第11話

 日もどっぷりと沈む中、校庭は賑やかであり、今時の曲が流れている。今は後夜祭。二日間の一般公開含めた日程はどうにか無事に終わった。

 祭り前夜で台破損はかなりのインパクだったが、不幸中の幸いと言うべきか、伸也と、住沢が積極的且つなかなかのアシストのお陰で今までの事を挽回、偏見脱却を果たし、一気にとけ込めた。お陰で、台も思った以上に出来。また、急遽田沢と、住川がゴスロリの洋服を来て接客したせいか、それが評判となり、出し物が盛況で終わった。まあ嬉しい悲鳴ではあるが、なかなかの忙しさで、他の出し物を見る時間は家族が来た時少しまわったぐらいであり残念な気持ちが残る。だが、どうにか最終日までやりきれたという達成感を抱きつつ、自分は今、準備室で長机を向かい合わせて作業をしていた。その前には、千納時。

 実は、自分の仕事は終わったのだが、彼の仕事が終わっていない。と言うのも後夜祭の最中、クラスの出し物の人気ランキング集計を取ってる真っ只中なのだ。どうやら、校庭での祭の最後に上位を発表し、景品を贈呈するらしい。今は3年の生徒会長並び、役員がしきり祭を進めてるところで、開票が出来ないとの事。なので、文化祭終了の4時ぐらいからずっと開票作業をしている。当初は6人全員で最後までやる予定だったが、4人があまりにも意気投合しているので、後夜祭は楽しんでこいという話しになったのだ。


(本当は自分も行きたかったけど、流石に千納時一人でやらせるの気が引けるんだよな)


 同学年より大人びてるとはいえ、年に一度の事。やはり楽しみにしていたはず。


(それに一番労ってやりてーし)


 黙々と作業する事暫し。集計も終わると同時に3年役員が結果を取りに来た。それを渡した所で、自分等は天井を仰いだ。


「終わったーー」

「都築有り難う。助かった」

「何良いって事。それより、千納時こそ大変だったな。少しは出し物みれたのか?」

「とりあえず、用事しながらだけどね。都築は」

「俺も、家族来てたから」

「あーー 確か小さい女の子と歩いてるのを見かけたが」

「妹、郁っていうんだ。あとかーちゃん。自分ち三人家族だけど、二人とも楽しかったみたで、店番あるからって別れた後も個人的にまわったみたい。千納時んちは誰か来た?」

「来てないよ」

「…… そっか」


(ちょっとやばかったかっ)


 そのままの姿勢で内心一瞬同様する。こんなに仕事をこなしているというのに、家族が来ていないというのは少々意外でもあり、何かあるような気もする。


(これ以上は触れない方が無難だよな)


 ただ、その後の話しが続かず、言葉を懸命に探す。すると、彼が立ち、準備室の電気を消すと、座っていた席へと腰を下ろした。


「この後、花火があがるから」

「そ、そうなんだ。自分初めてだから知らなかった。じゃあ外に見に行こうぜ!!」

「いや俺はここで良い。流石に疲れた」

「そ、そっか」

「都築は見に行っていいから。うちの学校の花火結構あがるんだ」

「へーー でもみんな結構盛り上がってるだろうし、そのテンションついてけそーもないからここでいいや。多少見れるだろ?」

「まあね」


 そう言う彼は、賑やかな声が聞こえる、窓の外を少しの間見つめる。


「なあ、都築」

「うん?」

「俺、今回凄く頑張ったと思わない?」

「ああ。思うぜ。少なからず自分がちょっと変だなって思うぐらいにはな」

「はははは。じゃあさ」


 言葉と同時に自分を見る。


「飴頂戴」

「飴?」

「だってそうだろう。前、小さい子供に頑張ったからって飴あげてた」


 彼とこんな作業をする関係になるとは想像もしていなかったが、そのきっかけとなったあの日。確かに子供に頑張ったからと言って渡した。些細な出来だと思うのだが、千納時はそれを覚えていたらしい。


「そんなんで良いの?」

「ああ」

「わかった。ちょっと待って」


 自分はポケットを漁り、いつものサクランボのど飴を彼の前に持って差し出す。


「はいよ。暑いし溶けてたらゴメン」


 すると彼がゆっくりと手を伸ばすと、飴と共に自分の手を、下から包むように握ってきたのだ。いきなりの事で硬直する中、握られた手はゆっくりと長机のジョイント部分付近に下ろされた。わけもわからず、自分は彼の顔を見る。と、安堵するような表情を浮かべつつ、机に彼自身の片腕を長机に起きその上に顔を突っ伏す。


「少しの間。のままで良い?」


 今まで気を張り続けていたのだろう。


(あんな顔見ちゃったら、駄目ともえいねーよっ)


「べ、別に構わないけどっ」


 すると、いきなり周りが明るくなったと思った瞬間。腹の底に響く花火の音がした。どうやら花火が始まったらしい。自分は色鮮やかに輝く、窓外を見つめる。


「せ、千納時っ、花火始まったぞ」

「ああ。そうみたいだね」


 やんわりとした声で応えた彼は顔を外へと向けるものの、以前感じた冷たい千納時の手は未だに握ったままだ。


「綺麗な色だな都築」

「ああ」


 歓声と光、そして花火の音が、鳴り響く。ただ、その音は自分が今まさに打ち続ける鼓動強さと似ていた。

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