救国転生-転生先で国救う

日本語遊び人

第1話 輪廻

 マンションのベランダから眺める果てしない夜空は、何もかも覆い尽くしてしまうようだ。手を招いているようにさえ見える美しい夜空。その下で身を投げれる事に一種の幸福感さえ感じる。学校にて散々と見た目を理由にいじめられる。そんな現実ともこれでおさらば。


僕はさっそく、柵の向こうへと足をまたぐ。三階から飛び降りれば確実に死に到れるはずだ。氷山のように冷酷な現実から抜け出せるという期待感と幸福感の混じった感情を味わいつつ、僕は柵を掴んでいた手を勢いよく離す。


 柵から手を離した瞬間、僕の体は浮遊感に包まれた。地面に到達するまで数秒もかからないが、その数秒が長く感じた。実際は落ちているが、空を飛んでいるような感覚は最初で最後だろう。


地面のアスファルトへとさしかかる。僕は目をつむり、死という現実を両手を広げて受け入れた。




 誰かが僕の体を小突いている。死神か、それとも三途の川への案内人だろうか。僕は黒一色だった視界を開き、死後の世界というモノをこの目で見ようとした。しかし、僕の目は意外な結果を脳に伝えた。


「....ここは」


「あっ!やっと目が覚めたんですね!転生者様!」


「....えっ?転生者?」


ぼやけていた視界のピントが合うにつれて見えて来たのは、小柄で背丈に合わない杖を持っている白い魔術師のような服装をし、目に眼鏡を付けている少女。少女は僕が目を開けた事に気づいたやいなや、日本語で転生者様と呼んだ。


いきなりの情報量に頭が沸騰してしまうかと思った。言語は日本語、周囲は日本では見ない木々。何かおかしい。何か、歪んでいる。けれど、まずは眼の前の少女に聞くのが得策だろう。


「...ちょっと、いいかい?」


「どうしたんですか?」


「ここがどこだか、さっぱり分からないんだ。教えてもらえるかな...?」


「ここですか?ここは、トーリア国の森の中です!」


ダメだ。全然知らない情報しか入ってこない。彼女からの情報も更に自分の中の混乱を深める事にしか繋がらない。一旦話題を周囲の情報から、彼女の家族に関するモノへと変えてみるのが得策だろう。


「あと、いきなりで悪いんだけど...」


「なんですか?」


「君の名前は...?」


「私の名前ですか?」


 話題を変え、いきなり彼女に名前を聞いてみた。傍から見れば見知らぬ少女に名前を聞いているという。傍から見ればあからさま過ぎる不審者。だが、今のような状況下。まだ何も分からないこの世界で、僕を導いてくれるであろう人の名前ぐらい覚えておかなければならないものだ。


「私の名前はルワって言います!」


「ルワ...」


二文字の名前が始めて脳に定着した。ここに来て始めて脳に留まったのは彼女の名前だ。ルワは黒い宝石のような瞳を純粋に向け、僕の姿を捉える彼女の興味は一瞬たりともよそ見をせず、ずっと釘付け。


「あ、そうだ!転生者様、私の家に来ませんか!?」


「え、えぇ...?!」


正に棚からぼた餅。早速家にありつけるというのは、かなりありがたい事だった。ここまで都合よく進んでも良いものだろうか。


「じゃ、じゃあ...ありがたく」


「やったぁ!じゃあ早速案内してあげます!」


僕の返事に彼女はぴょんと跳ね、僕の手を掴む。彼女は親の手を引っ張る小さな子どものように手を引いてゆく。森を出て少し歩くと街が見えてきた。少しぼやけて見えづらいが、ヨーロッパ風の町並み。


「あれが私の家がある街、アルマロスです」


 元気よく彼女は街を指さす。しかし、彼女は少し悲しげな表情を一瞬だけ見せる。僕は彼女が一瞬見せた表情を見逃しはしなかった。


「...レワは何かあの街に思う事があるの?」


「い、いや、そんな事は...」


僕が投げかけた言葉で思いがけず動揺している彼女の手の甲に、痣があるのも見つけた。だが、敢えて追求はしない。


「と、とにかく、まずは街に行きましょう!」


「そうだね」


すぐに切り替えた彼女は先程の表情を再び取り戻し、僕を街へと導いていく。


あの街には一体何があるのか、彼女が見せた少し悲しげな表情は何が理由なのか。思考に浸かりながら二人で街へと歩みを進めていった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救国転生-転生先で国救う 日本語遊び人 @Nihongo_asobi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ