第三勢力


あれから『シビリゼ』と『アルジェント』の戦いは依然続いていた。

双方譲らず、互いに手札を出しながら相手に的確にダメージを与えていく。

その攻防に視聴者達は目を奪われていた。

そんな視聴者の中には気づいた者達がいた。

ダンジョンの奥、21階層の階段の方から威圧感と共に歩いてくる一団が居ることを…。

そして、戦っていた二組もまたその雰囲気を感じ、戦いを中断した。

全員が視線を向けたそこには、仮面の少年と付き従う三体の魔物がいた。


コメント:誰だ?

コメント:…!仮面の少年…!

コメント:オルトロスのやつか!

コメント:なんでここに…

コメント:何あの魔物、見たこと無いぞ…


経験豊富なプツ巻き達でも見たことがない魔物を引き連れた少年に『アルジェント』は警戒心を強める。

少年は静かに告げる。


「はじめまして、諸君。僕はセト。人理局の局長だ」


プツ巻き達と視聴者達は少年が嗤ったような気がした。


◆◆◆


セト。

人理局の局長と名乗った少年は静かに嗤う。

『シビリゼ』も『アルジェント』もどちらも動けない。

魔物達が放つプレッシャーに汗を垂らすのみだ。

そんな二組を見て、セトは片手を上げる。

セトは指揮棒をふるうように紺青の二組を指し示す。


「Tl」


セトの後ろに控えていたリッパーマンティスとエノミティスパイダーが襲いかかる。

彼らは知る由もないが、本来リッパーマンティスは45階層、エノミティスパイダーは50階層に出現する強敵だ。

襲いかかっていないが、ムソウカブトは約55階層にいる。

そんな強敵たちが襲いかかる。


◆◆◆


エノミティスパイダーは『シビリゼ』へと向かった。

襲いかかるエノミティスパイダーに『シビリゼ』は即座に陣形を組む。


「闇よ、いばらとなりて、敵を絡めよ!」

「炎よ、あぎととなりて、敵を噛み殺せ!」


マヤの闇の茨がエノミティスパイダーの脚を絡め取り、メソトミアの炎獣の顎が続けて襲う。


「ギィイイイ」

「よし、ヤツは怯んでいる!このまま押すぞ!」


呻くエノミティスパイダーにコウガは勢いづく。

コウガとエジェトはエノミティスパイダーに斬りかかる。


「キィ…キシャァァ!」


エノミティスパイダーはソレを見て、体液を吐き出した。


「くっ…」


コウガとエジェトは避けきれず、液体を被ってしまう。

その体液からは刺激臭が襲ってきた。

その刺激臭に2人の目がやられて、視界がぼやけてくる。

そうしていると、後方から悲鳴が聞こえてきた。

まだ回復しない目のまま、後ろに意識を向けると、後方から火球が2人に向かって飛んできた。


ボンッ…!

「ぐぁっ!」

「何が…!?」


2人がなんとか痛む目を無理矢理開けると、そこには糸で雁字搦めにされたインダースと朧気な目でコチラを見るマヤとメソトミアがいた。

その後方で、エノミティスパイダーが嗤っていた。


「キィイイ…!」

「闇よ…、鞭となりて…、敵を弾け飛ばせ…」

「炎よ…、かいなとなりて…、敵を打ち払え…」


2人の詠唱に反応して、闇の鞭と炎の腕がコウガとエジェトに襲いかかる。

悪辣な魔物がそのチカラを解き放つ。


◆◆◆


リッパーマンティスは『アルジェント』に襲いかかる。

鎌の一撃を躱したプツ巻きは仲間たちに指示を出す。


「大きいとはいえカマキリだ。恐らく寒さに弱いだろう…。いい湯とポムンとは水と氷を使って動きを抑制できるか試してくれ!」

「了解。水よ、流水となりて、敵を絡め取れ」

「了解!氷よ、風となりて、敵を凍てつかせろ!」

「メメちゃんとなっさんは、矢などで翅を傷つけて飛べないようにしてくれ!」

「了解っと!」

「任せなさい!」

「風よ、螺旋となりて、敵を閉じ込めろ!」


いい湯とポムンとの合わせ技の冷気によってリッパーマンティスは動きを鈍らされてしまう。

その上、なっさんとメメちゃんの矢と棒手裏剣が翅を傷つけていく。

最後にプツ巻きの風の牢獄に囚われ、その活動を抑制されてしまった。

紺青最強と名高い『アルジェント』の連携の前に為すすべがないリッパーマンティスは身体を震わせていた。

だが、人類が到達出来ていない地に住まう猛者は冷静に鎌を振り下ろした。

その一撃で風の牢獄を吹き飛ばす。

翅は少し傷ついているが、飛ぶのに支障はない。

この程度では、試練にすら値しない。


「シャァアア!!」


リッパーマンティスは叫ぶ。

この程度かと…。

恐るべき魔物がその本能を解き放つ。

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