勇者パーティで『歩く倉庫』と罵られ、奈落に突き落とされた荷物持ちの俺、覚醒した『万象収納』で魔物のブレスから『死』の概念まで収納したら、戦略級の『超越者』になり、王家公認の公爵領主になった件 

人とAI [AI本文利用(99%)]

第1話 Sランクパーティの『お荷物』と呼ばれた俺、実は総重量500kgの物資管理と0.01秒の補給をこなす最強の生命線だった件

「おい、グズ! いつまで突っ立ってやがる! さっさと準備しやがれ!」


 耳をつんざくような怒声が、早朝の冒険者広場に響き渡る。

 声の主は、煌びやかな黄金の鎧に身を包んだ金髪の青年――王国最強と謳われるSランク勇者パーティ『輝きの剣』のリーダー、勇者アレクだ。


 彼が眉間に青筋を浮かべて睨みつけている先には、くすんだ灰色の髪をした俺、レント・アークライトがいる。


「申し訳ありません、アレク様。ただいま最終チェックを」

「チェックだァ? テメェの無駄な確認作業に付き合ってる暇はねえんだよ! 俺たちはこれからS級ダンジョン『奈落の顎』に潜るんだぞ? お前みたいな『お荷物』がモタモタしてたら、一瞬で全滅だ!」


 アレクが俺の肩を乱暴に突き飛ばす。

 よろめきながらも、俺は表情筋を総動員して卑屈な愛想笑いを貼り付けた。


「はは……おっしゃる通りです。すぐに終わらせますので」


 内心で、俺は冷徹に時間を計測する。

(現在時刻、午前六時三分。予定出発時刻まであと二分十八秒。アレクの説教によるタイムロス、四十五秒。……許容範囲内だ。作業工程を圧縮すれば間に合う)


 俺の目の前には、山のように積み上げられた物資があった。

 テント、食料、水樽、予備の武器防具、解毒ポーション、爆裂魔法石、魔物避けの香油……。

 総重量、実に500kgオーバー。

 普通の荷馬車なら二台は必要な量だが、これを運ぶのは俺一人だ。


 俺は深く息を吐き、意識を研ぎ澄ます。

 右手を物資の山にかざした。


「……対象物スキャン完了。座標固定。――『収納』」


 シュンッ!


 風切り音と共に、目の前の物資が一瞬で消滅した。

 いや、消えたのではない。俺の固有スキル『異空間収納(アイテムボックス)』によって、亜空間倉庫へと格納されたのだ。


 周囲で様子を窺っていた他の冒険者たちが、ヒソヒソと嘲笑を漏らすのが聞こえてくる。


「おい見ろよ、またあいつだ。『輝きの剣』の金魚のフン」

「レントだっけ? 収納スキルしか能がないくせに、Sランク様のおこぼれに預かってる寄生虫だよな」

「いいよなぁ、荷物持ってるだけで金がもらえるんだから。俺もあんな楽な仕事がしてぇぜ」


 楽な仕事、ね。

 俺は心の中でため息をつく。


 彼らの目には、俺がただ「荷物を入れただけ」に見えているだろう。

 だが実際は違う。


(収納順序の最適化、完了。戦闘用ポーションは取り出し時間0.01秒以内の第一階層へ。予備の大剣はアレクの利き手に合わせて柄を右向きに配置。野営セットは最深部へ。食料の鮮度維持設定、オン)


 俺が行ったのは単なる収納ではない。

 戦闘中、勇者たちが「剣!」と叫んだその瞬間に、コンマ秒の遅延もなく彼らの掌へ武器を出現させるための、緻密な在庫管理(インベントリ・マネジメント)だ。


 例えば、アレクが愛用する聖剣は重い。戦闘中に落としたり弾き飛ばされたりした場合、予備の剣を渡すのに一秒でもかかれば、彼は魔物の餌食になる。

 だから俺は、一日数千回の出し入れ訓練(I/Oトレーニング)を数年間続け、思考した瞬間に手元へ物資を実体化させる『ゼロレイテンシ供給』を習得した。


 俺は、ただの荷物持ちじゃない。

 パーティの『生命線』なのだ。


「おい、全部入ったか?」


 アレクが不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 俺は完璧な角度で頭を下げた。


「はい。ポーションの在庫確認、及び予備装備のメンテナンスも完了しております。いつでも出発可能です」

「チッ、偉そうに報告してんじゃねぇよ。雑用係の分際で」


 背後から、パーティメンバーである魔術師の女が冷ややかな声をかけてくる。


「レント、私の予備の杖、ちゃんとマナコーティング済みでしょうね? 前回みたいに魔力伝導率が0.1%でも落ちてたら、承知しないわよ」

「問題ありません。今朝四時に起きて再研磨しておきました」

「ふん、当たり前よ。それがあなたの唯一の価値なんだから」


 僧侶の男もニヤニヤしながら俺の頭を小突いた。


「頼むよレント君。僕たちの足だけは引っ張らないでくれよ? 君を守るために神聖魔法(ヒール)を使うなんて、魔力の無駄遣いだからね」


 ……ああ、分かってる。

 お前たちが俺をどう思っているかなんて、痛いほど理解している。


 俺は戦闘能力がない。

 魔法も使えない。

 あるのは、地味で凡庸な『収納』スキルだけ。


 だからこそ、俺は必死に研鑽した。

 誰よりも早くアイテムを出し、誰よりも的確に物資を管理し、誰よりも快適な野営地を設営する。

 そうやって、いつか――。


(いつか、本当の仲間として認めてもらえる日が来るはずだ)


 そんな微かな希望だけが、俺を支えていた。

 たとえ奴隷のように扱われようと、給金が雀の涙ほどであろうと、Sランクパーティの一員として貢献しているという事実だけが、孤児院上がりの「持たざる者」である俺の唯一のプライドだった。


「よし、行くぞ! 今回のダンジョン攻略で、俺たちの名声は不動のものとなる!」


 アレクが聖剣を掲げ、高らかに宣言する。

 広場にいた他の冒険者たちから、羨望の眼差しと歓声が上がる。


「さすが『輝きの剣』だ!」

「今回も記録更新間違いなしですね!」

「勇者アレク万歳!」


 その輝かしい輪の中に、俺の居場所はない。

 俺は彼らの数歩後ろ、影のように付き従うだけだ。


「おいレント! ぼさっとしてねぇで早く来い!」

「――はい、ただいま」


 俺は重い革靴の紐を締め直し、駆け出した。

 心なしか、今日の収納空間(ストレージ)の調子が悪い気がする。

 さっき物資を入れた時、容量限界(キャパシティ)のアラートが一瞬だけ脳内に明滅したような……。


(……気のせいか? 昨日のメンテナンスでは異常なしだったはずだが)


 一抹の不安を抱えながら、俺は勇者たちの背中を追う。

 目の前には、巨大な魔物の口のようなダンジョンの入り口が、黒々とした闇を広げて待っていた。


 ――それが、俺の運命を狂わせる地獄への入り口だとも知らずに。

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