<台無し>
延は花瓶を床に置き、のどかを怒鳴りつけようと再び窓の穴に顔を寄せた・・が、そこにいたのは父の厳だった。
「う、父上。」
「う、とはなんだ、う、とは。お前がなかなか扉を開けぬ故、わしが破壊の許可を与えた。何か文句があるか。」
「いえ・・」
「戸を開けよ。これ以上のどかに扉を破壊されたくなくばな。」
「は・・」
延が穴の向こうから消え、代わりにカチャン、と音がしてゆっくり扉が開いた。
我に返った2人の宦官がササッと駆け寄って両側から扉を開けると、そこに延が立っていた。
長い髪は垂髪のまま、少々着崩れた白の単衣の上に、金糸銀糸で刺繍がされた豪華な青の長衣を羽織っている。柳眉に切れ長の目、形の良い唇など顔はなかなかのイケメンの部類に入るが、くしを入れていない髪がぼさぼさで、
(うーん、台無しだあ)
と、のどかは思った。
拱手の後、延は着替えと髪の手入れを申し出たが、厳は先に久方家を前に出した。
「久方光助、春子、のどかだ。今日からお前の部屋の掃除をする。乃流音娘々に使わされし掃除の達者故、わし直属の従五品下大掃官に任じた。」
「・・は・・?」
女官・宦官達も同じだったらしく、口がポカンと開いている。
「大・・掃官、とは?聞いたことのない官職ですが・・しかも父上直属の掃官?」
「わしがついさっき設けた官職だ。故に、黙って掃除されるがよい。分かったな。」
「あの、乃流音娘々が・・我が国の守護を司る女神が使わしたのが、掃官・・?」
「四の五の言うな。お前は風呂にでも入って衣服を整えよ。その間に久方の者達が掃除する。」
父に言われても、延は不審者を見る目で久方家を見ている。
「光助、早速始めよ。延、部屋を出よ。」
「・・は・・」
父であり、皇帝である厳の言葉は絶対なので、渋々部屋を出る延。
「それでは始めさせていただきます。その前に・・」
光助はのどかを見、のどかは光助と春子の前に出た。2人がピッ、と背を伸ばす。
「おはようございます!!」
側にいた延が思わず耳を塞ぐ、のどかの大音声。続いて光助と春子が、
「「おはようございます!」」
と、続け、さらにのどかが、
「これより本日の業務を始めます!!今日も笑顔でがんばろう!きれいな掃除は笑顔から!」
「「きれいな掃除は笑顔から!」」
「では開始です!」
「「はいっ!!」」
3人は戸口で頭を下げ、おもむろに延の部屋に入る。
「「「失礼いたします。」」」
「待て、私はよいとは言っておらぬぞ!」
3人を止めようとした延の襟元を、厳がガシッとつかんで止める。
そして一歩入った、のどかが言う。
「わあ~、きれいだけどきったない部屋。」
「なんだとー!」
厳に羽交い締めにされた延が、抗議の意を示すためか、懸命に腕をぶん回している。
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