第4話 放棄することはできますか?
目を覚ました私の元へ、ハンナが様子を窺いに来た。汗をびっしょりかいていたらしく、寝間着が張り付いて気持ち悪かった。
「ルーナ様、お着換えをお持ちししましょう」
「えぇ、そうしてちょうだい。着替え終わったら、父の元へ向かいます」
体を拭くようにタオルと父との面会にとドレスを用意してくれるハンナ。優しく体を拭きとってくれ、先ほどの悪夢も綺麗にしてくれるようだった。
……いつ頃だったかしら? ハンナが、殺されたのは。
ハンナは、誰かに殺された。私の侍女長でもあったハンナの代わりに、新しい侍女が来たが、それは、王妃の差し金で、ひどい扱いを受けた記憶が戻ってきた。
「ハンナ」
「はい。何でございましょう?」
「身の回りには、気をつけなさい。あなたにも、危険は迫っているから」
「心配していただき、ありがとうございます。私の命など、ルーナ様に比べれば、とるに足らぬものですから」
「そうじゃないの。あなたがいなければ、私は心置きなく生活ができなくなってしまうわ」
「嬉しいお言葉です。かしこまりました。身の安全を最優先にしておきます」
優しく微笑むハンナに、「お願いね」と言い、私はドレスに着替えて父の元へと向かった。
扉の前で護衛が私を見て、挨拶をしてくれる。扉を開けてもらい、執務中の父の元へ向かった。
「ルーナ、よく来た」
「お呼びいただいたのに、体調不良ですぐにこれず……」
「よいよい。そういう日もあって当然だ。具合は、どうだ?」
「侍医に薬を処方してもらいましたので、今は、大丈夫です。それで、何用でしょうか?」
「あぁ、それだな。結婚相手の話をそろそろしなくてはならないと思ってな」
「そうですわね。婚約発表をしなくては。そういえば、ユウリ姉さまもご婚約なさるとか」
「あぁ、それなんだが、隣国へ嫁ぐことになって、今、王妃が反対している」
「そうですか。どんな殿方なのですか?」
私は父に願い出て、隣国の皇帝の姿絵を見せてもらった。とても、凛々しく、かなりの美丈夫だ。噂では、血の匂いがあたりを漂わせるほど、戦いにふけっているという話だが、絵姿からはその様子は感じ取れなかった。
「私は王位継承権がありますが、それを放棄することはできますか?」
「何を言い出すのだ!」
「お父様には、もう一人お子がいるではないですか。公爵家とのあいだに男子が」
「……それは、どうして、そのことを」
「私はこれでも、王位継承権がある姫ですよ。それくらい、知っていますわ。その子は、シーザーと言いましたね」
「そうだが……」
「次期王として、シーザーをお迎えください。私が、推薦いたしますわ! あの方のお子であれば、必ず良い王となるでしょう」
私の言葉を疑うかのような父は、驚きで目を見開いていた。私は、死に戻りしたのだ。少し大きくなった腹違いの弟のことは、よく知っている。素直で、とても賢く、王の器であることは、感じ取っていた。シーザーの母である公爵の妹は、きちんと自身の在り方をわきまえており、とても素晴らしい国母となれそうな人物だったので、私は、あの親子こそ、日の目を見てほしいと願ったのだった。
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