残酷な世界で、俺のすべきこと
ニワトリ
第1話 変化
カチ.. カチカチ! カチカチカチ..
聞こえてくる音はコントローラーの入力音。
薄暗い部屋でただただ少年は画面の中の敵を倒していた。
その瞬間! 部屋のドアが開き、部屋の中の少年、”カケル”のもとに家族が来た。
あまりに散らかった部屋、不摂生による膨らんだ腹や頬。癖ついて、髪はボサボサになっていた。
この様子から見るに、一週間、風呂に入っていなくてもおかしくないだろう。
その姿を見た家族は告げる。
「お前に、もう家族としての価値はない!与えられた富と力でこのような生活を何年も・・・」
カケルの手を無理やり引っ張り、外に連れ出そうとする父親。
「離せ!! いいだろ別に! 俺たちは幸せが約束されてるんだろ?!」
カケルはその場で抵抗をしようとする。
しかし、カケルの抵抗は、母親、そして妹の拘束によって、虚しく終わる。
「家族だから、今まで見過ごしてきたが・・ やはりお前は忌み子だったのだな。」
「何を今更あたり前なことを・・ あなた。」
母親も、カケルの存在に、息子としての価値は見出していないようだ。
「よろしいのかな? 天人を外に連れ出すなど..」
輸送の際、一人の男が父親に声をかける。
「ロッド様・・・ 生憎ですが、この者に人としての価値はない。」
「今まで私たちに泥を塗ってきた分を、地獄で返すのだ。」
その言葉を聞くと、ロッドという男は納得したのか、黙ってその場を去っていった。
・・・・・
人は、生まれながらにして平等ではない。
一人の科学者によって設立された国、オーラム。
その子孫である人々を、天からの使いとして、”天人”と呼んだ。
彼らは、白い髪、黄金の瞳を持ち、幸せを約束された人生を送る。
だが、俺は違った。
黒い髪、真っ赤な瞳、これらの特性を持った俺は、人ならざる扱いを受けてきた。
あの時だって!・・
いや、もうどうでもいいか・・・
オーロラの外に出ると同時に、カケルは投げ飛ばされる。
俺は地べたに這いつくばりながら頼み込む。
「待って! 話を・・・」
そう話しているときには、もう家族はいなかった。
以外にもあっさり現状を受け入れ、あたりを見回す。
この辺りは、オーラムから近いせいか、モンスターは見えない。
それでも、あらゆる方向からモンスターの咆哮が聞こえてくる。
その状況に恐怖しながらも、俺は歩いていく。 目指す場所も決めずに・・
30分ぐらい歩いただろうか・・・
俺は歩き疲れ、一度休憩することにした。
日ごろのゲーム生活が、ここで仇となった。
「しんどい・・ お腹すいた・・ 水・・」
座り込んだことで、欲求がより加速する。
さらに10分後、食欲が限界に来たので、何か食べ物がないか捜索する。
そこにあった潰れている果実を見て、顔をしかめたが、
食料であることに変わりはないので、勇気をもって俺はそれを口に運んだ。
口の中に入れた途端! とてつもない苦みが俺を襲った。
「おえええ! ごほっ! ごっほ!」
まずい、とても食えたものではない。
水分においても、近くの泥水を啜る他なかった。
自分の中での初めての経験。
普段の生活がいかに幸せだったかを感じさせられる。
なんで、俺はこんなことしてんだ。
さっさと死ねよ!なんで生きようとしている?!
俺の人生、どこで間違えたのだろうか。
この容姿に生まれた時点で、俺の人生は決まっていたのか。
いや、彼女の手を取った瞬間から、俺の人生は決まっていたのかもしれない・・・
そんな後悔をしている最中、一匹のモンスターの声がした。
俺は即座に隠れる場所を探したが、遅かった。
モンスターと目が合ってしまう。
その姿は文献で読んだことがある姿だった。
名前は確か、”ライオン”だったけど、こんなに大きくなかった。
そんなとき、ある記憶がよみがえる。
オーロラの国では、子供たちに学問を教えており、
そんな中で先生が言っていたこと。
「オーロラの外は地獄だ。」
同時に、こうも言っていた。
「苛烈な環境でこそ、生物は進化を遂げる。」
おそらく、文献で読んだ”ライオン”の姿も、誤情報と言うわけではないのだろう。
ただ、この残酷な世界に適応するため、”ライオン”は進化したのだ。
異様に発達した牙や巨体がその証拠である。
俺は恐怖と同時に、死期を悟る。
もういいんだ・・・どうでもいいんだ・・・
巨大なライオンはまっすぐに俺に向かって、大きく口を開いた!
一瞬でかみ砕かれて、即死。
楽に死ねる。 俺は目を閉じる。
だが、一向に痛みはこない。
なんでだ? それとも、もう食われて死んだのか?
ゆっくり目を開けると、そこには一人の男が立っていた。
「おいガキ、死にてえなら他所でやれ」
「目覚めがわりーんだよ」
男は、ライオンの攻撃をツルハシのようなもので弾いて、そのままライオンに向かって走り出した!
そのスピードは人間が出せるものとは思えなかった。
そのまま大きく跳躍し、ライオンの頭上へ。
ライオンが、男を見失い周りを見ている隙に・・ 一閃!!
その後、ライオンが立つことはなかった。
「あんな化け物を一瞬で・・・」
俺は絶句する。
だが、同時に生き残ってしまったことへの後悔があった。
しかし、助かったことへの喜びも感じており、自分の中に様々な感情が回っていた。
そんな混乱している俺の元に、そいつはやってきて、胸ぐらをつかんで言った。
「生き方は自由だけどよぉ、てめえみたいな、自分が一番不幸ですみたいなやつをみてると、虫唾が走るんだよ!」
そんな中、俺は、男の瞳に映る自分を見る。
なんて、情けない面だ。
客観的に思ったことがそれだった。
「てめえ一人で勝手に絶望してんじゃねえ、お前よりつらい人間なんていくらでもいるぜ。この世界じゃあなぁ!」
俺に怒鳴った後、最後にこう言う。
「てめえはまだ若ぇ。まだやれること、やりたいこと、いくつもあるんじゃねえか?」
その瞬間、俺の頭の中が晴れた気がした。
そして、俺のやるべきこと、やりたいこと。
「俺は、この世界で、自分の価値を示したい!」
これが俺の”本質”
「はっ! いいもん持ってんじゃねえか。」
そのおじさんは去り際に言った。
「精々、頑張ってみな。」
最後のおじさんの声は優しかった気がした。
その背中を見ながら、決意がみなぎってきた。
やってやるよ・・・ 俺の心が燃え滾っているのを感じる。
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