隠れ里春秋 第一部 千両首の影守
堀川 屯
1-0 序
第一章 千両首の
――キュウイーン、キュウイーン
男達の身体が揺れる
航は逃げ道を求め、あたりを見回す。既に四方はとり囲まれているようだ。八つの影が円を縮めるように間合いを詰めてくる。頭領格の一人が航の足元に酒壺のようなものを投げつけた。
――ごろっ、ごろっ、ごろっ。
それは三回ほど転がり止まった。壺だと思ったもの、それは人の生首だった。生気のないお
「ほれ、もう一つ」、今度は隣の男が投げつけた。お
「わー!わー!来るな!来るな!おらに近寄るな!」
航は泣き叫びながら抱いていた長剣の
「よう
お父の首を投げつけた男が近づいて来た。
――キュウイーン
その時、
――キュウイーン、キュウイーン
まるで荒馬の尻尾を掴んでいるかのように身体が引っ張られていく。決してこの柄を離すまい、航は必死になって握り続けた。
回りの男達の首が次々に滑りおちる。二つ、三つ、四つ……。頭のない胴からは水芸のように血しぶきが吹き上がる。ひとり、一番後ろにいた丸坊主の大きな男だけが、叫び声を上げて逃げた。
生暖かい血の雨が航の顔に降り注ぎ続けた。
□ ■ □
「うっ――」
今晩の月は夢と同じ
表に出ると、左手に持った刀を抜いた。刃筋を月の欠けている線に沿って立てる。秋の風がまとわりつきながら斬れていく。
夢でみたような
下げ
航は、肩の力を抜くと、だらりと両の手を垂れた。
一気に、刀を抜くと、真横一文字に
刃音が夜のしじまを哀し気に啼いた。
空には片身を斬り落とされたように下弦の月が輝いていた。
(第一話 了)
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