世界と童話的にわかりやすかったのですが、この辺りはやや想像のためのカロリーが高かったです。普段こういうジャンルを読み慣れている人なら大丈夫かと。


▶︎この土地のどこかにはひどく曖昧な国境線があり、その国境線で分けられたふたつの国は月の光が覚えているかぎり絶えずなんらかの、毎回別の理由で戦争をしていたから、銃弾や戦車や、墜落した戦闘機の錆びてバラバラになって錆た鉄が、自分は砂粒なのだといった顔をしてたくさん混じり合っていた。あるいはそれらに殺されてしまった兵士たちの倒れた体に大きくあいた穴からこぼれだしてしまったたくさんの血や内臓の匂いが染みついているのかもしれなかった。


自然の描写から人間社会の描写に変わるのですが、今、感想を書くために改行をつけたら自分としては読み易くなりました。これは多分自分が意味段落、形式段落の訓練を受け続けてきたため、段落で繋がっているなら変化よりもひと繋がりに意味があることに力点を置いてしまうからかと。

改行がないことで読み手自身で変化を追うことになり「今どういう場面?」と没入感がその都度途絶え、正気に戻ってしまうところがあります。

読み始める前のそういう作品だとイメージしてから読むという構えが大事かなと思いました。


▶︎国境線は東に大きくはり出した。〜キミの国の話を聞かせて?と虫の足跡は物語を語りはじめた。


面白くなりそうだなと思いました。


そのあとの犬の話自体は良かったのですが、さらにそのあと、「状態」の描写が続くので、個人的には読むのが苦しい……。感覚的には、車が走り出してある程度スピードが出たと思ったら、細々と車線変更をする車がたくさんいて、自分のペースで走れない……というところ。


途中途中、興味惹かれる描写はあるのですが、なんせ情報が細かくて多いため、途中で映像化を辞め、字面を追いました。そうなると個人的には情報収集モードになってしまうため、情景から感じること、香るものを受け取るというのが難しかったです。


今までも改行なし、あるいは情景中心の作品も好きなものはあるので、何が違うのかと考えました。

おそらく、読み手の中に広がる感じがあるかないか。

本作は結構全部書いているので、作品と読み手の中間地点が無くて、作品は作品、読み手は読み手、に分かれたまま終わりという印象でした。


これまでの作品でも共通した書き方だとは思うので、作風が好きな人にとっては問題ないかと思います。

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